817. ひゅうが 2011/11/03(木) 12:46:31
>>815
魔人と聞いて思いついた。後悔はしていない。

ネタSS――帝国の守護者

――1944年  日本  帝都東京

「由佳理かわいいよ由佳理。」

「馬鹿やってないで仕事しましょうよ。辰宮くん。」

「何を言われますか加藤さん。私にとって由佳理を愛でるのは日課。課業にも勝ることなのですよ。」

「はぁ・・・この妹馬鹿が・・・」

日本帝国神祇院。皇室の祭祀を執り行い、日本各地の習合神道や教派神道を管轄する宮内省の外郭団体は、虎ノ門の大蔵省の近くにある。
その一室で、神祇院次官補である加藤保憲予備役准将は溜息をついていた。

元大蔵官僚にして現在は神祇院に出向している辰宮洋一郎は、自宅ではストイックなくせに仕事場ではこのように義妹に萌えているダメ男だった。
仕事はできる。あの大蔵省主計局で辻正信の懐刀として大正の関東大震災の復興にあたり財源確保に辣腕をふるったことでもそれは明らかだ。

だが、辻を経由して知り合った秘密組織MMJの陰謀(?)により、彼は大蔵省にいられなくなった。
理由はMMJ幹部の以下の言葉に要約される。

「妹でも、愛があれば関係ないよね!」

そう。この男、実妹に恋し、悩み苦しんでいたところをMMJに助けられたのだ。
幸い(?)なことに、妹である辰宮由佳理の方も道ならぬ思いを抱いており、部下の恋路を応援したMMJの暗躍により「実は義理の兄妹だったんだよ!」的な事実が「発覚」。
盛大にカミングアウトをやらかした挙句、有能な彼のほとぼりを冷まさせるためにこの神祇院送りとなっていたのである。

加藤の「中の人」としては頭痛を覚えたくなる状況だった。
それはそうだ。誰だって、自分が「帝都を滅ぼす魔人」として登場する某作品の影響を受けて目方恵子という名の薙刀の名手に命を狙われていたところに彼がやってくるなど考えたくもない。

「それより、仕事だ。辰宮くん。今回は私も出張らなければならない。」

「ほう。本邦随一の呪力を誇る裏土御門流の加藤保憲さん自らが出張とは。欧州ですか?」

鋭いな。と加藤は、人のよさそうなわりにはどこか胡散臭い顔をしかめた。
やれやれ。また恵子が拗ねるな。新婚旅行が退魔旅行になって以来こういうことが多い。

「そうだ。アルスターの州境。アイルのドルイドから流れた過激派が何か企んでいるらしい。あそこはアイスランドからブリテンを通りアルプスに走る龍脈が地に出ているところだ。トウーレ協会もかかわっているとの話だ。」

「チベットの紅帽派からの情報ですか。それはおおごとだ。」

そうだ。と、出羽の瀬に降る土蜘蛛の末裔である加藤保憲は言った。

「帝国に仇名すものは、我らが討ち果たさねばならない。英独間に波風をたてるうえ、不安定な北大西洋の大地を揺らすわけにはいかないのだ。」


――ある作品では帝都を滅ぼそうとする魔人である男、加藤保憲。
その中の人は、生真面目な平成のサラリーマンだった。

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最終更新:2012年01月02日 20:02