572. yukikaze 2010/11/23(火) 18:55:38
お礼と言ってはなんですけれども、SS投下。
しかし史実海軍と他国空軍の編制の対応ってこれであっていたっけ?

支援SS  「大空の侠客」

  1943年1月17日。この日、つい3日前に陥落したミッドウェー航空基地において、
  凄まじい爆音が鳴り響いていた。
  名状しがたいほどの騒音に、航空基地陥落以降、突貫工事に狩り出されて寝不足気味
  の工兵隊の中には、騒音を立て続ける存在に対して罵詈雑言を呟くものもいたのだが、
  それも上官や同僚にある事実を知らされると無言になり、自分達が割り当てられた仕事を、
  それまでよりも熱意を込めて作業に従事していた。
  そんな中、航空基地の管制塔から、この騒音集団の先頭に位置する存在に向かって、指令が入る。
「忠臣蔵より全機、規定どおりに発信を許可する。武運を祈っていますぜ、親分」
「おお。派手に喧嘩にいってくらぁな」
  いつものように、そう軽口を叩きながら、ハワイ夜襲部隊攻撃隊隊長である野中五郎中佐は、
  その口調とは裏腹に丁寧にスロットルレバーに手をかけ発進を始めながら、心中そっと溜息をつく。
(しかしまあ・・・上も随分と無茶をしやがるなぁ。そりゃあアメちゃんも予期しないだろうけど、
  だからといって、こっちの身にもなってくれよ。レニングラードにベルリンと俸給分以上の仕事してんだぜ)
  無論、こうした愚痴を、ぼやいた顔で部下達に見せるようなことはしない。指揮官になってから彼が己に課していたのは、
  いかなる時でもどんな場合においても、侠客の大親分の如く、勇敢さと安心感を部下たちの前で示す事であった。
「野郎共。喧嘩の準備はいいかぁ!!」
「合点承知!!」
  出撃時のいつもの作法を終え、「野中一家」は進撃を開始する。彼らが目指すのは、アメリカ合衆国海軍最大にして、
  そして最後の砦とも言うべきハワイであった。

「ハワイ・・・ですか?」
  トラックに進出している第11航空艦隊第22航空戦隊司令部において、美幌海軍航空隊第一攻撃隊隊長である
  野中五郎中佐は、突然司令部に呼び出しを受けるや否や、司令官の有馬正文少将にそう告げられ、
  思わず問い返してしまう。
「そうだ。美幌空の爆撃機部隊全てを投入して、今朝、陥落したミッドウェーに進出し、
  可及的速やかにハワイ攻撃を執り行えと言うのが、軍令部からの指令だ」
(随分と急な話だな・・・おい)
  野中が困惑するのも無理はなかった。
  現在、日本海軍において重爆を保有しているのは、半島で睨みを利かせている元山空と鹿屋空、
  そして台湾で再編を始めている高雄空と、自分達が所属し、そして中部太平洋における抑止力
  として置かれた美幌空である。(他に後、4部隊ほど新編訓練をしている)
「困惑するのも分かるよ。実際、うちの司令部もてんてこ舞いだ」
  有馬はそう言うと、自分達が移動することになった理由を告げる。
「上は、短期戦で決着を付けたいようだ。中国・フィリピンと勝ち戦を続けては来たが、
  未だに彼らの戦力は無視できないし、それに休戦期間があったとはいえ、2年以上も戦争を続けている以上、
  これ以上の戦争は、内政上避けたいと言うのが上の意向らしい」
  事が政治に関わってきた事から、野中は敢えて口を挟もうとはしなかった。軍人が政治に関わるとろくな事にならない
  と言うのが彼の認識であり、実際、源田実の末路や、ベルリン空爆でのイギリス空軍のやり方を見ることで、
  彼にとっては確信に近い認識になっていた。
「つまり・・・ハワイ攻略を容易くする為に、美幌空の重爆部隊でハワイを平らにしてのけろと言うことでしょうか?」
「上が求めているのはまさしくそれだな。美幌空の重爆部隊による断続した空襲で、
  航空要塞と化しているハワイの戦力を漸減し、攻略部隊の被害を減らしたいらしい」
(ヒデェ話だ。そりゃあ艦隊にとってはいい話なのかもしれないが、矢面に立つのは俺たちだぜ)
573. yukikaze 2010/11/23(火) 18:58:42
  大津波以降、補給が先細っているとはいえ、痩せても枯れても太平洋艦隊の根拠地であるハワイに殴り込みをかけるのが何を意味するのか、
  軍事的には何の意味もなく、主に政治的な意味で強行されたベルリン空爆で大損害を受けた当事者である野中にとって、火を見るより明らかであった。
「お話は分かりましたが、戦力は足りるのでしょうか?  美幌空の重爆部隊はうちの航空隊64機だけですが。これではジリ貧になりかねませんが」
  野中の懸念も尤もであった。日本海軍の航空部隊編成は、「小隊」→「中隊」→「飛行隊」→「航空隊」→「航空戦隊」→「航空艦隊」であった。
  これを他国風に直すと、「中隊」までは同じで、「飛行隊→航空大隊」「航空隊→航空団」「航空戦隊→航空師団」「航空艦隊→航空軍」となる。
  そして日本海軍の重爆部隊は、大隊規模としては他国よりも上であるが(日本が64機であるのに対し、他国は大体27機〜48機)、
  その反面、航空部隊拡充に爆撃機の生産が追いつかなかったことと、他国と違い、航空団が戦闘機隊と爆撃機隊で編制されていたことから、
  航空団以上になると、一気に戦力が目減りすることになっていた。(他国が最低でも80機程度、最大では160機近くであるのに対し、海軍は64機のまま)
  無論、日本海軍の基地航空派はこうした事態を憂慮し、戦力拡大に尽力しているのだが、前述の理由から遅々として進まないのが実情であった。
(彼らは知らないことであったが、これは夢幻会の意向もあった。弾道弾が完成した後、重爆の役割が低下するのは自明の理であったことから、
  戦後にいくつかできた部隊を統合して運用した方が、コスト的にマシであるという声が強かったのだ)
「それについては、嶋田総理直々に、継続して戦力を配備できるよう、上に念押しされたそうだ。ついでに言えば、少しでも被害を減らすために、
  昼間空襲を止めて夜間空襲のみとし、併せて電子戦機の投入や、搭乗員を助けるために、救難飛行艇や潜水艦も配備するように命じられている」
  その言葉に、野中は軽く頷いた。嶋田については、爆撃機乗りとしては、戦闘機無用論の一件で、思いっきり冷水を浴びせられたことから、
  感情的にあまり良い思いはしていなかったが(何しろ爆撃機部隊拡充があれでストップしたのだ。まあ、理性の面では、嶋田の意見に全面的に賛同しているし、
  連山での彼の「搭乗員を絶対基地に戻れるようにしろ」と、高価になっても、搭乗員の命を優先するような機体作成を命じた彼の姿勢には、素直に有難いと思っていたが)、
  自分たちを使い捨ての駒のように扱っていないことには好感が持てた。
「で・・・出発は何時になるのでしょうか?」
  そう問うた時の、有馬少将の顔は、酷く同情的なものだった。
「今日だよ。具体的には今すぐ」
  野中が天を仰ぐのを批判するものは、誰もいなかった。

(で・・・こうなっちまった訳だ)
  眠い目をしょぼつかせながら、野中は操縦桿を握り、見張り員に、後続がきちんと付いてきているかを確認させる。
  自分の機体はあまり損害らしい損害は受けていないが、部下の中には、飛んでいるのがやっとという機体もちらほら
  見受けられた。もっとも、敵の本陣に攻め込んでこれだけの被害ですんだのは、第三者から見れば軽微と言ってよかったであろう。
  もっとも、部下思いの野中にしてみれば、確実に失われた機体のことを思うと、軽微などと言う言葉で納得することは出来なかったが。
  眼下にミッドウェー島が見え始め、乗員に自分達が最後に降りる旨を伝えながら、野中は一人ごちる。
(ちくしょう。電子戦機持っていって、おまけに奇襲状態で攻め込んだというのにこの有様かよ。これでアメちゃんが本腰を入れてやり始めたら、
  一体どんだけの被害になるんだよ)
  これからの苦闘に辟易としながらも、彼は自らが海軍の槍であるという任務を放棄するつもりはなかった。
  何故ならば、それこそが彼にとっての誇りであったからだ。

  後に「大空の侠客」として、小説や映画にもなることになる、ミッドウェー航空隊(通称「野中一家」)
  の栄光と苦闘に満ちた戦いは始まったばかりである。

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最終更新:2012年01月01日 01:53