894 :ひゅうが:2011/12/11(日) 15:37:51

ネタSS――「ジパング(笑)にお客さんが来ました」

――西暦1943(昭和18)年1月17日 太平洋ミッドウェー諸島沖


「な・・・何だあれは――」

艦橋に立つ梅津艦長の声が、全ての始まりを告げた。
謎の霧に突入し、僚艦が姿を消してから一晩。
月の姿や星座から尋常ならざる事態が起こっていることは分かった。

だが、海上自衛隊所属のイージス護衛艦「みらい」は軍用の指向性電波での呼びかけに応答しない本土へと帰還を目指し巡航中であったのだ。
だのに――


「角松くん。私にはあれが、あのマストに掲げられている旗が旭日旗であることは分かる。だが、このミッドウェー諸島沖においてあの旗が見られる理由について一つしか心当たりがないのだが。」

「自分もです。艦長。しかし、あれはどう見ても三連装砲塔。日本戦艦独特のパゴダマストも『比叡』のそれのようなものですし、後ろに続く4万トン級戦艦は『大和』型に似ていますが違います。第一、3連装砲塔2基の戦艦なんて聞いたことがありません。それにあの傾斜煙突を持つ大型空母群も――」

彼らが目にしたのは、ミッドウェー諸島北方から進撃しつつある第1および第3艦隊。
空母12、戦艦12を誇る巨大な機動部隊だった。
実質的には日本海軍の全力といってもいい「小沢機動艦隊」である。


「不明艦より信号!『貴艦の所属を知らせ。』」

「艦長・・・どうします?逃げられるとしても・・・」

「そうだな。仮に時代が違っても、同胞同士で相討ちたくはない。それに、私の記憶が確かなら、この距離は戦艦の射程圏内だ・・・。」

かくして、イージス護衛艦「みらい」は小沢機動艦隊に加わる。




――同 1942(昭和17)年2月1日 帝都東京

奇妙な客だ。
と、帝国海軍G號計画担当官 草加拓海中佐は首を傾げた。
海軍の第2種軍装に似たブレザー型の軍服を着用しているが、細部はどことなく違う。

北海道で研究の最終段階――「G號弾」あるいは「マルニ」3発の組み立て作業を監督していた自分が休暇を与えられ、横須賀へ向かったのは昨日。
強行軍の末に見たあの艦「みらい」は、旧式巡洋艦「古鷹」を使用して研究中の防空電探システムの搭載艦に見えた。
海保の南雲さんがやってきた時は「彼ら」も驚いていたが、今はそれ以上に驚いているらしい。

「はじめまして。梅津艦長。『みらい』の皆さん。首相の嶋田です。」

「は・・・海上自衛隊護衛艦「みらい」艦長 梅津三郎一等海佐です。」

「同じく、『みらい』副長 角松洋介二等海佐です。」

「草加君は下がっていてくれ。ここでのことは、口外無用だ。」

嶋田首相が笑顔ながらも鋭い視線を向け、草加は内心身震いしつつ一礼した。

895 :ひゅうが:2011/12/11(日) 15:38:22
さて。どうしたものか――と嶋田は胃が痛くなるのをこらえながら考えた。
小沢提督からの報告が入り、横須賀の古賀君からも同様の報告が寄せられた時夢幻会は騒然となったものだった。
とりあえずは栗田君のもとで丁重に扱われていたために妙な動きこそしていないが・・・


「話は聞いています。何でも未来から来られたとか。」

「はい。信じていただけるかどうかは分かりませんが――」

角松がノートパソコンを開こうとしている。

「いや。結構。話によるとそちらとこちらでは随分と歴史が違うというし、私は部下の報告を信じているから。・・・それで、これからどうされます?」

嶋田は腕を組んだ。

「こちらとしては我が方の指揮下に入って戴きたいものですが。ああ、艦の明け渡し要求ではありませんからご心配なく。むろん、現状でも補給などは致しますが。」

「まずは、この世界のことをよく知りたいと思っています。日英同盟が存続し、第1次大戦で欧州まで遠征した世界というのは・・・どうも。我々の歴史ではこの頃の我が国はガダルカナル争奪戦を繰り広げていましたから。それに、大西洋大津波というのは。」

そうでしょう。と嶋田は頷いてみせた。
これだ。これだからこの人たちを野放しにはできない。下手をすれば衝号がばれる。
幸いにも接触が良好だったために互いに歴史資料などは簡単な交換を行っている。
むろん、夢幻会の手の者のみで。

「一応お伝えしておきますが、我々は、あなたがたの世界で広島と長崎に落とされたものと、その投射手段を実用段階で保有しつつあります。」

二人の男が目を見開いた。
よしよし。これなら、彼らはこちらに関わらざるを得ないはず。

「ご内聞に願いますが。まぁ考える時間はたっぷりあります。あのハワイ沖海戦でわが軍はアメリカ太平洋艦隊の撃滅にほぼ成功。残念ながらガーナー政権は対日講和の意思を見せませんが、戦場は本土から遠く離れています。米本土で細菌兵器が漏えいしたという情報もありますのでこちらに手を出す余裕もないでしょう。
今は、この世界でゆっくり考えてみてください。監視はつきますが、外出などは自由です。ただし――」

未来の情報は秘密に。と嶋田は念を押した。



「どう思う?」

「あれが無能といわれた嶋田総長とは・・・それに陸海軍を完全に掌握して戦争を見事に指導しているというのは、信じがたい光景ですね。」

首相官邸を出た二人は、監視役の草加中佐を後方に置いて、歩きながら話していた。

「そうだな。それに、見ろ。」

梅津艦長と角松が振り返った先、そこには、1940年に予定された東京五輪を前に作られたばかりの「東京タワー」が存在していた。
皇居の外殻をとりまく外堀通りには、平成の世からみると古臭いが、多くの乗用車が行きかっている。
とどめに、道を聞かれた警察官がサーベルを手で押さえながら笑顔で地図を見せている光景は、この世界の「変化」を象徴していた。

「世界第2の強力な工業力を持ち、日英同盟を通じて世界的にも列強の一角として知られ、そのために中国大陸を狙う米国に戦争を吹っかけられた日本帝国・・・か。たちの悪いジョークみたいですね。」

「ああ。だが、関わらないわけにはいかんだろう。彼らは神の火を手にしつつある。あのV2をはるかに上回る弾道ミサイルと、B-29を上回る戦略爆撃機まで。
可能な限り、使わせたくはない。」

二人の男は頷いた。


――「みらい」がこの世界で日本帝国にどんな「未来」を見せることになるのか、それはまだ誰にも分からない・・・。

896 :ひゅうが:2011/12/11(日) 15:45:44
【あとがき】――辻「イージス来た!これで勝つる!!(開発予算節約的な意味で)」という電波を受信したために書いてしまいましたw

943 :ひゅうが:2011/12/11(日) 17:56:34


――西暦1943(昭和18)年3月某日 帝都東京


男たちが、真剣な表情でスクリーンに見入っていた。
そこには、いくらこの世界の日本でも作り得ない高彩度なカラー映像が映し出されている。
おもむろに、男たちは姿勢を正し、言った。

「夢だけど」

「「「夢じゃなかったー!!」」」

そう。
夢幻会の最高意思決定機関「会合」の席上。
そこでは某スタジオ○ブリ作品「となりのト○ロ」が上映されていたのである。


「いやー。いつ見てもいいものですな。」

「まったくだ。本当にこれまで生きていてよかった!」

阿部や近衛など、涙を流している。

「向こうの世界の文化資料として提出してもらうのに苦労しました。軍艦は長期航海のためにアニメや映画作品を多く積み込んでいるものですからもしやと思ったら、やはりありましたからね。スタジオジ○リ作品に、隊員のヲの字の皆さまが溜めこんだ大量のアニメ作品が――」

辻がにやりと笑う。

そう。この男たちは懐かしい平成のアニメの上映会を楽しんでいたのである。
嶋田は、頭痛が痛い・・・という顔をしていたが、それでも顔はほころんでいる。


「もともとエクアドルへの海外派遣のために気合いを入れていたらしく、艦の備品に『沈○の艦隊』とか『紺○の艦隊』が入っていましたからね。BOXで。」

「ううむ。な○は等の2000年代作品が見られないのは残念だが、それを補って余りある戦果だ。嶋田さん。大手柄ですよ!!」

「は・・・はぁ・・・。」

この会合は、転移してきた「みらい」の処遇について決めるためのものだった。
が、根本はアレなこの面々は欲望に正直だったのだ。

『1日時間を作れというから星号作戦の準備を必死で済ませたのに・・・』

「それで、『みらい』乗員の動向ですが」

嶋田が咳払いすると、しぶしぶと言った様子で一同は卓に向き直る。

「角松、梅津の二名が米内さんに接触。しかし阿部君から米内さんの調査書を渡されて呆れたようです。山本さんはいずれ海相になるということを知らせておきましたから、当分はおとなしくしているようです。また、極秘の施設を色々見て回りたそうにしていましたので、草加君の監視付きで許可を出しておきました。」

「一安心、というところですね。」

「ううむ。このような素晴らしい贈り物をしてくれた彼らは、極力丁重に扱いたいがそうも言っていられないか。」

944 :ひゅうが:2011/12/11(日) 17:57:05
「大蔵省としても大助かりです。説明書だけとはいえイージスシステムの現物がありますからね。核技術などの情報と引き換えにでも手に入れた価値がありましたよ。」

男たちが頷く。

こいつら、アニメの方が核技術より重要だとも言いたげだが・・・という突っ込みを自重し嶋田は続けた。

「ともあれ、未来のPCや技術情報は大助かりです。おかげでバッジシステムとナイキもどきの開発に弾みがつきます。ジェットエンジンについても、金属の組成や燃料の配合などの情報が手に入りましたので稼働時間が大幅に伸びます。」

「ますます結構じゃないか。」

「うむ。それに内部向けにも災害情報などの言い訳が立つ。大っぴらに東南海地震対策ができる。」

「問題は、衝号です。辻さん、どうなってますか?」

「問題ないでしょう。大噴火とともに発生した地滑りで核爆発が起きた部分はすべて4000メートルの海底です。それに機材は軒並み蒸発し大量の岩石とマグマが固形化したために証拠はもう20年もすれば検出不能になるかと。噴火で大量のマグマが噴出していますから、その分放射能もごまかせます。」

嶋田はほっと頷く。
懸案は、だいたいのところ片付いているようだ。

「まぁ、すでに歴史は変わっているんだ。彼らも動くとしても戦後になるだろう。」

近衛の総括でこの場はおさまった。
なお、嶋田はこのあと12時間ぶっ通しでアニメ上映会に付き合わされたことを付け加えておく。

945 :ひゅうが:2011/12/11(日) 17:58:25
【あとがき】――追加してしまった(汗)
         とりあえず彼らは夢幻会の感謝の意としての厚遇に困惑することでしょうw

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最終更新:2012年01月04日 09:35