24. ham 2009/03/21(土) 17:29:31
作者  ham

1939年(昭和14年)12月15日。
アメリカでは「風と共に去りぬ」が封切られているこの日、フィンランドの上空で新たなエースが誕生しようとしていた。
「SB撃墜!」
「I15撃墜!」
それが彼この話の主人公「松長陽助」である。
「エースまであと1機。何かいないか?」
そう、彼は周りを見て戦隊長機を攻撃しようとしている1機を見つけた。
「!。I16!」
彼は機速を増し、I16に威嚇射撃を行いそのまま巴戦に入った。
しかし、不慣れなパイロット故かすぐにI16は旋回をやめてしまった。
「九六に勝つんだったら、もっと腕を磨いてから来い!!!」
そう言って彼はI16に止めをさした。


提督たちの憂鬱  支援SS  陸軍航空隊編  〜狼はこうして生まれた〜


この松長陽助という男は歴史上では実在しない人物である。
では、なぜ彼がここにいるのか?
そう、彼は逆行者なのだ。
逆行者には倉崎重蔵のように実在しないはずの人物が居り、彼もその一人であった。
転生前の彼は航空自衛隊のパイロットだったが、交通事故で亡くなりこの世界に転生したのだ。
彼はもう一度空を飛びたいと思い、陸軍士官学校で航空課程を修了し陸軍航空隊に入隊。
偶然見物に来ていた東條の目に留まり、彼が逆行者とわかり夢幻会に迎えたのだ。
彼自身、幼少の頃から歴史が違うことに気づいており、この世界の人間と前世のことを話せない寂しさがあったため二つ返事で会に入った。
もともと話相手が欲しかっただけだが、倉崎重蔵と意気投合し航空機開発のテストパイロットとして働くようになった。
そして、彼は冬戦争開始により日本からの義勇軍に参加し、現在に至るのである。

「さっきは助かった。礼を言うよ。」
空戦を終え、ヘルシンキのマルミ空港に帰還した松長は、機体から降りて整備員に整備を任せているとさっきの空戦で助けた加藤建夫戦隊長が礼を言いに来た。
「そんな、頭を上げてください。自分はただ敵機を撃墜しただけです。」
頭を下げられて、彼は脱水症状になるかというくらいの冷や汗をかいた。
空自に所属していた彼は過去の撃墜王に詳しく、その一人である加藤に頭を下げられたとなれば当然であった。
「いや、助けてもらったことには変わりはない。礼くらい言わせてくれないか?」
「はぁ・・・。」
そういって加藤は彼に礼を言って、指揮所に戻っていった。
「大丈夫か?。汗がすごいぞ。熱でもあるのか?」
「これは冷や汗ですよ。」
そう彼に話し掛けてきたのは第2中隊長の黒江保彦中尉。
彼もいわずと知れた撃墜王である。
「さっき戦隊長に礼を言われたからか?」
「見てたんですか?」
「まぁな。」
そう、黒江は笑いながら言った。
「笑わないでください。他人事じゃあるまいし。」
「実際、他人事だろ。」
そう言われた彼は諦めて指揮所に戦果報告に向かった。
「黒江さんは何機落としました?」
「4機だ。お前は?」
「3機です。」
「となると、これまでのを合わせて5機か。お前もこれで撃墜王の仲間入りだな。」
「黒江さんにはまだまだ及びませんよ。」
「謙遜するな。よし、今日はお前の撃墜王入り祝いに飲むか。」
「また飲むんですか?。もしかしてまた俺にやらせるんですか?」
「いや、今日はお前の祝いだ。俺が行くよ。」
「それは助かります。最近、酒保の視線を感じて困っていたんです。」
「そっちの趣味があったのか?」
「疑われてるんですよ!!!」
25. ham 2009/03/21(土) 17:30:46
その後、彼は連日の空戦で撃墜数を増やしていった。
そんな中、昭和15年の正月。
松長は加藤にあることを頼みに来た。
「機体に絵を描きたい?」
「はい。だめでしょうか・・・。」
「レッドバロンみたいに目立ちたいのか?」
「まぁ・・・。」
「・・・かまわんよ。」
「いいんですか!?」
「ああ。俺からの正月祝いだ。」
「ありがとうございます!!!」
「ただし、条件がある。」
「なんでしょう?」
「俺の機にも描いてくれないか?」
「戦隊長のにもですか?。」
「ああ、絵はお前に任せる。」
「よろしいんですか?」
「お前からの正月祝いということでどうだ?」
「わかりました。」

松長はペンキを持って自分と加藤の機体に絵を描いた。
「ほう、うまいもんだな。」
そう加藤は自分の愛機に描かれた絵を見ていった。
加藤の機体の胴体に今まさに獲物に飛びかかろうとしている隼の絵が描かれていた。
「真上から一気に急降下して襲い掛かる隼は我が隊にぴったりだと思いまして。」
「たしかに。俺たちの戦法は隼に似ているな。」
そう加藤は隼を見て感心した。
「お前のそれは狼か?」
「はい。」
「ほう・・・。」
松長の機体には牙を出し獰猛な狼の絵が描かれていた。
「なぁ、俺のにも戦隊長と同じのを描いてくれないか?」
黒江が二人の機体に描かれた絵を見て松長に頼んできた。
「黒江、抜け駆けするな。松長、俺のにも描いてくれ。」
「ずるいですよ、中隊長。自分のにも描いてください。」
こうして、松長の描いた絵は隊内で人気となりすべての機体に隼の絵が描かれた。
その後、部隊は「加藤隼戦闘隊」として新聞に取り上げられ、当の松長本人は機体が冬季戦仕様として機体が白に塗られていたこともあり「白狼」と渾名されることになったのであった。

<完>

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最終更新:2012年01月02日 23:50