988. ひゅうが 2011/12/02(金) 18:00:51
>>968-988
「リバティ・ベルが鳴る日には」蛇足

――1962年4月15日  大日本帝国  帝都東京

「ああ、君か。スコルツェニー。」

「どうも『艦長』。たまたま近くに寄る用事が出来ましたので寄らせていただきました。」

「相変わらず大胆不敵というか・・・公的には君の祖国とこの国は敵対未満友好未満の関係だろう?最近のエリザベス王女訪日で感情的にケリがやっとついた英国人と同レベルだったはずだ。」

「まぁ、僕も稼業を引退してから各国の連絡役をやっていますからね。同じく引退した元総統閣下の名代を仰せつかってますので気楽にやらせてもらっています。それと、ここでは僕はクレメント中佐で。」

「分かっているよ。」

ジョセフ・エンライト退役中将は笑った。
下町と呼ばれる一角に屋敷を構える彼は、パシフィック・アメリカ同盟(太平洋岸同盟)、一般的には西米と呼ばれるゆるやかな旧西海岸諸州の連合体が保有する海軍の名誉顧問的な役職を仰せつかっていた。
彼は、西海岸に脱出に成功していた妻子を呼び寄せてあの大西洋での一件以来友誼を結んだ五藤存知大将(そろそろ退役の話がでている)や辻正信というこの国のフィクサーの一人の庇護下に入っていた。
そうでないと、どこからか「リバティ・ベル計画」をかぎつけた連中に狙われるかもしれないとその頃の彼は本気で心配していたのだ。

「あの娘は・・・大きくなりましたか?」

「ああ。結婚式の時にも言っていたよなお前。」

「まぁ定型句ですよ。『ノーチラス会』にも出させていただいて、それであの娘の成長を遠くから見守ることができた。艦長たちには感謝しています。」

「『欧州一危険な男』だったか?ソ連の一件や少し前の半島危機では随分名を上げたと聞いているぞ?」

「まぁ、冒険があればそこに僕はいますからね。総統にはずいぶん好きにやらせてもらってます。」

「あのことは報告せずに?」

もちろん。と、オットー・スコルツェニーは頷いた。
彼ら二人の「娘」のような存在である辻氏の養女のことは、辻氏と彼らだけの秘密ということになっていた。
もちろん、元総統で今はドイツで悠々自適に画家生活を送っているアドルフ・ヒトラーにも秘密だった。


「今度、あのコンテナの中身の一部をニューヨークに持っていくことになっている。」

「大使に任命されたらしいですね婿殿は。」

ああ。自慢の娘婿だ。とエンライトは笑った。

「今日の『ノーチラス会』には出るか?そのために寄ってくれたのだろう?
今日はマリア夫妻の壮行会も兼ねている予定なんだが。」

ありがたいですな。とスコルツェニーはふてぶてしい表情で頷いた。
と、呼び鈴が鳴った。

二人は、はじかれたように玄関へ向かう。
ドアを開けると、エンライトの妻と、若い二人の男女がそこには立っていた。
二人とも、大使として赴任するにあたって宮中でこの国の主夫妻とお茶をしてきた帰りらしく、フォーマルな格好をしている。

「ただいま!」

白い髪の女性がはじけるような表情で言った。

「おかえり。」

「おかえり!」

二人の男は、つられて一緒に笑った。


〜完〜

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最終更新:2012年01月02日 06:46