294 :ひゅうが:2011/12/07(水) 08:16:59

ネタSS――「夢幻会(と引退できないかわいそうな嶋田さん)が海底軍艦を前に本気を出したようです」

――西暦1996(昭和71)年6月 日本帝国 帝都東京


「ついに奴らが動き出しましたな。」

「戦艦『モンタナ』・・・あの41センチ砲艦の完成形がノーフォークから消えているとなってまさかと思ったものでした。」

「あの試験砲艦『穂高』・・・富士型改造のゲデモノに成形炸薬弾と重噴進弾群の集中攻撃で撃沈して以来・・・ですな。結局『零式重力炉』の解析はマイクロブラックホール同期連星型のワープエンジンというべきものという以外はいまだ途上ですが――」

大日本帝国の帝都 東京、その地下では男たちが話し合っていた。
現在の政権を担う政治家たちは、その様子を見て戦慄している。

「あれが帝国の元老たちか・・・。」

「帝国の強さの秘密――官僚のみに頼らずに超長期的な政策の継続性を持たせ、腐敗や逸脱を防止、そして国家的危機に対応する態勢の維持を行う精鋭集団『夢幻会』か。」

「己の身は夢幻の如きもの。たとえ表に出ずとも日本に尽くす、か。凄まじいな、あの世代は。我々のような平和に育った世代は彼らにとっては温いのかもしれん――」

そう言われている側は、冷や汗ものである。

「なぁ。辻。お前がなんで21世紀を目前にしてもそのまんまの姿なのかは聞かないが、国家的危機のたびに俺に仕事を押し付けるのはやめてもらえないか?」

「おやおや。はたから見れば『最強の主人公(笑)』で『理想の上司(笑)』なんですから、少しは苦労して下さいよリア充。」

「誰のせいだと思っているんだ誰の!お前が一服盛ったおかげで我が家は帝国の財界にまで出張って無駄に国際的に顔が広くなってしまったじゃないか!面倒くさいことこの上ない!だいたい俺がいちいち出張っていたら後進が育たんだろう!!」

「大丈夫です。麻生田くんに、2代目長曽根くんたちはうまくやってますよ?ですがこれは人類の危機です。史実のアメリカみたいな正義大好き国がない分――我々列強筆頭が出張るしかないのですよ。」

お前、それ70年代に国民管理のために人体実験やらかそうとした馬鹿ども(ショッ○ー)潰した時も、80年代に西ロシアから亡命しようとした赤い十月な原潜で引っかき回された危機の時も、あと最近某アマ○ガム相手に大立ち回りした時も言ったよな、と嶋田はジト目でにらんだ。
辻は、「それだけ20世紀末にかけて人類の危機が集中するんですよ」とうそぶいている。

確かに危機だった。
この3日前、ドイツからオーストラリアに向かっていた使用済みの原子炉用トリウム溶融塩(マントル成分に似たガラス質)輸送船「モスキートネット」号が公海上で攻撃を受けた。
悪いことに、この輸送船は手間を惜しんだ某国によって極秘裏に解体予定の核弾頭まで搭載していた。
そして、あろうことかドリルがついた怪船は東京湾へ向け侵攻を開始したのである。

「『ラ號』は?有坂君たちの準備は?」

「できております。さすがは30万トン級の超戦艦。古賀君たちや牧野さんたちはいい仕事をしてくれましたよ。」

くっくっくと笑う怪人辻。その横で、現在も健在な御上から「お前一生現役な~」という役目を押し付けられた青年、嶋田繁太郎は溜息をついた。

「嶋田閣下。その・・・『ラ號』というのは、まさかあの?」

「ああ。今回の事態を見越して建造しておいた巨大戦艦だ。書類上は『大和』型3番艦だが、実態は『超超大和型戦艦』といっていい。まぁ怪物だよ。」

嶋田は、資料を見せた。

「ぜ・・・全長430メートル!?常備排水量34万トン!?」

「主砲は61センチで超電導コイルを用いた電磁アシスト付き16門!?」

「なんですこの28センチ電磁速射砲って!」

「50年間ちまちまと溜めて作ったんだ。試作品というのは聞いたことがあったろ?」

「確かに拠点防衛用として作られたって聞いたことはありますが・・・まさかとっておいたとは。じゃなくて!なんですかあのドリル!?」

「ドリルはロマンなんです。インヴィンシブル作った英国人はそれが分からんのです。と牧野君が言っていた。」

政府関係者が頭を抱える中、もうどうでもよくなった嶋田は思った。
有坂君。日向艦長。50年間もこれを隠し続けた俺の胃の痛さの分だけ地空人――にそそのかされた合衆国の亡霊をやってしまってくれや。と。

295 :ひゅうが:2011/12/07(水) 08:18:17

――同 小笠原秘密ドック

「す・・・凄いっ!」

「うむ。剛よ。これが『ラ號』だ!」

節約のため、岩盤丸出しな秘密ドックの中に、巨大な軍艦が鎮座していた。
外見は潜水艦にも見えるが、しかしその甲板上には巨大な砲塔が鎮座している。
現在は日本帝国とドイツ、そして英国くらいしかまともに保有していない艦種「戦艦」である。
全長430メートル。常備排水量34万トン。主砲として50口径61センチ砲4連装4基16門を搭載。装甲は従来のものに加え、70年代以降に開発された複合装甲を各部に追加している。
未曾有の巨艦であった。
その名をラ號。本来は「常陸」という正式艦名があるのだが、命名式が行われていないという大人の事情で「ラ號」としか呼ばれない。
その真価は、内部に搭載された零式重力炉。異種文明の遺産であるこのオーバーテクノロジーは、この艦を陸海空いずれでも活動できる万能戦艦たらしめている。

「司令~。準備完了しましたァ!」

ラ號の艦橋に、明るい声が響く。

「日向艦長。こういう時くらい真面目にできんのか――」

「まぁまぁ司令。」

合いの手は、テレビ回線で「隣の」艦から入った。
「同型艦」である「轟天號」の神宮寺艦長(ちなみに女性)からだ。この二人は帝国海軍からの出向組で、艦の特徴から潜水艦長の経験者である。

「晴れの日ですから。大目に見てください。」

「まったく・・・。」

帝国海軍第1特別機動戦隊司令をつとめる有坂提督は、「轟天號」に乗り組む副司令の楠見少将の苦笑を受け咳払いした。

どういうわけか息子の剛を乗り込ませることになってしまい、おまけに覚醒作業中のアネットの裸まで・・・いや考えるのやめやめ!

「剛。アネットさんも。・・・そこの補助シートに座って。」

「は、はい!」

日本にこの艦をもたらしてくれたアネットと、息子の剛に指揮官としてではなく一人の親としての顔でそう言った有坂提督は、凛と前を向いて言った。

「出撃する!!」

「おっしゃあ!海底軍艦『ラ號』出撃!!」

「海底軍艦『轟天號』出撃します!!」

地空人よ。地上人類を舐めていると痛い目を見るぞ・・・!


――なお、「モンタナ」がやってきた原因はどう見ても格下な富士型超巡洋艦改造の日本艦に無理やり装備された主砲(成形炸薬付き)と、衝角攻撃で沈められるというどう考えてもおかしい敗北の恥辱をそそぐためだったりする。
      • 夢幻会の暗躍で地中海に沈んだイタリア艦からとあわせて2基の重力炉を手に入れていた日本海軍は、半世紀後に迫った「地空人」の侵略に備え、予算をやりくりしながら半世紀かけて「趣味に走りまくった」海底軍艦を2隻建造していた。
「列強筆頭だとか言うが2万トン級の艦なんて楽勝楽勝」とか調子こいていた地空人がそろってお茶を噴き出すのは、これから約15分後になる。




【あとがき】――新海底軍艦がある意味好きな皆さんが集まってラ號を魔改造したようです。
ちなみに2番艦付きですw

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年01月04日 08:39