966 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:33:06
北欧のSSが少ないので、とりあえず書いてみました。このSSはグアンタナモの人さまの「クヴィスリングという人」から一部設定を借りています。



提督たちの憂鬱支援SS 北欧の国から '43寒波



ケンブレビエハ火山の噴火とそれによって起こされた大西洋大津波は、火山灰と北大西洋海流の変化をもたらし、1943年 北欧は凍りついた。そのうえ 南からはナチスドイツの魔の手が伸び、西のイギリスや東のソビエトは策動している。
だがこんな時代でも、人々は粘り強く生きている。

1月 フィンランド南東部 ルオコラハティ

雪原に銃声が響く。直後、ヘラジカの大きな体がグラリと傾き、白い雪を赤く染める。
「…命中。」ボソッとそう呟いた猟師の正体は、『白い死神』ことシモ・ヘイヘであった。

彼は獲物をプーッコ(伝統的なナイフ)で捌き、アキオ(ソリ)に載せて町へ行く。北欧は高緯度なので冬は薄暗いが、それでも人々は町に出ていた。
「ヘイへさん、今日もすまないね。」「…いえ。」そして 知り合いの肉屋にヘラジカの肉を卸した。
「イワンとの戦争以来 食料が不足ぎみだからね、ほんと助かるよ。」
「…まあ、政府主導の開拓が進めば 何とかなるかと。」
冬戦争で奪われたカレリア地方南部は 工業地帯であっただけでなく、フィンランドの農地の一割も存在していたのだ。さらに、第二次世界大戦と大西洋大津波で国外からの輸入が滞ったことが、食料不足に拍車をかけた。
そのため、フィンランド政府はカレリア南部から避難してきた農民に土地を与え、開拓を始めた。その多くが森や湿地だったが政府の支援と農家の努力によって、農地拡大に成功しつつあった。戦後 ソ連に奪われた地域は戻ってきたが、異常気象による世界的な食糧難に対応するために、日本から農業機械などを輸入して開拓が続けられていくことになる。

肉を売った後、ヘイへはカフェに入る。品不足で代用コーヒーしかないが、コーヒー好きのフィン人たちは 文句を言いながらも飲んでいる。
客の会話がヘイへの耳に入ってくる。
「そういえば聞いたかい?またドイツが対ソ参戦を要求してきたらしいよ。カレリア南部の奪還に協力するってさ。」
「ふん、誰が嘘つきどもを信じるんだ?」史実と異なり、冬戦争のとき英仏軍の派遣の妨害を行うなどドイツがソ連に協力したせいで反独感情が高まっており、政府もドイツを信頼できなかったため参戦を断っていた。 ヒトラーは激怒しフィンランド侵攻を思いついたが、日本の支援もあってフィンランド軍が史実以上に精強になっていたこと,苦しい独ソ戦の最中にそんなところと戦う余裕などないことから断念した。
「ドイツといえば、ノルウェーでもひどいことをやっているらしいな。なんでも女性が誘拐されて、ドイツ兵に乱暴されているらしい…」
「クヴィスリングたち国民連合戦線には頑張ってほしいな。」
(…ノルウェー、か。ひそかに義勇兵が参加している、とユーティライネン大尉から聞いたが…いや、今の自分には関係ないことだ。)
…だが、もしもドイツが攻めてきたとしたら、そのときは・・・・・彼はそんなことを思いながら たんぽぽコーヒーを飲み干した。

967 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:33:47

2月 ノルウェー南部 ヴェモルク

吹雪の中、二人のドイツ兵が立っていた。「うぅ、寒いな。」「まったくだ。レジスタンスもこんな日には出歩かないだろうに、外で見張りをさせられるとは。」

      • プシュウゥゥゥ・・・
「ん?今何か聞こえなかったか?」「吹雪の音だろ。」
「…いや なんか臭いぞ。」「…確かにあっちの方からするな。何なんだ?」
二人は異臭のする方へと行く。「・・・これは」「缶詰か?」
ヒュッ ヒュッ
「がっ」「ぐふっ」 突如クロスボウの矢が刺さり、彼らの息の根を止めた。

「ナイスショット。」「 いやぁ狙いやすい的で助かったよ。」「そうだな。」
たった今ドイツ兵を殺害した男たちは、クヴィスリング率いる国民連合戦線の兵士だった。


…話は数年遡る…
英仏独の侵攻後、ドイツに支配された南部ではユダヤ人はおろか、普通のノルウェー人も苦しんでいた。例えば『レーベンスボルン計画』によって、ノルウェー人女性がドイツ兵と結婚させられたり、子供の誘拐が行われるなどの悲劇が起こっている。
そして英仏撤退後にはドイツ軍は北部も占領し、さらに多くのノルウェー人が苦しめられることになった。
…多くのノルウェー人が諦めていたとき、遂にある男が立ち上がる。

クヴィスリング、彼は夢幻会のおかげ?で最も変化した人物の一人である。
ラップランドで彼はノルウェー軍残存部隊とレジスタンスを纏めた国民連合戦線を立ち上げ、反撃を開始する。
まず彼らが行ったのは鉄道や橋といった交通インフラの破壊だ。山とフィヨルドばかりで雪もよく降るノルウェーでこれらが損害を受けた結果、ドイツ軍の兵站は悪化し、さらに国民連合戦線はキルナの鉄鉱石を輸送するオーフォート鉄道にも攻撃も行ったため、ドイツ軍はラップランドの制圧に兵を差し向ける。
が、クヴィスリングらは地の利を持つサーミ人と協力して山岳地帯での徹底的なゲリラ戦に入り、ドイツ軍に出血を強いる。さらにスウェーデンやフィンランドからは密かに支援物資や義勇兵が送られてきており、カール・グスタフ・フォン・ローゼンはドイツ軍基地を爆撃し、ラウリ・トルニらフィンランド義勇兵は敵補給線を切断した。 …そして冬が来ると、雪で動きの鈍ったドイツ軍に対してノルウェー兵は得意のスキーを駆使して攻撃を仕掛け…想定以上の損害を受けたドイツ軍をついにナルヴィクまで撤退させた。

この勝利に国民は奮起し、南部でも抵抗活動が激化する。港では独海軍が接収しようとした船舶を自沈させ、工場ではストライキが発生した。
加えて独ソ戦が始まると、ドイツが優秀な兵士や物資を東部戦線に回したことと ソ連が支援を始めたことによりますます激しくなり・・・

968 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:34:54
「その結果、この工場の警備がザルになったわけだ。」
「隊長,誰に話しているんです?…それにしても、こんな簡単な罠に引っかかるとは。」
男たちは『スウェーデン産 ニシンの缶詰』を見る。今回のようにドイツ兵の注意を引いたり,嫌がらせ,軍用犬の鼻潰し,そして非常食にまでこの醗酵食品は活躍していた。そのせいか、戦後メシマズの国で〔オナラ爆弾〕のような臭いを利用した兵器が研究されることになる。

「話してないでこの《重水工場》に侵入しましょう。そんでさっさと破壊しましょう。」そう言ったのはSOE(イギリス特殊作戦執行部)のエージェントであった。
実は彼らがここ『ノルスク・ハイドロ社 ヴェモルク水力発電所附属重水工場』の破壊任務を命じられたのには、イギリスが関わってくる。先年の12月 日本から原子力兵器の情報を入手したイギリスは、ドイツも原爆を開発しているのではないかと恐れた。諜報活動の結果、某国に金も人材も吸い取られていたドイツでは研究自体が後回しにされていたことが判明したが、日本が発表すれば開発を始めることは予想でき、警備の薄い今のうちに ここを破壊する計画が立てられた。
そしてイギリスは 国民連合戦線を支援と引き換えに破壊計画に協力させることに成功し、なんとかミッションがスタートしたのだ。(なお軍需物資や人員の輸送には潜水艦が用いられ、この方法は戦後のムルマンスクなどでの英ソ秘密貿易にも使用されている。)

…工場内の協力者と合流し、慎重に進むと…
「これが電気分解槽か。・・・よし、信管を取り付けて…ソ連の銃を床に遺して(共産主義者のしわざに見せかけるため)……では「ちょっと待った!」 協力者が止める。「なんだ?」「眼鏡を探させてくれ。どこかにおいたんだが…」 「……おいこれか?…よし、今度こそ・ ・ ・」 点火。

この日 ヨーロッパ唯一の重水工場が破壊された。ザル警備をいいことに、彼らは生産済みの重水の処分にも成功していた。もちろんドイツは犯人を探したが、彼らはスキーで捜索網を掻い潜って北部まで逃れた。
このことがヒトラーに原爆の早期開発を諦めさせた一因と言われている。

969 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:35:45

3月上旬 デンマークの首都 コペンハーゲン

「陛下、まだ市街へ行っていけませんよ。落馬してから体調がよくないのですから。」「う,うむ。」侍従の言葉に クリスチャン10世はしぶしぶと頷いた。
ドイツに国を占領されてからも、この王は亡命はせずに国内からドイツに対する抗議をしており、また国民を勇気付けるために毎日コペンハーゲンを護衛無しで 馬で回った。だが去年落馬して以来、体調を崩しぎみであった。

「ところで『彼ら』の脱出は順調かね?」「はい。スウェーデン側も協力してくれています。」『彼ら』とはユダヤ人のことであり、レジスタンスと共にスウェーデンに亡命させている。多くの国民がそれに協力していただけでなく、実はヴェルナー・ベストなど現地のナチス高官が『モデル占領国』の維持(反独感情の高まりを抑え、大規模な反乱を防ぐ)のためにお目こぼしをしていることにより 成功している。

「そうか…それなら良い。」そう言ったクリスチャンだが内心ではこんなことも考えていた。
(アメリカが滅んだことでナチスに勝てる勢力は日本のみになったが、かの国は欧州から遠く そう簡単にナチスを滅ぼせないだろう。これからデンマークには厳しい運命が待ち受けているだろう……だが、それでも我らは…)

970 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:36:21
3月下旬 ノルウェー北部 ナルヴィク
1940年、ノルウェーは戦乱の炎に包まれた!海には軍艦、地にはドイツ兵が闊歩し、あらゆる生命体はナチスに支配されたかに見えた。しかしノルウェー人は諦めていなかった!

「ヒャッハー!」「汚物は消『独』だー!」「駆逐してやる、この世から、一匹 残らず‼」ハイテンションなノルウェー兵がナルヴィクの町のドイツ兵に襲いかかる。
例年以上の寒さがドイツ人を苦しめていたことと、大雪,インフラの破壊,独ソ戦などによる補給の滞りはドイツ軍を弱体化させており、密かにイギリスの支援を得たノルウェー側が戦闘を有利に進めている。
「クソッ何だこいつら! 援軍を求む!」だがそれこそが彼らの狙いであった。

「…よし、侵入するぞ。」守りの薄くなった町の中から突如ノルウェー兵が現れる。実は数年がかりで地下道が掘られていたのだ。
こうしてナルヴィクは内外から攻撃を受け、とうとうノルウェーが奪還に成功した。ドイツ側は少し前に軍を旧アメリカへ派遣したため 奪還に必要な兵員を確保できず、 また 占領地の鉱山での強制労働や 再開された南米からの輸入で鉄鉱石はなんとかする目処がたったので、ナルヴィクの再占領作戦は中止された。


後日 ノルウェー北部某所
「そうか、成功したか。」ノルウェー王ホーコン7世は喜びの声をあげた。
史実と違って彼は英仏独の侵攻からスウェーデンに逃れていたが、戦局が好転するとノルウェー北部に戻り 活動していた。
「はい。陛下の鼓舞のおかげで、兵士誰もが奮い立ちましたから。」この秘密の御所を訪れたクヴィスリングが言う。
「しかし、アメリカを崩壊させたこの寒波が 我々には助けになるとはな…」そういいながら見る窓の外には、今日も雪が降っていた。

971 :名無しさん:2016/03/29(火) 01:37:45
4月末 旧アメリカ南部のある町
この年の春、欧州各国は旧アメリカ南部に進出した。ドイツを中心とした枢軸国に イギリスとその下の亡命政府、さらにフィンランドやスウェーデンも派兵していた。

フィンランド遣米義勇軍が割り当てられた建物にイギリス軍の士官がやってきた。
「今日は何のようで?また調停ですか?」横髪破りなせいで旧アメリカに派遣させられてきたアールネ・エドヴァルド・ユーティライネンはそう尋ねる。
欧州連合軍の南部進駐は順調だったが、その一方で各国は接収品や戦後の利権を巡って対立していた。そこで白羽の矢が立ったのが(一応)中立国で利権を要求しなかったフィンランドやスウェーデンである。彼らは野心のなさをアピールしながら 調停役などを買って出ることで、国際的地位を高めんとしていたのだ。

イギリス人はユーティライネンの問いに答える。「はい。このあたりでも現地人の争いが増しているのはご存知ですよね。皆さんに彼らの調停を任せたい。黒人たちも、日本と仲の良い貴方たちなら公平な判定ができると思っていますから。」南部では合衆国崩壊以来白人と有色人種の対立が高まっており、たびたび衝突し死傷者が続出していた。そのことにうんざりしている者もいるが、北欧以外の欧州連合軍に仲裁を頼むと 基本的に白人有利の判定になり 有色人種が不満を高めて対立が再燃する可能性があったのである。

「まったく、なんでこんな仕事を。俺はノルウェーでドイツ兵とでも殺りあいたかった…」「英雄である大尉がノルウェーの義勇兵に参加したら、すぐにバレて国際問題になりますって。」イギリス人に教えられた通りに接収品のジープで進んで行くが、突然運転手が急ハンドルを切った。次の瞬間茂みから手榴弾が投げられ、車の横で爆発する。
「チッ、共産主義者かそれとも盗賊か!?」 茂みに向かって 短機関銃を撃つと、むこからも銃声と 悲鳴が聞こえてきた。
南部では難民や被差別階級,連邦軍崩れが盗賊として猛威を振るっていた。中には欧州連合軍の物資を狙う輩もおり、当初は大した被害を受けなかったものの 占領地の拡大に比例して増加していた。他にもソ連の命を受けた共産主義者や、ドイツ系を狙うユダヤ人なども悩みの種となりつつある。
しかし欧州連合軍の進駐が上手くいっているのは、多くの市民(特に白人)が「占領されたほうが このような連中が成敗されて 治安は改善されるだろう」と考えたからでもあった。

      • 戦闘が終わり、茂みを探ってみると・・・
「…こいつらは、メキシコ系か?」「どうやらそのようだな。旧アメリカ各州にたいする宣戦布告以来、メキシコ系市民とその他の関係は非常に悪化しているらしいし。」
(…しかしこいつらも、自分らがゲリラになることで 他のメキシコ系に風評被害が及ぶことがわからないのか?)ユーティライネンは 彼らの骸を見ながらそんなことを考える。
「まあソレを片付けて、早く目的地へ行こう。」「また襲撃がなければ良いですが…誰か未来予知の魔法でも使えません?」 「ムリダナ」
彼らの、いや世界の行方は誰にもわからない。

◆ ◆ ◆

北欧は寒い国だ。だが、だからこそ人は粘り強い。北欧でもアメリカでも こんな冬の時代でも、彼らは活躍し続けるだろう。 ───続く───

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最終更新:2016年03月29日 20:24