451 :ライスイン:2014/11/30(日) 21:31:32
1905年8月某日 大英帝国 首都ロンドン
「まさかこんな事態になるとはな。」
首相を務めるアーサー・バルフォアがため息をこぼす。
「まさかあのロシア皇帝が助けを求めるとは・・・。」
「わが国でも反日世論が徐々にではですが大きくなっています。」
閣僚らも悩んでいた。
イギリスは極東の安定のため、孤立を捨て有色人種とはいえ大国である日本と手を結んだのだ。
ロシアとの戦争になり、一時は日本の独立すら危ぶまれたものの開戦以来の勝利の連続に
”組んでおいて良かった” と彼らも一時は大喜びした。
また日本の脅威をあおって旧式艦艇を欧州諸国に売り込むことも出来た。しかしこの有様である。
「情報部もこの兆候すら掴めなかったか。」
ある閣僚がそう呟く。兆候すら掴めれば妨害することも可能であったからだ。
「日本からは同盟に基づく参戦の要請がありましたが・・・。」
フィッツモーリス外相が報告する。
「緊急事態に備えて建造速度を速めておいたドレッドノート(この世界では1905年初頭に建造開始)が間もなく完成しますが」
フィッシャー第1海軍卿も意見を述べる。しかし
「確かにロイヤルネイビーなら他の欧州諸国の海軍をまとめて葬れるだろうが・・・ボーア戦争の痛手から回復しきってない今戦争は避けたい。」
「では・・・」
首相の言葉に外相が反応する。
「日本との同盟を解消して中立を宣言する。」
「仕方ありませんな、ですがこのまま破棄しては我が国の評価が悪化します。なにより日本から猛烈に恨まれます。」
「ではアメリカと共に講和を仲介するのはどうですかな?うまくすれば日本から仲介料が手に入るかもしれません。」
自国の評価が悪化することに懸念を示す外相に閣僚の一人が講和の仲介を提案する。
「現状では日本側が勝っていますがこれらの国々が一斉に殴り掛かれば不利になります。条件はどうしましょうか?」
「ならば日本側の大陸からの撤退と賠償金に各種兵器の提供が妥当なところだろう。日本も欧州との全面戦争は避けたいはずだ。」
「よし、それでいこう。」
バルフォア首相は決断した。・・・・・これが列強の宣戦布告から英国の同盟破棄通告の間に起った出来事である。
孤立大陸 第2話「茶番の講和会議」 修正版
453 :ライスイン:2014/11/30(日) 21:32:06
1905年9月10日 アメリカ合衆国 ポーツマス
此処には戦争中の日露及び未交戦まがら宣戦布告した欧州各国(+清国)や講和仲介国の米英の代表らが集結していた。
日本 ロシア ドイツ フランス イタリア オーストリア オランダ ベルギー スペイン ポルトガル 清国 アメリカ イギリス。
そして戦争勃発時に勢いで宣戦布告しながら今までスルーされてきた(僅かな義勇兵は派遣していた)モンテネグロ。
因みに李氏朝鮮は 「邪魔だから来るな」 と清国とロシアに参加を拒否され来ていなかった(※1)。
日本は講和前に暴徒鎮圧の名目で朝鮮国内で反日勢力の摘発を行っていたがこの時に高宗とその一族や側近らの国外脱出を見逃す失態を犯していた(※2)。
「ふざけているのかっ!!こんな要求が本気で受け入れられると思っているのか!!」
日本の代表である小村寿太郎外相が大声で吠えた。
「受け入れる・いれないではなく受け入れなければならないのですよ。神聖なるロシアの・・・白人の領土を侵した代償にね。」
ロシアの代表セルゲイ・ウィッテはボロ負け状態にも拘らず、欧州各国が味方に付いているせいか強気の態度で各国の要求をまとめた文書を見せていた。
それによると
ロシア:占領地の返還、満州・朝鮮からの全面撤退、賠償金&賠償艦、北海道亜大陸及び周辺諸島・樺太南部の割譲
フランス:賠償金、長崎・佐賀・福岡・大分県の割譲
ドイツ:賠償金、四国全域の割譲
イタリア:賠償金&賠償艦、熊本県の割譲、陸戦兵器の譲渡
オーストリア:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡
ベルギー:賠償金&賠償艦、鹿児島・宮崎県の割譲及び駐留・維持経費の全面負担
オランダ:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡、伊豆半島の割譲
スペイン:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡
ポルトガル:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡、マカオを侵略しないという天皇および全閣僚の署名入りの誓約書。
モンテネグロ:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡
清国:賠償金&賠償艦、陸戦兵器の譲渡、海南島の返還、山口・広島・島根県及び対馬・佐渡島・竹島の割譲、朝鮮が清国の主権下にあることを認める
これらに加えて各国に最恵国待遇を与え、領海内の自由通行や港の自由使用を認めよという真に狂った要求であった
「多くの欧州諸国が味方に付いたとはいえ現実負けているのはロシア側でしょう、これではまるで戦勝国による降伏勧告ですぞ。」
あまりの要求の程さに同席していたセオドア・ルーズベルト米大統領が苦言を呈した。
彼の目から見ても明らかに常軌を逸していたからだ。
454 :ライスイン:2014/11/30(日) 21:32:42
「大統領閣下、これは文明国同士の崇高なる戦争ではありません。分を弁えずに神聖な白人の領土を荒らした黄色猿への懲罰なのです。」
「そうです、日本がこれを受け入れることこそがアジアの・・・そして世界の平和に繋がるのです。」
ルーズベルト大統領の苦言を意に介さずにベルギー代表、続いてドイツ代表が発言する。発言しない他の代表たちも同意する様に肯いていた。
「我が国は日本側の大陸撤退と賠償金及び賠償兵器による講和を提案します。これ以上争っても不毛なだけです。平和の為に決断すべきです。」
もう一つの講和仲介国?である英国の大使が意見を述べる。
だが日本から毟り取ろうとする欧州側は聞き入れることなく、日本も裏切った上に自らを弱体化させようとする提案を聞き入れるはずがなかった。
欧州側がこのような状態なので交渉が真面に行われるはずもなく、おまけに休憩時間中に善意の仲介者面したイギリスから”講和の仲介料として沖縄県の譲渡”を求めてくるに至る。
この事態に当然のことながら日本側は席を蹴り、講和を仲介したルーズベルト米大統領も匙を投げた。
もっとも講和会議の様子が取材していたアメリカの新聞社によって逐一広報されたおかげで米国民の間に欧州諸国への嫌悪感とモンロー主義の正しさを印象付けていた。
講和会議の決裂を受けた日本は欧州各国の軍主力がアジア入りする前に各国の拠点の攻略・破壊を行うことを決定。
同時にハバロフスクを防衛設備を破壊した後に撤退(ただしウラジオストック等は確保したまま防備強化)、満州・ロシア国境の要塞化。
朝鮮半島内の大規模な反日勢力駆除作戦や上海租界からの日本居留民撤退、清国沿岸部の拠点への艦砲射撃による破壊が策定された。
それらの準備を行っている最中に日本に更なる凶報が舞い込む。
”オスマントルコ、欧州側に組しての対日宣戦布告”であった。
これは少しでも味方を増やそうとした欧州側の策動の結果であり、”同じ有色人種すら日本に味方しない”ことを示す目的もあった。
当初はロシアとの険悪すぎる関係もあり上手く行かないと思われたがスルタンや政府・軍上層部への賄賂や蜂蜜工作が行われ、
そして独仏による陸海の兵器供与や対日戦勝利後の利益分配などをチラつかされた結果、国民の反対を押し切っての宣戦布告となったのであった。
時は下り1905年10月20日、遂に各国において調整が続けられていた対日派遣軍の陣容が決定した。主要な戦力だけでも
ロシア 戦艦:モスクワ級(旧英R級 ※3)4隻 モスクワ、ウラジオストック、ハバロフスク、オデッサ、ボロディノ級スラヴァ
防護巡洋艦:ボガトィーリ級3隻
フランス 戦艦:ブレニュス、シャルル・マルテル、カルノー、ジョーレギベリ、マッセナ、ブーヴェ、シャルルマーニュ級3隻、イエナ
装甲巡洋艦:デュプレクス級3隻、デュピュイ・ド・ローム
防護巡洋艦:フリアン級3隻、アルジェ級3隻 陸軍:本国兵3個師団、アフリカ植民地兵2個師団
ドイツ 戦艦:カイザーフリードリヒ級5隻、ヴィッテルスバッハ級5隻
装甲巡洋艦:フェルスト・ビスマルク、プリンツ・ハインリヒ
防護巡洋艦:ヴィクトリア・ルイーゼ級5隻、ゲフィオン
陸軍:3個師団
455 :ライスイン:2014/11/30(日) 21:33:19
イタリア 戦艦:レ・ウンベルト級3隻、ルッジェーロ・ディ・ラウリア級3隻
装甲巡洋艦:マルコ・ポーロ、ヴエットール・ピサニ級3隻
防護巡洋艦:エトナ級3隻、ジョバンニ・バウサン 陸軍:1個師団
オーストリア 戦艦:ハプスブルク級3隻、装甲巡洋艦:カイゼリン・ウント・ケーニギン・マリア・テレジア
防護巡洋艦:カイザー・フランツ・ヨーゼフ1世級2隻 陸軍:1個師団
ベルギー 戦艦ブリュッセル(旧英バーフラー級戦艦バーフラー) 陸軍:1個旅団
オランダ 戦艦:マールテン・ハーペルソン・トロンプ、コーニンギン・レゲンテス級海防戦艦3隻
陸軍:本国兵1個旅団、植民地兵1個師団(現地にて動員予定)
スペイン 戦艦:ペラヨ、バルセロナ級(旧英R級)2隻 バルセロナ、カタルーニャ
装甲巡洋艦エンペラドル・カルロス5世
陸軍:1個師団、1個旅団
ポルトガル 戦艦リスボン(旧英バーフラー級戦艦センチュリオン) 陸軍:1個旅団
モンテネグロ:派遣艦なし。陸軍:軽装備の2個中隊をロシア指揮下でロシア輸送船にて派遣。
トルコ:トゥルグート・レイス級戦艦(旧独ブランデンブルク級)2隻 供与後間もない為、ドイツ要員にて航海中も訓練。
防護巡洋艦ハミディイェ 陸軍:2個師団
戦艦44隻、装甲巡洋艦12隻、防護巡洋艦19隻 陸軍14個師団、4個旅団、2個中隊という膨大な戦力であった。
これらとは別にロシア軍は欧州方面の兵力や新たに徴兵したものを合わせて50万人の兵力を編成しアジア方面へ陸路向かわせることになった。
もっとも膨大な人口を誇り、数だけは多い清国軍ではあるが、対日侵攻軍はまったく編成されておらず、計画すら碌なものがなかった。
(海軍が消滅しているため運ぶ船さえない。)。
また、清国内に亡命政府を構えた朝鮮王国(※4)であるが編成した軍隊である”朝鮮光復軍”は数も少なく碌な装備もないチンピラ集団同然だった。
これらの兵力が1906年春以降にはアジアに到達する。遂に戦争は米英こそ直接参加していないものの世界大戦になりつつあった。
※1:日本国王(天皇)は朝鮮国王に臣下の礼をとる・・などふざけた要求をロシアや清に伝えた為、属国の分際で図に乗るなと激怒された。
※2:朝鮮滞在の英国商人が同盟解消により上海へ移動する際に賄賂をもらって行った(荷に隠れさせたり従者などに変装させたり)。
後に発覚し、この商人は日本の勢力圏から出禁をくらった。またこのおかげで一層日英関係が悪化した。
※3:戦争直前に第3国経由でロシアへ売却。英国としてはロシアを密に強化し日本を不利にさせることで自分たちにより依存させる狙いがあった。
※4:最初は”大韓帝国”を使い続けようとしたが「属国の癖に生意気アル」や「分を弁えろ」と怖い人たちにOHANASHIされ朝鮮王国に改名した。
456 :ライスイン:2014/11/30(日) 21:34:14
今回は講和会議とその前後、および対日派遣軍を取り上げてみなした。
ちょっとやりすぎかと思いましたが欧州諸国にはおもいっきり増長させてみました。そしてヒッキー化しつつあるアメリカ。
ついでにトルコもロシア側に加えてみました(無理あるかな?)
修正部分として書き忘れた※4の追加や英国による仲介案の提示、防護巡洋艦の追加などです。
駆逐艦や工作艦・病院船などの支援艦艇は省いています。
~予告~
欧州を出発した同盟軍、膨大な戦力に彼らは勝利を確信していた。
しかしその頃、アジアの植民地では阿鼻叫喚の地獄絵図が広がっていた。
次回”白の落日の始まり” 彼らは地獄を見るのか?
最終更新:2015年01月31日 19:49