521. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:16:05
yukikazeさんや攻龍さんに触発され作った、潜高2型潜水艦やと吾妻型重巡洋艦採用の御礼SSです。
予想外に長編化してしまい、制作期間も約2ヶ月かかってしまいました。
ジャンルは支援SS初の潜水艦です。
拙文乱筆、かなり長いですが、どうぞ。

1942年 日本時間 8月10日 12:00(以後、日本時間)

ハワイ オアフ島 北北東 約1,180浬 潜高2型潜水艦「呂28号」艦内

艦橋に電信員が電文を持って入ってきた。
「艦長、連合艦隊司令部から入電です!!」
「読め」
「ハッ、ニイタカヤマノボレ〇八一六」
「8月16日にアメリカと開戦、か・・・」
「いよいよですね。」
と副長が答え、乗員達が騒ぎ始める。
これまで、アメリカと中国は太平洋と中国大陸での覇権を握らんと、日本へ様々な挑発行為や言い掛かりをし、挙句の果ては冤罪(第二次上海事変・比島沖米貨物船爆沈事件など)を被せてきた。
そんな米中に対し開戦するのであるから、乗員達の反応も無理が無かった。
ある者は「神国日本の力を見せ付けてやるぞ!」と息巻き、ある者は「米中に目に物を見せてやろうぜ!!」と他の乗員と話し始めた。
そんな乗員達の気を引き締めなおすため、艦長が叫んだ。
「ばかもの!!、浮かれるな!!、軍人が戦争が始まることを喜ぶんじゃない!!、これから俺たち鈍亀は、生死を分ける戦いが始まるんだぞ!!」
艦長の怒鳴り声に乗員達はすぐに黙り込む。
しかし、艦長の怒鳴り声に驚いたのか、見るからに気張っていた
「まぁ、そう気を張るな。気を引き締めるのはいいが、ほどほどにな。ただし、戦争が始まることを決して喜ぶんじゃないぞ。平和が一番なんだからな。」
「「「了解です!、板倉艦長」」」



      提督たちの憂鬱  支援SS    パシフィック・ウルフズ  〜太平洋の狼たち〜



7月16日 朝 呉鎮守府内 第33潜水隊司令室

「「呂号28潜」艦長、板倉 光馬 大尉、入ります!」
「入れ。」
「失礼します。」
ドアを開け、中に入ると潜水隊司令と同隊に所属している自分以外の他の潜水艦の艦長たちが集合していた。
「遅れて申し訳ありません。」
「なに、構わん。皆、今集まったところだ。」
司令がそう言って板倉を座らせる。
「さて、諸君らは今の日米関係を知っているな。」
「ええ、関係が日に日に悪化していくばかり、若い下士官や兵は「米中、討つべし」「米中、何するものぞ」と騒いでいます。」
「うちの艦もそうです。」
と各艦長たちはそう語る。
本年5月に起きた第二次満州事変以降、日本と米国、さらに中国との関係は紐無しバンジージャンプどころか、パラシュート無しのスカイダイビングの勢いで悪化中であった。
日本側は全くの言いがかりと濡れ衣を着せられ、米国側は中国の仕業と知りつつも国民にはそのことを知らせず日本をヒールに仕立てていた。
そして、中国は自分達より劣ると思っている日本を追い出したいがため、日本に対し罪の捏造をして抗議するばかり。
これで、悪化しないほうがおかしい。
さらに、明治時代から日本は負け無しであるため、「日本がその気になれば、米中に勝つことさえ可能だ」と思っている人間が比較的に多かった。
「で、だ。ついに我が国は米中と開戦するかもしれなくなった。」
「いよいよですか。」
「いや、まだ分からん。政府はまだ、米中と交渉中だ。しかし、開戦に備える必要があるため、諸君らは本日2100時に出港し、西海岸に向かうことになった。開戦か否かは航行中に暗号で送られることになっている。」
「暗号の発信はいつですか?、それと、作戦内容や航路などについては?」
「これに書いてある。ただし、必要時以外は金庫に厳重に締まっとくように。」
司令がそう言って、艦長たちに命令書などの重要書類を配る。
「それでは各自、艦に戻って出港準備にかかってくれ。」
そういって、司令は艦長たちを解散させた。
522. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:16:35
8月10日 潜水艦「呂28号」艦内

開戦の暗号を受け取った後、板倉は艦長室に副長や航海長などの士官を集め、金庫内に仕舞ってある命令書を出して作戦内容を確認した。
作戦内容は、カリフォルニア州ロサンゼルス・サンディエゴの西方800海里の海域における通商破壊活動であった。
「航海長、現在位置は?」
「ハワイの北北東約1,180浬、北緯33度30分、西経150度00分付近です。」
航海長が持って来た海図を艦長室のテーブルに広げ、指を指しながら現在位置を言った。
「ふむ、作戦海域の到達はいつ頃になる?」
「現在の状態(ディーゼル16ノットで4時間・電池6ノットで20時間)で航行を続けると、作戦海域への到達は日本時間16日の1315頃になります。」
航海長が現在位置から目標海域まで距離を測り、所要時間を算出した。
「開戦日には間に合いますね。」
「うむ。艦長より発令所へ。針路100に取れ。」
「宜候、面舵、針路100」


8月16日 22:00 サンフランシスコ 西南西 約405浬 深度30m

現地時間で午前4時のこの頃、「呂28号」は深度30mに潜航し、電池で航行していた。
「日本ではもう夜か・・・今頃本土は提灯行列で賑っているんでしょうね。」
「そうだな。なんせ、大戦果だものな。」
板倉と数名の士官は、士官食堂で雑談をしていた。
4時間前、つまり現地時間の深夜0時頃、「呂28号」は本土にいる潜水戦隊司令部からの定時連絡を受け取った。
そこには、中国大陸とフィリピンでの空戦に大勝利し、上海を始めとする大陸各所への上陸が成功したことなどが伝えられていた。
板倉は士気を高めるに艦内放送で乗員全員に聞かせ、それを聞いた乗員は喜びの声を上げ、同時に「俺達もやるぞ」と張り切った。
だが、板倉はそれよりも一緒に送られたもう一つの電文のほうが気になっていた。
(開戦日に、大津波とは米国もついてないな。)
それは、カナリア諸島で火山が噴火し、それによって大西洋沿岸部全域が大津波に見舞われたことを知らせる内容だった。
板倉は、乗員達が調子に乗りすぎて悪い影響になると考え、この電文はあえて読まず、朝食時に士官のみに話そうと考えていた。
と、そのとき、突然伝声管から報告が上がった。
「聴音より報告!、左50度、2軸推進音、感3!、接近中です!」
「!、総員配置につけ!」
板倉は帽子を被り直し、命令を飛ばして発令所に向かった。
途端に警報がなり、板倉と雑談していた士官達や他の乗員も同様に身支度をして、それぞれの担当部署に向かう。
「潜望鏡深度10mまで浮上!、潜舵上舵10度!、メインタンク、ブロー!」
発令所に飛び込んだ板倉が、すぐに命令した。
メインタンクから圧搾空気が噴出され、「呂28号」は浮上を開始した。
「潜望鏡、電探上げ!」
10mに達したのを確認した板倉が、信号員にそう命じ、潜望鏡と電探を上げさせる。
上がりきったの確認すると、軍帽のつばを後ろにして被り直し、グリップを降ろして握りながら潜望鏡に覗き込む。
そして、付近に敵艦と敵機がいないことを確認する。
「対空電探、感無し!」
「対水上電探、左50度に感6!、接近中!」
確認の最中に、電探室から報告が届いた。
確認を終えた板倉は、聴音が知らせた方位に潜望鏡を向けた。
すると、間隔を1000mに空けて横三列に並ぶ船団が見えた。
「目視にて確認!、左50度、距離約10,000。米国の輸送船団だ。輸送船4、駆逐艦2。輸送船が単縦陣を組み、両脇を駆逐艦が固めている。」
米船団の陣容を正確に把握した板倉が発令所にいる乗員に聞こえるように言う。
「艦長、獲物です。攻撃の用意を。」
血気盛んな乗員が板倉に具申してきた。
「まて、慌てるな。ここからじゃ、うまく捉えられん。このまま進んで取舵を切り、敵の左舷前方に出る。潜望鏡、下ろせ!、針路・速力そのまま!」
潜望鏡を海面下に降ろし、「呂28号」はそのままの状態で進んだ。
523. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:17:05
10分以上が経ち、板倉は位置を確認するために再び潜望鏡を上げさせた。
「先頭艦、左55度、距離5,600。潜望鏡降ろせ。取舵一杯、針路040。」
潜望鏡を降ろされ、板倉の指示を受けた操舵員が取舵に舵を切った。
そして、「呂28号」が針路040に向き、艦がまっすぐ進み始めてから、板倉は再び潜望鏡を上げさせた。
「先頭艦、左7度、距離3,800。向こうは全く気づいていないぞ。」
板倉艦長の言うとおり、米船団は「呂28号」に気づいた様子は全くなく、発見時と全く変わらない陣形をとっていた。
右方向約6,300mに位置している護衛の駆逐艦も慌しい動きは全くなかった。
板倉艦長は潜望鏡で敵船のそれぞれの位置をよく確認し、目標を選んだ。
「3番艦を殺る。魚雷戦用意!、目標、敵輸送船。敵速8ノット。方位角右6度。距離7,200。針路240。」
「魚雷戦用意!、目標、敵輸送船。敵速8ノット。方位角右6度。距離7,200。針路240。」
板倉が目標の観測結果を言い、副長が復唱する。
観測結果を言い終わると、すぐに潜望鏡が降ろさせ、今度は発射管室へ魚雷の諸元入力を指示した。
「雷速50ノットに調整。遅発信管セット。1,5,6番に装填。」
「雷速50ノットに調整。遅発信管セット。1,5,6番に装填。」
発令所から指示を受け、発射管室の人間が、魚雷の速力と信管をセットする。
セットが完了した魚雷が、自動装填装置によって次々と指示された発射管内に入れられていく。
「1,5,6番装填完了。発射管注水。発射管開きます。」
装填の完了した魚雷発射管内に海水が入れられ、艦外の発射管の扉が開く。
「魚雷発射準備完了。何時でも撃てます。」
発令所の魚雷の制御盤が発射準備完了を知らせるランプを点灯し、それを副長が艦長に発射準備完了を伝えた。
「潜望鏡上げ!」
すばやく、板倉が取り付き目標に向けて回転させた。
そして、目標に向けて潜望鏡を固定し、一体になって動かなくなった。
「放射線状射撃・・・ヨーイ・・・射ッ!」
「発射!」
制御盤にある発射ボタンが押され、バシュ!バシュ!バシュ!という音ともに魚雷が放たれた。
「潜望鏡下ろせ!、急速潜航!、潜舵下舵一杯!、メインタンク、注水!、深度90につけ!、面舵一杯!、針路150!」
発射後、板倉艦長の指示が飛んだ。
「急速潜航!、潜舵下舵一杯!」
「ベント弁、開け!、メインタンク、注水!、深度90!」
「面舵一杯!、針路150!」
担当の乗員達が復唱し、方向舵と潜舵を指示された角度に向け、メインタンクに海水を注水させる。
敵駆逐艦の反撃に備え、「呂28号」は右旋回をしながら深深度に潜航していく。
「10秒・・・・・20秒・・・・・。」
副長が秒時計で魚雷の疾走時間を計る。
「・・・40・・・45・・・50・・・」
潜舵手が深度計を読んで現在の深度を知らせる。
「魚雷、真っ直ぐに走っています。」
聴音が魚雷の推進音を聞き、発令所にそう伝えてきた。
「・・・75・・・80・・・85・・・90。」
「メインベント、閉め!、潜舵、中央に戻せ!」
目標深度に達し、板倉が潜航を止めさせる。
「140秒・・・150秒、151秒、152秒・・・」
魚雷の到達予定時間を過ぎた。
しかし、何も音が聞こえてこない。
(はずれたか・・・)
板倉がそう思った。
そのとき、ガキン!、ガキン!と大きな音が聞こえてきた。
「洋上にて衝突音、数2。」
524. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:17:43
米リバティー船「ジョン・マーシャル」は、「J. L. M. カリー」「ヘンリー・クレイ」とともに、駆逐艦母艦「ディキシー」、駆逐艦「バーニー」「ブレイクリー」の護衛を受けながら進んでいた。
この輸送船団は、サンフランシスコからハワイ経由でウェーク島へ補給物資として弾薬・食糧・水などの消費財を運んでいた。
史実でリバティー船は、太平洋戦争開戦後に建造が始まったが、この世界では第二次上海事変により中国方面への派兵によりそれらの輸送と維持に多くの輸送船が必要になったため、建造開始が早まっていた。
ちなみに、板倉艦長が「輸送船4」と言ったのは「ディキシー」を輸送船と誤認したからである。
「洋上、異常ありません。静かなもんですね。」
「ジョン・マーシャル」の船橋で、副長が船長に報告した。
「ま、西海岸とハワイの間だからな。ジャップの潜水艦もさすがにここまでは来ない・・・か。」
彼らは昨日の昼食時に、ラジオのニュースで日本との開戦を知らされた。
しかし、彼らにすれば、さっき届いたもう一つのニュースのほうが衝撃だった。
「東海岸・・・どうなっているんでしょうね。」
「さぁな、だが、被害はかなりなもんなのは確実だが・・・そういえば副長はニュージャジー州の生まれだったな。」
「ええ、妻と子供が二人・・・早く戻って安否を確認したいです。」
「この任務が終わったら、援助物資の輸送船団に組み込むよう上に頼むよ。」
「ありがとうございます。」
そのとき、ガン!、ガン!という大きな音と衝撃が広がった。
「おっと、なんだ?」
衝撃で倒れそうになった船長が何とか足で踏ん張って聞く。
すると、伝声管で報告が上がってきた。
「こちら機関室!、左舷に魚雷が突き刺さりました!」
「こちら第二船倉室!、左舷隔壁に魚雷が突き刺さっています!」
「突き刺さったぁ!?、不発か!」
「おそらくジャップの攻撃でしょう。ですが、やはりイエローモンキーですな。まともな信管がないとは。」
副長が信管の故障と判断し、そう言った。
「全くだ。まぁ、それよりも駆逐艦に敵潜攻撃をッ?!」
突然、左舷から大きな衝撃と2本の水柱が上がった。
「こ、今度は何事だ!?」
すると、また伝声管から報告が上がった。
「こちら機関室!、魚雷が自爆しました!」
「第二船倉室!、魚雷が自爆!、火災発生!」
「自爆しただと!?」

衝突音から少しして海上から大きな爆発音が轟いた。
「よしッ!」
「やった!」
艦内の乗員達が喜びの声を上げ、小躍りした。
「しかし、慣れないもんですなぁ。」
副長が困ったような顔で言う。
魚雷を遅発信管にセットしているため、命中しても目標到達予定時刻を過ぎてから爆発音がするため、触発信管で慣れた彼は妙な感覚になるのだ。
「上の連中が効果があるって言うんだから、仕方ないだろ。」
夢幻会主導の実験で、従来の触発信管より、遅発信管のほうがより大きな破口を作れることが証明されたからだ。
これにより、水上艦・潜水艦・航空機の全ての魚雷は遅発信管が主流になり、触発信管は使われなくなる傾向にあった。
「右20度と左25度の敵艦が増速します。」
聴音兵が洋上で特に慌しく動く2隻の推進音を聞き、発令所に知らせた。
駆逐艦「バーニー」と「ブレイクリー」が、「ジョン・マーシャル」から上がった水柱を見て、魚雷を受けたと判断し、大慌てで潜水艦の捜索を開始したのだ。
「さぁ、きたぞ。爆雷防御たしかめッ!」
板倉が顔を引き締め、指示をとばした。
「針路150!」
「舵戻せ!、中央!」
操舵手が予定針路に達したことを知らせ、板倉が艦の旋廻を止めさせた。
「2軸推進音。左140度、距離1,000・・・あ、爆雷来ます!!」
近くにいる敵艦の位置を知らせてきた聴音兵が、爆雷の投下音に気づき、艦内に知らせ、ヘッドホンを外し機械の電源を切った。
「総員!衝撃に備え!」
板倉がそう叫び、乗員全員が手近のものに掴まった。
数秒が経ち、後方から「ドーン、ドーン」と爆雷の爆発音と衝撃が響いてきた。
しかし、衝撃はそれほど大きくはなかった。
「遠い、な・・・聴音室、探針音は聞こえるか?」
板倉が伝声管で聴音兵に聞いた。
「いえ、探針音は聞こえません。先ほどの駆逐艦も右舷後方に向けて遠ざかっていきます。」
爆雷が止み、再び機械の電源を入れ、ヘッドホンをつけた聴音兵が伝声管で報告した。
「どうやら、威嚇だったようだ。このまま当海域を離脱する。針路そのまま、速力12ノット。」
「針路そのまま、速力12ノット。」
「呂28号」は増速して、船団から離脱を図った。
離脱を開始して数分後、大きな衝撃と轟音が海中に響き渡った。
「後方洋上にて巨大な爆発音、複数。続いて金属が大きく軋む音がします。」
それは、「ジョン・マーシャル」が爆沈する音だった。
525. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:18:13
10月18日 23:30 サンフランシスコ西南西 約877浬 深度100

現地時間午後5時半のこの頃、「呂28号」は100mの深深度で息を潜めていた。
昨日から、対空電探が敵の哨戒機を探知してから、発見されるのを懼れたためである。
「もうすぐ日が暮れます。今日も戦果無しですね。」
「あぁ。だが、2ヶ月で5隻も沈めれば上々だろう。」
無精髭を生やした副長が言い、同じく無精髭を生やした板倉がそう答えた。
「呂28号」は、「ジョン・マーシャル」撃沈後も通商破壊活動を行い、さらに3隻の輸送船と1隻のタンカーを血祭りに上げていた。
「艦長、お客さんです。右10度から左30度にかけて推進音多数確認。距離約11,000から約15,500。速力約15ノット。」
聴音室から伝声管で報告が上がってきた。
「音源の範囲が広い。船団の陣形が大きいな・・・。大船団だぞ、こいつは。しかし、足が速過ぎるな。」
「そうですね。高速輸送船のみで編成されているのでしょうか?」
聴音からの報告を聞いた板倉が敵船団に対して感想と疑問を言い、副長が答えた。
「ん?、これは・・・、艦長、四軸推進音を複数確認。巡洋艦・・・いや、戦艦もしくは空母と思しき大型艦がいます。」
聴音兵が推進音の中から大型艦と思われる四軸推進音を確認し、報告してきた。
「艦長、こいつは3日前にハワイ沖で確認された空母部隊では?」
「呂28号」は3日前、ハワイ諸島の見方哨戒潜水艦から
『2200時、カイウイ海峡ヲ通過中ノヨークタウン型ト思シキ空母1、巡洋艦3以上、駆逐艦20以上ヲ含ム艦隊ヲ確認。艦隊針路060。2345。』
という電文を受けていた。
副長はこの船団が電文の艦隊と判断した。
「だとしたら、俺たちはでっかい獲物を引き当てたな。まぁ、まずは獲物を確かめようじゃないか。浮上。メインタンク、ブロー。潜舵上舵20度。深度10。」
「メインタンク、ブロー。潜舵上舵20度。」
「呂28号」は潜望鏡深度の10mへ浮上し、潜望鏡を上げた。
電探はもし空母を含む船団だった場合、逆探を装備している可能性があり、電波を発すれば見つかる危険性があるため、今回は使用しなかった。
板倉は、付近に敵艦と敵機がいないことを確認して、目標がいると思われる方位に潜望鏡を向けた。
「艦影10以上を確認。左20度約11,000に大型艦。ニューオリンズ型重巡のようだ。その後方、左15度約12,500にも大型艦。あれは・・・間違いないヨークタウン型空母だ。」
「艦長、二度とないチャンスです。空母をやりましょう。」
「ここで見逃せば、その艦載機が味方潜水艦、いや、海戦で味方水上艦に損害を与えるかもしれません。攻撃するべきです。」
「これからは空母と潜水艦の時代。米海軍が壊滅している今、1隻でも空母が沈めれば、戦力が大きく下がります。艦長、攻撃を。」
副長を始め、乗員達が口々に板倉へ空母攻撃を具申する。
「・・・うむ、よし。潜望鏡降ろせ。魚雷戦用意。目標、ヨークタウン型空母。目標との距離を詰める。速力12ノット。」
「速力12ノット。」
乗員達の進言を聞いた板倉は決心して、命令をとばした。
電動機の唸り声が大きくなり、艦の速力が速まった。
526. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:19:03
5分以上が経ち、潜望鏡を上げ、目標の位置を確認した。
「目標、左48度、距離6,000。取舵一杯。針路140。」
操舵手が取舵を切り、艦が左に回頭する。
「舵戻せ、中央。潜望鏡上げ。」
目標針路に達し、板倉が舵を戻すように指示し、潜望鏡を上げさせ、再び目標の位置を確認する。
「目標、右37度、距離4,800。速力15ノット。針路060。潜望鏡下ろせ。」
観測結果を言い終わると、すぐに潜望鏡が降ろさせ、発射管室へ魚雷の諸元入力を指示した。
「雷速50ノットに調整。遅発信管セット。魚雷全門に装填。」
発令所から指示を受けた発射管室の人間が、魚雷の速力と信管をセットし、艦首6門全ての発射管へ次々と入れていく。
「1,2,3,4,5,6番装填完了。発射管注水。発射管開きます。」
発射管内に海水が入れられ、発射管が次々と開く。
「魚雷発射準備完了。」
再び潜望鏡上げ、覗き込んでいる板倉に伝えられた。
「ヨーイ・・・テッー!」
今まで行っていた2,3門程度の発射とは違う全門発射の大きな発射音が聞こえ、6本の「青白い暗殺者」が海中へと解き放たれ、50ノットという高速で疾走を始めた。
「潜望鏡下ろせ!、急速潜航!、潜舵下舵一杯!、深度120!、面舵一杯!、針路240!」
「急速潜航!、潜舵下舵一杯!」
「ベント弁、開け!、メインタンク、注水!、深度120!」
「面舵一杯!、針路240!」
担当の乗員達が復唱し、舵を切り、メインタンクに海水を注水する。
「呂28号」は急速で潜航し、深度120mに達した。
と、そのとき「コーーン」という甲高い音が聞こえてきた。
「洋上から水中探針音!、気づかれたようです!」
聴音兵が悲鳴を上げた。

駆逐艦「デイヴィス」は、15ノットという輸送船団においては高速に値する速力で船団の護衛任務についていた。
この船団はサンディエゴからハワイへの物資輸送を終えた後、サンフランシスコに向かい、現地で用意されているハワイへ物資を輸送するために向かっていた。
船団に所属する輸送船はアークトゥルス級とベラトリックス級の高速輸送船各2隻、シマロン級タンカー2隻、ウィックス級駆逐艦改造の高速輸送艦8隻の14隻。
護衛に空母「ホーネット」を旗艦に重巡「ミネアポリス」「タスカルーサ」「ペンサコラ」、ポーター級駆逐艦8隻、サマーズ級駆逐艦5隻の17隻。
合計31隻の大船団であった。
「ん・・・なっ!?、艦長!、左60度!、距離700!、本艦針路上に向かう魚雷6視認!」
「デイヴィス」の艦橋付近の見張り員が、艦長に大声で叫んだ。
「なんだと!、雷跡などどこにも無いぞ!、確かか!?」
その報告に慌てた艦長が双眼鏡で海面を確認するが、雷跡を確認できなかった。
日本海軍の魚雷は酸素魚雷のため、航跡を引かないのだ。
「間違いありません!、このままでは接触します!」
「機関後進一杯!!、面舵一杯!!、各艦に発行信号!、聴音手、ピンガーを打て!」
艦長は見張り員の言葉を信じ、接触を避けるため、艦を後進させた。
同時に、他艦へ魚雷発見を知らせ、潜水艦の捜索を開始した。
「魚雷、本艦正面通k・・・まずい!、魚雷針路上にホーネット!!」
魚雷を監視していた見張り員が悲痛の叫びを上げた。
しかし時既に遅く、魚雷はホーネットの目の前に迫っていた。
527. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:19:39
「ホーネット」の艦橋では艦隊司令のオーブリー・フィッチ少将と艦長のマーク・ミッチャー大佐が不機嫌な顔で海上を眺めていた。
史実でミッチャーは42年6月30日に「ホーネット」を降りているが、この世界では「ホーネット」の竣工が遅れたため任期が数ヶ月ほどずれ、津波の被害で海軍士官が大幅に減少したため、艦長職を継続することになっていた。
攻撃精神旺盛の彼らは、来るべき日本との戦争が始まり、その最前線に行けることを夢見ていた。
しかし、彼らの望み通り戦争が始まったが、直後の大西洋大津波で東海岸の政府中枢や海軍司令部・主力造船所などが壊滅し、戦争どころではなくなってしまったのだ。
そのため、開戦してからというものの、目立った動きができないでいるアメリカ海軍の状態に対し憤懣やるかたなかった。
更に、ここ最近起きる事件が彼らの憤懣を増長させていた。
「索敵機からは潜水艦発見の報は無し、各艦からは異常無しの報告・・・。一体いつになったら、ジャップの潜水艦を沈められるんだ!!」
「全くです!!、これだけ探してもいないなんて・・・。」
開戦以来、西海岸周辺を始めとする太平洋の各地で潜水艦による輸送船攻撃が相次いで発生しており、撃沈数は日を追うごとに鰻上りの勢いで増えていた。
ハワイ―西海岸間の船団護衛と航空機等の輸送任務についてから「ホーネット」では、艦載機による対潜哨戒をこれまでの航海で何度も行っていた。
しかし、撃沈どころか発見の報告さえなかなか入らず空振り続きであった。
攻撃精神旺盛の2人は、「せめて潜水艦でも」と闘志を燃やしていたのだが、この空振り続きは予想できなかった。
「駆逐艦「デイヴィス」が後進します。「デイヴィス」より信号、『本艦針路上ニ魚雷発見』」
「なにぃ!?、対潜戦t、うわっ!、なんだ!?」
「デイヴィス」の異変に気づいた見張り員が叫び、フィッチが立ち上がりながら、すぐに指示をとばす。
しかし、命令の途中で艦が揺れ、フィッチは椅子に倒れた。
「左舷缶室・機関室に魚雷が突き刺さりました!」
「なっ!?、いかん!、艦、停止!、左舷缶室・機関室内の乗員は直ちに退去!、退去確認後、隔壁を閉鎖!、各艦に救助を要請!、急げ!」
しかし、ミッチャーが喋り終わると同時に、左舷側に大きな水柱が二つ上がった。
それは、左舷に突き刺さった魚雷の遅発信管が作動して、爆発して作ったものだった。

「「デイヴィス」より信号!、『本艦針路上ニ魚雷発見、』」
「取舵一杯!、最大戦速!、針路075!、敵潜を捜索する!」
ホーネットの右104度、距離4,300で航行していた駆逐艦「ウォリントン」が「デイヴィス」の信号を確認し、敵潜水艦を捜しに「ホーネット」の反対側に出る為、速力を上げ、取舵を切り、針路を075に向けた。
すると、そのとき、ホーネットから水柱が上がった。
「くそぉ、ジャップめ。」
「ウォリントン」の艦長が悔しさを漏らした。
「艦長、大丈夫です。魚雷の1本や2本で「ホーネット」が沈むわけがありません。」
「そうだな。」
副長の励ましの言葉を受け、艦長は潜水艦の捜索に気合を入れた。
と、そのとき、見張り員の悲鳴が響いた。
「ッ!!、左60度!、距離60に魚雷4!、」
それは「呂28号」が「ホーネット」に向けて放った魚雷の残りであった。
「なっ!!、間に合わん!、衝撃に備えーーー!!」
直後、艦内に衝撃が響き渡った。
528. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:20:29
「洋上から探針音が複数発せられています。」
「呂28号」の聴音兵が発令所に報告した。
探針音を確認した「呂28号」は、目標針路に達すると、舵を戻し、空母の後方に配置されている複数の輸送船の下を通りながら、離脱をしていた。
敵の真下を通るのは危険だが、輸送船は対潜装備などなく、装甲が薄いので、輸送船の付近で爆雷を爆発させれば輸送船にダメージが及ぶため、攻撃される懼れが低いと判断したからだ。
米駆逐艦が何度か爆雷攻撃を行ったが、遥か後方の「呂28号」が魚雷放った場所の付近で深度調停を浅くして投下しており、「呂28号」にこれといったダメージを与えていなかった。
なお、先ほどから聞こえてくる探針音は、艦体外面に貼られた硬質ゴム製無反響タイルにより、反響音が米軍のソナーでは聞きにくいほどに音が小さくなっているため、探針音を発しても米駆逐艦はなかなか反響音を捉らえずにいた。
「敵さん、相当頭にきてますね。」
「貴重な空母をやられたからな。」
副長が探針音の多さからそう言い、板倉が答えた。
そのとき、爆発音が連続して響いてきた。
「洋上にて爆発音!、続いて金属の軋む音がします!」
「やったか?」
「いえ、方位も距離も違います。別の艦のようです?」
「おそらく、先程の他艦が攻撃したやつでしょう。」
このとき、「呂28号」は「ウォリントン」撃沈の戦果を他艦のものと勘違いしていた。
後に、自分達の戦果だと知られ、多いに驚くこととなる。
「このまま一気に逃げるぞ。」

「敵潜はまだ見つからんか?!」
「ハッ、ピンガーを発して捜索をしてますが、未だ・・・。」
被雷してから四時間半以上が経ち、「ホーネット」の艦橋でフィッチが、左に傾いた椅子に座りながら苦虫を噛み潰した顔で怒鳴った。
被雷した「ホーネット」は、左舷側の缶室と機関室は浸水が発生した。
魚雷が遅発信管であり、ミッチャーの決断で被雷後すぐに乗員を避難させ隔壁を閉鎖させ、ダメージコントロール要員を向かわせたため、浸水の拡大は最小限に抑えられたが、左舷側のボイラーと機関は完全に海水に浸かって使用不能になった。
現在は、艦を停止させ、味方駆逐艦による消火作業を受けながら、傾いた傾斜を直すため反対舷注水を行っていた。
巻き添えを喰らった「ウォリントン」は、弾薬庫に1本が被雷し、誘爆を起こして沈んだ。
「司令、火災は無事鎮火しました。艦の傾斜も復旧も完了。しかし、機関の約半分が使用不能な上、浸水による重量の増加で、自力での航行は難しいので曳航の必要があります。」
約五時間に渡る復旧作業がようやく終わり、ミッチャーがフィッチに報告してきた。
「敵潜も見つからんし、これ以上留まるのは良くないな。近くにいる重巡は?」
「「ミネアポリス」が前方で、「ペンサコラ」が右舷後方でジグザグ運動中です。」
「「ミネアポリス」に曳航を要請。「ペンサコラ」に将旗を移す。「ペンサコラ」に受け入れ用意を通達。重要書類の整理にかかれ。曳航準備と司令部移乗が完了しだい、当海域を離脱。サンフランシスコに向かう。」
「「「了解しました。」」」
参謀達が重要書類を整理しに艦橋から降りて行った。
フィッチも退艦準備のため、艦橋から降りようとし、席を立った。
「司令。」
ミッチャーが声をかけてきた。
「司令。もし、日本艦隊の決戦に望まれたら、この「ホーネット」の痛みをジャップ共に何十倍にして返してやってください。」
「うむ。約束しよう。」
ミッチャーがフィッチにそう言い、フィッチは握手を交わしながらそう答えた。
30分後、艦隊はサンフランシスコに向けて離脱を開始した。
529. ham ◆sneo5SWWRw 2010/11/08(月) 20:21:01
「潜望鏡、電探上げ!」
米艦隊が離脱してから1時間後、米艦隊の居た地点から西南西に二十数km離れた地点で「呂28号」は、潜望鏡と電探を上げ、周囲を確認していた。
「360度全周に敵影無し!」
「対空、対水上電探!、感無し!」
板倉が潜望鏡を覗いて、電探員が画面を見て敵がいないこと確認した。
「シュノーケル、通信アンテナ露頂!」
板倉の指示で、シュノーケルと通信アンテナが上がり、海面上に現れた。
途端に、艦内に新鮮な空気が流れ込んでくる。
「通信士、潜水戦隊司令部に打電。『ワレ、2345時ニ、ヨークタウン型空母ヲ雷撃ス。命中ヲ確認スルモ被害ハ不明。0550。』」
「了解。」
板倉が通信士を呼び出し、本土の潜水戦隊司令部に本日の戦果を打電させた。
「艦長、本艦の魚雷残存数が3本になりました。これ以上の行動するには魚雷の補給が必要です。」
魚雷の残存数が残り少なくなったことに気づいた水雷長が板倉に報告してきた。
出港してからもう3ヶ月。
燃料・魚雷も少なくなり、劣悪な(それでも他国よりはマシ)居住性の潜水艦に何人かの乗員も故郷に想いを馳せ始めていた。
(潮時か・・・。)
板倉はそう思って、指示を出した。
「呉軍港に帰投する!、面舵一杯!、針路280!」
「面舵一杯!、針路280!」
日本への帰国に操舵手は心を躍らせながら復唱して舵を切り、「呂28号」は北太平洋回りで本土へ帰還を始めた。
こうして、「呂28号」最初の通商破壊任務は終わったのであった。
後日、呉軍港に帰投した「呂28号」乗員は、傍受した敵信とスパイの報告により「ホーネット」大破と同時に駆逐艦を撃沈したことが知らされ、板倉と主な乗員は連合艦隊司令長官から直々に感状を授与された。



第三三潜水隊 「呂二一号」型潜水艦「呂二八号」 第一回哨戒任務における戦果
撃沈
・駆逐艦「ウォリントン」
・輸送船「ジョン・マーシャル」、他3隻
・タンカー1隻
大破
・空母「ホーネット」

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最終更新:2012年07月11日 17:12