410 :ひゅうが:2016/07/17(日) 19:18:57

神崎島ネタSS―――「風に乗る」



日本経済は、1931年以降回復基調にあった。
言うまでもなく満州事変に伴う経済圏の拡大が景気(文字通りの「気分」として)を上向かせたことに加え、軍拡に伴って重工業需要が増大したことによるものである。
もともと日本経済は昭和初期の金融恐慌以来どん底にあえいでいた。
その間に財閥の寡占化という名の不良債権処理が進んでおり、世界恐慌による被害が相対的に少なかったという事情もある。
だが、傷は深い。
中産階級として勃興しつつあった農家は小作貧民に転落しつつあり、都市生活者は失業者という名の貧困層へと移行しつつあった。

このような時代、経済再編に成功した財閥への恨みつらみと、政争を繰り返す政党政治への幻滅が世情を支配しても不思議ではない。
かくて、軍部の台頭という現象が発生する。
ソヴィエトという名の脅威が増大しつつあったこともあって昭和の時代は武張った方向へと徐々に移行していったのである。


だが、この時代という名の水面に投じられた巨大な石は、強引に時代の流れを捻じ曲げる。
あたかも川の流れが巨大な岩に捻じ曲げられたように。



「つまりは――できる、と?」

「できますね。」

出向扱いで満州へ渡っていたはずの岸信介がしずかに言った。
ここは、大蔵省主計局
帝国の財政を統括する、いわば国家のもうひとつの中枢である。

「要は、アメリカさんがニューディールで、ドイツがアウトバーンでやったことの焼き直しです。我々は満州でこれをやりました。本土でこれができないなんてこともありますまい。」

さも簡単そうにいってのけた岸の手元にある書類には、「日本重工業化五か年計画」の文字。
渋い顔でそれを見ながら、内閣総理大臣廣田弘毅は目の前の男を上から下まで凝視した。

「君は簡単にいってのけたが、市場はどうする。米国や英国はブロック経済化を進めているし、わが国にそこへ割って入るだけの力はないぞ。価格競争力が違うのだ。」

「お忘れですか。わが国には今や神崎島という技術的・資源的な策源地が存在します。」

岸が語ったのは、ある意味詐欺のようなものだった。
ほぼ無償で10年間の供給を約束された神崎島の資源。
石油、鉄鋼、各種希少資源、彼らにとって価値が低い各種技術。
これをいったん日本帝国政府が受け取り、格安で日本国内の企業へ販売する。
もとがただ同然なのだから、そこで発生した利潤をもとに建設国債を発行してさらに元手を増やし、これをもとに巨大なコンビナートや工場の近代化、そして交通網の整備に資金を投入する。
足りないもの?
臨時軍事費特別会計があるではないか。
巷にあふれる失業者は、陸軍「工兵総監部」が吸収。これによって公共事業の費用を低減した上で全土でインフラ需要を喚起する。
軍の規模自体も増大するし、機械化という陸軍が抱え込んだ命題に対する回答にもなる。
こうして生まれた工業地帯の払い下げを前提として財閥にはため込んだ資金を投資のために吐き出させる。

そうまでして作った工業地帯で何を作る?
トランジスタラジオをはじめとする、史実で大ヒットした各種工業製品である。
工作機械から技術まで、すべて神崎島が面倒を見るといっているのだ。出してきた手を噛みきる勢いで使い切ってしまえばよい。

411 :ひゅうが:2016/07/17(日) 19:19:52
予算?
史実では30億円もの予算が日華事変単年度に投じられている。
それだけあれば?
何でもできるではないか。
いざとなれば、朝鮮総督府や台湾総督府、そして満州経由で資金を調達すればいい。
彼らがいったような日中戦争の戦費調達のために行った錬金術で、日本列島は抜本的に改造されるのだ。

土地ころがし?

お国のための事業だ。そのときこそ、内務省の出番ではないか…


「岸君。君は――」

「廣田さん。私は日本帝国に絶望して満州で思う通りにふるまってやろうとしました。」

岸はギラギラした目で廣田を見た。

「そこへきて、すべてをブチ壊していったのがあの島と彼らのきた歴史です。」

我々は全員が国家運営の落第点をつきつけられた身なのですよ。と彼は言った。
軍部は未来技術に夢中。むしろ喜んでこれらの改革に協力します。
官僚?
我々がなんとでもしましょう。
統制経済の問題点と史実の失敗への批判は甘んじて受けます。

「ですが、模範解答はもらった。高い出生率、工業の再編成、そしてソーシャルダンピングと文句をつけられない数々の新技術。
今や条件は整っています。」

「史実」で、日本を経済大国に押し上げた「昭和の妖怪」は、野心をたぎらせて言い切った。


「わが帝国は、これより高度経済成長を開始するのです。御決断を。」





【あとがき】――大きな変化をもたらしたネタを聞いて妖怪は我慢できなかった模様。

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最終更新:2023年11月12日 15:29