提督たちの憂鬱支援SS The Bridge on the River Mae Klong

1947年 タイ王国 カンチャナブリ郊外
「しかし橋が架かったくらいで、こんな盛大な式典をやる必要あるんでしょうか。全線開通もまだなのに。」
「…おまえはこの前タイに来たばかりだからな。これを架けるのにどれだけ苦労したか知らないからそんなことが言えるんだ。」

今日、メークローン川に架けられた鉄道橋の竣工式が行われている。


泰緬鉄道・・・その計画自体は戦前からあったが、複雑な地形による工事の困難さから着工されることはなかった。
しかし戦後、東南アジアの活性化のためにインドシナ半島横断鉄道が計画されると、泰緬鉄道の建設も計画された。
泰緬鉄道が史実で廃線になったのは、シンガポールの重要性の低下に繋がるからだ。だが日本にとって、華人の根拠地でありイギリス利権の残るシンガポールが多少衰退しても問題なかったため、敷設が決定した。
もっとも史実のような急ピッチで進めるつもりはなく、準備にも時間をかける予定だった。

事態が急変したのはインドをサイクロンが襲い、伝染病の罹患者を含む難民がビルマに押し寄せる恐れが出てきたころだ。
防衛線を敷くためにビルマ方面軍を増強したが、物資や兵員を送るにはマレー半島を廻る海運よりも鉄道を敷いて送った方が早い。
史実のデータもあってルートなどの最低限の調査は早く終わったため、乾季である1945年の春に急遽建設が始まった。

鉄道建設には日本からは陸軍鉄道連隊,国鉄,鉄道系建設会社が参加し、タイ王国国有鉄道局,ビルマ鉄道委員会が協力した。多数の現地労働者を雇うと同時に、多数の工作機械が持ち込まれた。
タイ,ビルマ双方から工事をスタートしたが、困難の連続であった。雨季にはぬかるみができて工事が進まず、暑季には熱中症で倒れる者が続出、さらにマラリアも流行している。
労働者には十分な食事,給料,休息が与えられている。日本本土からは多くの軍医と医薬品が送られてくる。それでも、毎日病人や死傷者が出ている。

      • 「 それで、泰緬鉄道建設の中でも難工事の一つだったのが、この橋の架設だ。メークローン川の急流が橋を架けるのを邪魔していていたんだ。」
「どうやって架けたんですか?」
「少し下流に木製の仮橋を作って資材を運び、対岸からも工事をやったんだ。だが仮橋を架けるのにも何人も犠牲者が出た…」
河岸にある慰霊碑には、彼らの名前も刻まれている。
「さらに、その木橋も一度雨季の増水で流されてしまってな、作り直すのに時間がかかったよ。」

「すみません、質問よろしいでしょうか。」日本人らしき男性が話しかけてきた。隣には白人男性が立っている。
「ええと、あなた達は?」
「こちらはフィナンシャル・タイムズ記者のジョン・スミス氏です。私は通訳の永瀬隆といいます。」
どうやら取材をしているようだ。そういえば工事中にも映画監督とスタッフが来たが、記録映画を撮っていたらしい。


…インタビューは進み、最後の質問に移った。
「では最後に、何か変わったエピソードはありませんか。」
「ああ…

あれは暑い日だった。
あまりに暑いんで、みんなだらだらと作業していた。俺は本土で開発されたスポーツドリンクを飲みながら頑張っていたんだが、それでも普段より効率が下がっていた。

そんな中、陸軍将校が視察に来た。まあだらけているところを思いきり見られてしまったんだが、彼は現場監督に言って木陰で休ませてくれた。

少しして彼はこう言った。
『この地に鉄道を通すことは、自然との戦争としか言い表せない。この橋はまさに、戦場へかける橋である。
諸君らは東南アジアのため、日本のため、橋を架けなければならない。雨に、太陽に、マラリア蚊に、そしてクウェー川の激流に打ち勝たなければならない。
無理をする必要はない、だが一歩ずつ確実に進めてほしい。』

みんな彼の激励に感動してね、午後からはガンバって働いたよ。タイ人にも気迫が伝わったのか、動きが良くなった。

この話を映画監督にも話したら気に入ってね、彼の激励の一部をタイトルに借用するって言っていたな。」

でも彼、一つ間違えていたな。この川の名前はクウェー川じゃないぞ。

泰緬鉄道は少なくない犠牲者を出しながらも、1949年に全線開通した。工作機械などは充実していたが、安全性にも気を使い工事を行ったので史実よりも工事期間が長くなった。
だが、現在でも防衛線まで物資を届けるのに活躍している。
映画のヒットもあり、今では観光地としても知られている。

なお件の将校は一部から「戦場にかける橋(キリッ」「ビルマの戯言」とからかわれたという。
(完)

あとがき
この世界だと太平洋戦争の映画はどんな作品が撮られるのでしょうか。同監督の同作品でも内容が変化しているでしょうね。

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最終更新:2016年02月14日 01:07