121 :ひゅうが:2016/08/25(木) 16:18:59
神崎島ネタSS――「第二次上海事変」その15



――同 上海上空


「敵第4波攻撃隊なおも接近!方位・高度変わらず。大型機7含む。速い!速力210ノット!護衛戦闘機8も含む!」

「了解。」

いよいよ厳しくなってきた。と岩本は思った。
これまでの戦闘により、戦闘機隊の燃料も心もとなくなっている。
鳳翔搭載機から補用機を出し、龍驤搭載機も入れ替わりで滞空し続けたが、ローテーションにも限度がある。
現在空にいるのはわずか8機。
護衛戦闘機がついてきたことを考えると迎撃しきれるか厳しい。

「『アキツ・コントロール』。接敵時間は?」

『概ね5分。』

「そちらからも戦闘機が発進したと聞いたが到着時間は?」

『概ね10分!』

「5分差か。長躯進出したとはいえこの5分は痛いな。」

『すみません。ですが――』

「しかたがないさ。片道2500キロの長躯進出だ。そちらは大発で格納庫を埋めていたのだろう?こちらとしては感謝するだけさ。」

岩本はつとめて冷静に、150浬以上も沖合いに位置する電子の目の持ち主にいった。
こうして電探管制で効率的な迎撃ができるだけまだよいことなのだ。

「5分だな。もたせるぞ。」

『それについては朗報があります。』

「なんだ?」

『米艦隊の搭載機はこちらのデータとは別の機体でした。』

「それが?」

『発動機換装の結果、巡航速度が55ノットも速くなっています。』

「おいそれは…」

『そうです。まさに今――』

『HEY!Japanese!!』

陽気な声が飛行帽と一体化したマイクロフォンから響いた。

『待たせたな!騎兵隊の到着だぜ!!』

複葉機が次々に岩本機を追い越し、低空でバンド(黄浦江沿岸)に見せるかのように3回と4分の3だけ宙返りする。
機数はぱっとみただけで20。

「ははっ。」

岩本はあまりの役者っぷりに、「いよっメリケン屋!」と叫びそうになるのをこらえた。
見れば、避難民たちも歓声を上げている。
96式艦戦は開放式風防のためによく聞こえるのだ。

「助かるぜ!アメリカさん!」

『いいってことよ。それよりなにやら面白そうなことをしているじゃないか。』

「おう。電波探知機であちらさんの攻撃隊は丸見えだ。それを無線で教えてもらって向かっていくって寸法よ。」

やりとりはもちろん英語である。

『ヒューッ!そりゃ便利だ。で、どっちだ?』

「高度350の・・・ああじれったい。ついてきてくれ!」

『そうこなくちゃ。サムライとカウボーイの共同作業といこうじゃないか!いっておくが複葉機だからって舐めるなよ?』

「おう。こっちもピカピカの新型だ。220ノットは出るから覚悟しろ。」

『こっちだって220マイルは余裕だ。半分残していくから上空防御は任せてくれ!』

実に、軍事機密だだもれであるが、このときのやりとりを聞いた上海上空の戦闘機隊および、今まさに発艦しようとする空母「加賀」所属の新鋭戦闘機部隊、そして洋上を急行しつつある神崎島航空隊(わざわざ「あきつ丸」を経由して長距離進攻した戦闘機隊)の士気が天をつかんばかりに上昇したことを考えればそれは必要経費といっていい。
どのみち、彼らが乗る機体はテスト中の新鋭機に代替される予定であったということで、こののち二人におとがめはなく、表向きのお叱りと事実上の褒賞が与えられたことでそれは「すべてよし」となった。

なお、このとき二人の機体は再び低高度で黄浦江上空をフライパスし、あるカメラマンに見事にそれをおさめられていた。
女性カメラマンであり、ユダヤ系ドイツ人である彼女の名をゲルダ・タロー。
彼女のペンネームは、当時彼女が拠点としていたパリ在住の日本人芸術家でありのちに「芸術は爆発だ!」という名言で知られる岡本太郎にちなむ。
彼女の名を知らぬ者も、恋人である同じくユダヤ系のこちらはハンガリー人であるアンドレ・フリードマンとの共同製作に使用されたペンネームは聞き覚えがあるだろう。

「彼ら」の名は、「ロバート・キャパ」といった。

122 :ひゅうが:2016/08/25(木) 16:19:29
【あとがき】――期待を受けたので投下。ちょっと難産でした(汗)

129 :ひゅうが:2016/08/25(木) 16:53:38
実はこいつら、複葉機のくせに毎時410キロ以上出せます。
そしてこの頃のBf109は最新型でもB型が少数投入可能なだけ。最大速度は430キロちょっと。
そして数的主力はHe-51。
あとは…わかるなw

131 :ひゅうが:2016/08/25(木) 17:00:10
歴史が変わってしまった影響から、F3F-3が史実より前倒しされれて就役。
アメリカらしく最初の航空隊を上海に投入しています。
生産早すぎ?
史実の生産量を見ればいいよ(白目)

133 :ひゅうが:2016/08/25(木) 17:03:40
なお、恐ろしいことにこのF3F-3、960馬力のエンジンを積んで毎時425キロをたたき出します。
ビア樽みたいな機体なのにBf109-B(カタログ詐欺)より10キロくらい遅いだけ。
発動機高性能化済みの96式(ポッド式12.7ミリ搭載のため速度は450キロ毎時)に匹敵する代物。

頭の悪さが知りたいなら、「初期型零戦のエンジン積んだ複葉機」と思って下さいw

145 :ひゅうが:2016/08/25(木) 18:08:00
キャパさん(女)の方は、史実ではこの頃にスペイン内戦で死亡しています。
…が、この世界では早々に「モスクワの金塊」がスキャンダルとしてゾルゲ事件とともに明かされたことで共和派が内ゲバ状態にこれまた早く突入。
おかげで史実より早く、キャパ(男)の方が属していた政党が非合法化され粛清寸前に脱出。
国際社会の厳しい目が向けられたおかげで転地を余儀なくされてしまいました。
そして、「アメリア・イアハートの飛行を取材」するために極東へ向かい――そして上海事変の勃発を受けて取材に入ったという次第です。

当時の戦場カメラマンだからね。しかたがないね。
なお、このための旅費が「日本人の友人から」出ており、「その裏に石原莞爾がいる」。
那智さんをドン引きさせた仕込みは、これだったのです(邪笑)

154 :ひゅうが:2016/08/25(木) 18:59:42
あらかじめ国民党軍がどこかでやらかすことを前提に、かつルーズベルト大統領をはじめ上流階級に伝手の多い冒険家に写真や話しが渡るように準備し、待ち構えていたわけですからね。
ただし予定よりはるかに早く、盧溝橋でなかったためにだいぶ混乱したのですが。
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最終更新:2023年11月23日 13:31