288. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:41:55
「ふ〜〜。しかし、地に足つける前に空戦をすることになるとは・・・。」
イギリス南部の飛行場の駐機場で九六式艦戦から出てきたパイロットがそう言った。
彼の機体には弾痕とペンキが剥がれた跡がいくつもあり、明らかに空戦をしてきたことを物語っていた。
「ここじゃ日常茶飯事ですよ。」
着陸した機体を調べている整備員が彼に言った。
「たしかに、これじゃ俺たちが呼ばれるのも不思議はないな。」
『一航戦搭乗員は指揮所に集合せよ!』
飛行場に設置されたトランペットスピーカーから伝達を聞いて、さっきのパイロットは他の搭乗員と共に急いで指揮所に向かい整列した。
「南郷茂章少佐以下32名!、本日付で第3航空隊の指揮下に入ります!!」



    提督たちの憂鬱  支援SS

    バトル・オブ・ブリテン  〜騎士とサムライが舞う空〜



1939年9月1日、ナチス・ドイツはポーランド回廊を取り戻すためにポーランドに宣戦を布告。
2日後の9月3日、イギリスとフランスは援助協約に基づきドイツに宣戦布告。

  第二次世界大戦の始まりである。

開戦からわずか1ヶ月でポーランドが降伏した。
これに対し英仏軍は1940年4月、ドイツに先駆けノルウェー北部を占領し、スウェーデンからの鉄鉱石の輸送路を封鎖した。
これを受けたドイツは仕返しとばかりにオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、フランスに対し総攻撃を掛けた。
経済的に厳しくなっていたドイツは怒涛の勢いで4国は降伏させ、同国に傀儡政権が創られた。
勢いに乗るドイツはフランコ軍を支援するためそのままスペインに侵攻し、更にはジブラルタルをも占領してしまった。

10月12日、日本が英国側に立って参戦。
日英軍と自由フランス軍がカナリア諸島に侵攻した。
戦艦3隻を含む仏西連合艦隊が迎撃のために出撃したが、第7艦隊の猛攻の前に全滅してしまった。
対ソ戦を計画しているヒトラーは西方の安全を確保するため、1941年6月、英本土への爆撃を開始した。
英空軍はこれに対し、日本から購入したレーダーや何とか数を揃えた戦闘機を用いて迎撃にあたった。
各国亡命政府軍や日本の第12航空艦隊第3航空隊もこの防空戦に参加した。
しかし、度重なる空戦に機体の損失が追いつかなくなっていった。
幸い英本土のため、搭乗員の損害は酷くなかったが、載せる機体のほうは甚大であった。
そのため、日本軍はやむを得ず、第7艦隊第1航空戦隊の戦闘機隊から4個中隊が派遣されること決定し、今に至るのである。
289. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:42:27
司令に対し挨拶が終わった後、一航戦の搭乗員達は兵舎に入りおのおの荷物を置き、整理していた。
「しかし、まさか着陸前に空戦を行うとは思いませんでしたね。」
冒頭に搭乗したパイロット、天城戦闘機隊第2中隊長の岩本徹三大尉が隣にいる他の搭乗員にそう言った。
彼ら一航戦の搭乗員達は第3航空隊が使用する飛行場に到着するとそこには、独空軍の爆撃部隊が今まさに空襲をしようとしていた。
そのため、彼らはスクランブルした第3航空隊と共にいきなり空戦をすることになったのだ。
「それだけ敵さんも必死なんだろう。」
天城戦闘機隊第1中隊第1小隊2番機の赤松貞明大尉がそう言った。
「でも、あれくらいまだ序の口ですよ。」
「ん?」
後ろからどこか聞き覚えのある声がし、二人がその声に振り向くとそこには、懐かしい顔がいた。
「西沢じゃないか!、お前、ここに配属されていたのか?」
「えぇ。」
「横空以来だな、懐かしいな。」
彼らが西沢と呼んでいる男は、西沢広義中尉。
ここ第3航空隊の第1中隊第4小隊長を勤めていた。
「お前が居るってことは、坂井も居るのか?」
岩本が西沢に聞いた。
岩本と西沢、そして坂井こと坂井三郎は同時期に横空こと横須賀航空隊に所属していたことがあったのだ。
赤松はそのときは空母の搭乗員だったが、横須賀に入港した際、三人と知り合り模擬戦をした仲であった。
ちなみに、史実では4人とも海兵団からの一兵卒だったが、この世界では同僚や教官、一部転生者たちの工作で海軍兵学校の航空科に入学し士官になっていた。
「いえ、坂井はフィンランドに派遣されたのでおそらく今は帰還して内地にいるかと。」
「なんだ、せっかく久しぶりにあいつと呑もうと思ったのに・・・。」
赤松が残念そうに言った。
「また、酒の話ですか?」
西沢が呆れて言った。
「俺から酒をとったら何が残る?」
「・・・魚雷がありますが?」
「こんなもの、相手が居なきゃどうにもならん!!」
「あ、あははははは・・・。」
西沢はただ笑うしかなかった。

「で、まだ序の口ってどういうことなんだ?」
岩本が話を戻そうと西沢に聞いた。
「あ、はい。敵さんはあちらこちらの基地から、時間差で攻撃してくるんです。」
「なんで、そんな面倒なことをするんだ?、いっぺんに攻撃したらいいのに。」
赤松が聞いた。
「きっと、俺達を疲れさせるためですよ。」
岩本がそう考えて言った。
「そんなことしないで正々堂々と戦えばいいのに・・・。」
「・・・さっきの空戦で四発機(Fw200)2機を堕とした人が言う台詞ですか?」
「『敵機を見るものではなく、感じるものだ』と言っている人間には言われたくないな・・・。」
(どっちもどっちだよ。)
西沢は心の中でそう言った。
しかし、某提督から見れば西沢もそんな超人たちと同類であることは知る由も無かった。

「お喋りしていないで、さっさと荷物整理したらどうだ?」
西沢と話している赤松と岩本の背後から自分達の上司である南郷少佐が二人に言った。
西沢は知らぬ振りをしてその場を離れ、岩本と赤松は慌てて作業を再開した。
290. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:43:11
荷物の整理が終わると、到着したばかりの一航戦搭乗員たちは特に任務も無く、おのおのに自由時間を過ごしていた。
岩本と赤松は、西沢が「午後は特に任務が無い」とのことなので、駐機場の隅で昔話に花を咲かせていた。
「しかし、懐かしいよな〜。まさかまたこうして同じ場所で働くなんて。」
岩本が昔同じ職場で働いていたときのことを思い出しながら言った。
「えぇ、皆もう大尉か中尉で、それぞれ隊長職に就いていてもおかしくないですからね。」
西本も同じように懐かしく思いながら答えた。
「俺は違うけどな。」
しかし、赤松はどこか不満そうに言った。
「あ、赤松さんは南郷少佐の2番機でしたっけ?」
「あぁ、いつも隊長のお守りさ。」
「でも、赤松さんだからこそ任せられるているんじゃないですか。自分なんか隊長の後ろでじっとしているなんてできませんよ。」
「そうか?」
「そうですよ。」
「そういえば、赤松さんと岩本さんはカナリア沖に出たんですよね?」
西沢が思い出したように二人に聞いた。
「あぁ。俺は上空直援で、岩本は一次攻撃に出たんだったよな?」
「えぇ。でも、敵機は水上機ばかりで、すぐに片付けちゃいましたけどね。」
「何機堕としたんです?」
「たしか、4機だったかな?」
「惜しかったですね〜。あと1機で撃墜王だったのに。」
「あぁ。」
「あれ?、赤城で5機堕として撃墜王がなった奴が出たって言うからてっきりお前だと思っていたが、違うのか?」
「あぁ、それは内の中隊の2小隊の隊長をしている藤田です。あいつが5機堕としたんです。」
「ほぉ、今度紹介してくれないか?」
「いいですよ。」

『敵機来襲!!』
『ウウウウウウ〜〜〜〜〜!!!』

突然、トランペットスピーカーから大声と空襲警報が鳴り響いた。
「ったく、少しは空気読めよな。」
「ほんとうですね。」
「急ぎましょう。」
三人はおのおの愛機へ向かって駆け出した。
「エンジン始動!」
「回せ〜!、回せ〜!」
「1機でも、多くあげろ!!!」
兵舎や指揮所などあちらこちらから駐機場へ走っている搭乗員達が大声で叫ぶ。
『敵編隊は小型機・中型機合わせ約100、現在位置、北緯約50度40分、東経約0度40分、高度3,000m、毎時165ノットで針路285に向けて飛行中!!』
レーダーサイトからの詳細な情報が、スピーカーから搭乗員達に伝えられる。
「コンタクト!」
エンジンを始動し、出撃準備が整った機体から順に滑走路に入り、離陸を開始する。
機体不調などを除き、総勢約70機の九六式艦戦は次々と大空へ羽ばたいて行った。

「12.7mmは左右共に異常なし。エンジン、油圧、燃料、照準器も異常なし。」
岩本は機内で愛機の調子を確認していた。
幸い、愛機に不調は無かった。
『編隊長より、全機へ。敵編隊は現在ブライトン上空を通過中。あと10分すれば接敵する。各自機体の調子を見ておけ。』
南郷少佐が無線で指示をする。
夢幻会の尽力で、航空無線は史実の雑音だらけのものとは違い、英国も驚くほどの鮮明さで聞こえていた。
10分ほどして、第3航空隊と一航戦戦闘機隊は自分達の2,000m下を飛行する編隊を発見した。
『1時方向下に機影多数!、鉤十字!、独軍機!』
『全機降下!、大要を背にして攻撃する!、その後は各自2機1組で行動せよ!!』
南郷少佐の指示を受け、全機が一斉に降下を始める。
(あいつを狙おう。)
岩本は降下しながら敵を確認し、右端にいるJu87に狙いを定めた。
(喰らえ!!)
岩本は20mmと12.7mmの発射ボタンを押した。
ドドドという衝撃と共に機銃弾が放たれ、Ju87に吸い込まれていく。
Ju87は岩本機に気づいて、7.92mm MG 15 機関銃を撃とうとしたが、時既に遅く20mmと12.7mmで撃ち抜かれ爆発四散した。
他の機もおのおのに敵機に狙いを定め、銃撃を加え、初撃で34機を撃墜。
一方、味方の損失は1機も無かった。
(よしっ!)
岩本は心の中でガッツポーズを決め、そのまま機を反転させ、再び敵機に向かった。
291. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:44:14
「そろそろか・・・。」
愛機のBf109の操縦席で一人の男が、葉巻を吸いながらそう呟いた。
男の服には中佐を表す階級章が、首には柏葉付き騎士鉄十字章があり、只者ではないことが伺える。
彼の名前は「アドルフ・ガランド」。
第26戦闘航空団の司令であるとともに、その名声を敵味方に知られたエースパイロットである。
彼は今、英本土へ向かう味方の爆撃機の護衛任務をしていた。
その編成は彼の指揮するBf109 24機の他に、Bf110が24機、Do17が32機、Ju87が16機、計96機という編成である。
目標はブリストル飛行機の本社工場があるブリストル市。
しかし、ガランド達第26戦闘航空団はここまでである。
なぜなら、彼らの乗っているBf109の航続距離が660kmと短く、そろそろ帰路につかないと帰りの燃料がなくなったしまうのだ。
(全く、何でこんなに足が短いんだ!。同じ単発のJu87なんか重い爆弾(500kg)を抱えて1,000kmを余裕で飛べるというのに!)
ガランドは心の中で悪態をついていた。
(今度あの太っちょに会ったら、文句を言ってやる…んっ!)
ふと彼は、自分の右手に映る影を見つけた。
時間は午後二時半、太陽は南南西にある。
その方向へ顔を向けるととそこには急降下してくる「タイプ96(九六式艦戦)」がいた。
「全機散開!!、敵襲だ!!」
ガランドは大声で叫ぶと同時に急降下に入った。
他の機も同じく急降下したり、左右に旋回したり、機銃で応射するなどの行動をとる。
そんな彼らに20mmと12.7mmの暴雨が降り注ぎ、Bf109 3機、Bf110 8機、Do17 9機、Ju87 14機が火を噴いた。
(くそ、なんてこった!)
ガランドは考え事をして警戒を怠ってしまった自分に恨んだ。
しかし、過ぎてしまったものは仕方がない。
今は残っている戦闘機で敵の攻撃から残っている爆撃機を守ることが先決だ。
「第3中隊は爆撃機の直衛につけ!!、第1、第2中隊はシュヴァルム戦法(ロッテ戦法)で各個撃破に向かえ!!」
くわえていた葉巻を操縦席に特設された灰皿で揉み消し、愛機の速度を上げ、敵機に向かった。
(さぁ、かかって来い!。日本人!)

機を反転させ敵機に向かった岩本は、次の目標に目の前を飛んでいるBf109を選んだ。
自分達が攻撃した際、右へ旋回したその機は岩本たちに後ろを見せる形になって飛行していた。
岩本はバックミラーで背後に敵がいないことを確認して、機銃の発射ボタンを押した。
機首と左主翼に機銃弾を受けたBf109はエンジンナセルから火を噴き、クルクルと回りながら落ちていった。
敵機が落ちていくのを確認した後、岩本は次の目標を探そうとしたそのとき、左方向で赤い光が見え、その方向に振り向いた。
「っ!!、岡元!」
見るとそこには、自分の部下の岡元二飛曹の機が火を噴いて落ちていた。
岩本は岡元機を堕としたと思われるその機体を見た。
「!?、ネズミ…か?」
その機体の操縦席下方には葉巻をくわえ、手に斧と拳銃を持ったネズミ(ミッキーマウス)のマークが入っていた。
それはガランドの乗るBf109だった。
「あんなものをつけているという事は、敵の手練か?」
「堕とさなければならない」そんな使命感のようなものを覚えた岩本はその機体を追いかけることにした。
292. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:44:54
「来るか!」
岩本は相手がシャンデル(斜め方向に上方旋廻すること)をしてくるのを見て、こちらの挑戦に乗ったことを知った。
「坂井、お前の得意技借りるぞ!」
そう言って岩本は降下を始めた。
ガランド機も岩本機を追いかけて降下に入る。
岩本は気速が増したところで、機体を引き上げ、右斜めに宙返りを始めた。
そして旋廻の頂点に近づいたところで、右のフットバーを緩め同時に左のフットバーを蹴り、操縦桿を左に倒した。
すると、機体は失速寸前となり、左へ横滑りを始めた。
そして、体勢を整えると岩本機はガランド機の背後をとる形となった。
「喰らえ!!」
岩本は機銃の発射ボタンを押した。
20mmと12.7mmの合わせて4門の射線がガランド機に襲いかかった。

「逃がすか!」
ガランドは降下に入る岩本機を追いかけた。
(低空でのカンプフ【ドイツ語でドックファイトのこと】に持ち込むつもりか…。)
ガランドは相手の意図そう考えた。
突如岩本機が宙返りを始めた。
ガランドも負けじと宙返りを始める。
すると、相手機が突然横滑りをし、自分の背後を捉えた。
「なっ、なに!!」
ガランドはその芸当に驚き、唖然とした。
しかし、驚いている暇は無い。
岩本機が攻撃をかけてきたのだ。
(くっ、横転だ!)
ガランドはエルロン・ロール(回転しながら飛行すること)をしながら、左に針路をとり、攻撃をかわそうとした。
そのとき、右主翼からカンカンカンという音がした。
見ると、主翼が被弾し燃料が漏れ始めていた。
ガランドは燃料流出を止めるため、右主翼の燃料コックを閉鎖した。
しかし、これでガランドの取るべき行動は一つになった。
(離脱するしかない。)
ただでさえBf109は航続距離が短い。
航続距離のギリギリまで護衛してきて、そこで空戦をし燃料タンクが被弾した。
幸い、火は出てないが、右主翼内の燃料は流出を続けている。
このまま空戦を続ければこっちが先にダウンしてしまう。
他の空戦のほうも、自軍の損失のほうが多く、敗色が濃厚であった。
ガランドは味方に退却を命じ、離脱を開始した。
293. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:46:14
『全機攻撃を中止!、全機集合せよ!』
南郷少佐の指示が入り、岩本は空戦をやめ、集合地点に向かった。
「逃がしたか…。」
岩本はさっき戦った敵のエースのことを考えていた。
「また、あのパイロットと戦うことになるだろうな。ま、そのときは決着をつければいいか。」
岩本はそう言って味方と集合した後、基地へ帰還した。
こうして、この空戦は日本側の勝利で終わった。

「ダメだ、燃料がもたない。」
基地へ帰還途中のガランドは燃料計を見ると、残りはもう無いに等しい状態だった。
このままだと、1分も経たずに彼の機体のエンジンは止まることが予想された。
「仕方が無い。マッキ!、聞こえているか?」
彼は、列機にいる「マッキ」こと部下の「ヨハネス・シュタインホフ」に連絡を取った。
「司令、どうしました?」
「燃料がもう無い。俺はこのまま洋上着水を行う。基地に救助を要請してくれ。」
「わかりました。」
そのとき、機首のほうでガクンっと音がしてプロペラが止まった。
「くっ!」
彼は緩降下で海面に降下し、プロペラで海面を叩かないよう注意しながら機種を上げつつ、そのまま見事に洋上に着水した。
コクピットから出た彼は、主翼に降り、葉巻を吸いながら救助を待った。
マッキの連絡で海軍のSボート(魚雷艇)が来てくれたが、機体が水没してしまったため、彼はイギリス海峡でひと泳ぎをするはめになった。
彼がその後風邪をひいてしまい、復帰するのに一週間はかかったのはまた別の話である。

<空戦結果>
日本側
撃墜:九六式艦戦11機
戦死:6名
重傷:2名
ドイツ側
撃墜:Bf109 11機、Bf110 14機、Do17 18機、Ju87 16機
戦死:112名
捕虜:15名
294. ham ◆sneo5SWWRw 2009/11/10(火) 23:46:44
「「「「乾ぱーい!!」」」」
その夜、基地内で第3航空隊と一航戦航空隊との親睦会が開かれた。
第3航空隊の小園司令と一航戦航空隊代表の南郷少佐がそれぞれ挨拶をし、乾杯の音頭をとった。
そしてその後は、もう飲めや歌えやのドンチャン騒ぎとなった。
岩本はそんな一角で赤松と西沢、自分の部下の藤田、西沢の部下の荻谷ととも酒を飲み交わしていた。
「藤田怡与蔵中尉です!、よろしくお願いします!」
「荻谷信男一飛曹です!、よろしくお願いします!」
藤田と荻谷は少し緊張しながら、敬礼をした。
特に荻谷は自分以外が将校のためか、声が上ずっていた。
「赤松だ。まぁ、楽にしろ。」
「はい、失礼します。」
二人はそういって座る。
「岩本だ。ほれ、一杯どうだ?」
「は、恐縮です。」
「さぁ、グーっと!」
岩本が酒をすすめられ、荻谷は自分のグラスを手にした。
一方、赤松は藤田に酒をすすめながら話をしていた。
「お前さんが、撃墜王になったっていう藤田か。話は岩本から聞いているぞ。」
「は、どうも。」
「ほれ、グーっと!」
赤松にそう言われ、藤田は一気飲みをした。
「ところで、お前さんはさっきの空戦で何機堕としたんだ?」
一人、チビチビと飲んでいた西沢が藤田に聞いた。
「えっと、ここに着いたときに1機、迎撃で2機堕としました。西沢さんは?」
「俺は今日、1回目で2機で、2回目で3機。でも、2回目は共同撃墜が1機いたから正確には2.5機だ。赤松さんは?」
「俺は、どっちも2機だ。」
「おぎやー。」
「あ、はい、西沢さん。なんでしょう?」
「今日、お前は何機堕とした?」
「1回目、2回目ともに3機です。」
「なっ、俺より多い!」
岩本が驚いて叫んだ。
「一応聞くが、お前は?」
赤松が岩本に尋ねた。
「1回目が3機で、2回目が2機です。」
「惜しかったなぁ〜。あと1機で並んだのに・・・。」
「まぁ、本当ならもう1機いたんですが、これが手強い相手で・・・。」
「ん?、どういうことだ?」
「実は2回目の空戦のとき、敵の手練と戦ったんです。」
「ほぉ。」
「坂井の左捻り込み。あれをやったんですが、主翼に当たっただけでして・・・。」
「あれを躱すのか・・・。」
赤松が感嘆した。
「なにか、特徴とかってあったか?」
西沢は何か心当たりがあるのか、神妙な顔つきをして岩本に尋ねた。
「そういえば、操縦席の下に葉巻をくわえたネズミのマークがあったな。」
岩本はその相手の機体の操縦席の下にあった特徴的なマークを思い出して答えた。
すると、西沢はポケットから何かの写真を取り出して、岩本に見せた。
「もしかして、これじゃないですか?」
「おお、そうだこれだ。」
岩本は写真にはあった擬人化したネズミを見て、そう答えた。
「これは、ミッキーマウスと言ってアメリカのアニメだったかな・・・それに出てくる登場人物です。」
「アニメっていうと、テレビでやっているあれか?」
「えぇ。」
夢幻会の指導により、日本では1938年頃からテレビ放送が始まっており、3年経った今では日本六大都市(東京、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸)では当たり前となっていた。
また、軍でも教材や娯楽などのために師管区や鎮守府などを始めとする主要基地や学校も設置が進められていた。
もっとも、内容はフシミン、コノミン、MMGの主導で萌えや燃えが取り入れられたりしているため、嶋田にとっては頭痛の種であった。
「それで、葉巻をくわえたミッキーマウスをつけているパイロットはただ一人しかいません。」
「・・・誰なんだそれは?」
「アドルフ・ガランド中佐。総撃墜数60機を超えるドイツ軍の撃墜王です。」
『60・・・。』
岩本、赤松、藤田の一航戦搭乗員組は驚き、唸った。
「そんな凄いやつだったとは・・・。たしかにそれなら捻り込みを躱せるかもしれんな。」
赤松が感嘆として言った。
「・・・ま、また会えば決着をつければいい話です。辛気臭い顔しないで今夜は呑みましょう。」
岩本はもうこの話はお終いとばかりにそう言って、再び酒を赤松に差し出す。
「そうだな。」
赤松もそう言って、岩本にお酌をしてもらい、一気飲みをした。
こうして、この日の夜は更けていくのだった。



<終>

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最終更新:2012年01月03日 00:01