728 :ひゅうが:2011/12/10(土) 18:13:42

コミケネタ――「彼らこそ・・・」(コミケ戦記第0話)

――西暦1996(昭和71)年8月1日 日本帝国 帝都東京


第2新羽田国際空港にチャーター便が降り立った。
一機はロイヤル・スホーイ・エアクラフトS370型の大型旅客機。
ロシア帝国の首府アナスタシアンブルグから飛来した機体である。

もう一機は、ギリシア共和国から飛来した倉崎・三菱KM777型機。世界的ベストセラーである大型旅客機であった。
この二機が飛来するのは毎年おなじみで、これにやや遅れて太平洋の向こうカリフォルニアからもチャーター便が到着することになっていた。

チャーター便らしく、超大型浮体構造物である第2新羽田空港の端の方で、乗客たちはタラップを降り始めた。
ロシア機からは、真夏にも関わらず長袖の衣装に赤い星をつけた目つきの鋭い男たち。
そしてギリシア機からは、ジャージに身を包んだ屈強な男たちがぞろぞろと出てくる。

「早かったな。ソヴィエトの。」

「そちらもな。スパルタの。」

その中のリーダーらしき二人の男が視線を交わす。
一人は、なかなかの精悍な男である。しかしその身体は狼のように鍛え上げられているのが身のこなしから分かる。
それもそのはず。このロシア人は、かつてKGBと呼ばれた組織に所属する正真正銘の特殊工作員である。
コマンドサンボと、この日本で体系化された柔道を修めた彼は、油断なくギリシア人の男を見た。

そしてもう一人は、髭もじゃの顔であるがロシア人とは対照的にまさに鋼というべき肉体を持つのが分かる。
彼の故郷である都市の伝統として、厳しい修練を経て磨き上げられた肉体はこの男は武器では傷つかないのではとすら思わせるものだった。
こちらも、ギラギラとした視線をロシア人に向けている。


二人の男はゆっくり歩み寄ると、がっちり腕を組んだ。

「「我ら臨時コミケ警備隊 ユーラシア支部。これより聖地の警備にあたらん!!」」

おおーっ。という声が上がり、周囲から遠巻きに見ていた記者たちがフラッシュをたく。
250人のロシア国家保安庁職員(旧ソ連KGB)と、300人のスパルタ人は、これから待機している高速艇に乗り込み、有明の戦場(いくさば)へ向かう。

そこには、警視庁抜刀隊と陸海空軍から選抜された「特別警備任務部隊」が待機している。
これに、カリフォルニア共和国海兵隊200余人と英国SAS50名が加わるのがいつもの面子であった。


「今年は特別だからな。」

娘も参加者として来ている・・・と、プーチン隊長は笑った。

「ああ。今年は特別だ。」

うちも妻が参加する、とレオニダス隊長も笑う。


――日本帝国の首府で開催される世界最大の同人誌即売会、通称「コミケ」。
今や5日間の期間中に250万人が訪れる巨大な祭典は、今年で60周年を迎える。
第2次大戦後諸国の融和を目的にその警備は各国が合同で行うことになっていた。
会場内の警備を行う人々は、実に25カ国から出向している。

そして、もっとも栄えある会場正面の警備は、彼らに委ねられていた。
その実績はゆるぎなく、徹夜組や転売ヤーとの壮絶な「死闘」は名物にすらなっている。
ソ連軍人とスパルタ人、それにマリンコ(海兵隊員)が帝国軍と戦列を共にする光景は、今年も見られることになりそうだった。

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最終更新:2012年01月04日 09:21