58. 名無し三流 2011/04/09(土) 23:15:17
おおお乙であります。>>名無しモドキ様
私も1つSSを書いていたのですが、こちらはあっさりしすぎていて何とも・・・
とりあえず投下します。


***


  イギリスは、紳士の国である。
さらに言えば、権謀術数の国でもある。
権謀術数とは、平たく言えば腹黒という事だ。

  ドイツ第三帝国の外相リッベントロップも、
「イギリス人こそドイツ外交政策の最大の障害」
と主張して憚らず、英独停戦交渉の際には側近に
「連中(英国人)ほど執拗で面倒な者と言ったら、宣伝省のヨーゼフぐらいなものだろう」
とこぼしたと言われている(リッベントロップとゲッベルスは当時、敵対的な関係にあった)。

  そして彼の国は第二次大戦、大西洋大津波、日米戦争という歴史的な動乱が続く中で、
その権謀術数の能力を最大限に発揮していた。



                提督たちの憂鬱  支援SS  〜腹黒紳士と赤い巨熊〜



「イギリスと極秘の外交ルートを構築しろ」

  全てはクレムリンの主のこの一言から始まった。

  以前よりスターリンは日本に対し強い警戒心を持っており、
その日本と物資の裏取引の交渉が成功しない―――つまりソ連有利な取引にならない事を恐れていた。
そこで保険として、イギリスとも同様の取引を持ちかけるつもりでいたのである。

  さて、こうしてソ連が接近しようとしている事を察知したイギリスでは、
カニンガム卿を中心にしてこれに一旦応じると共に、先方の狙いを見極め、
今後の方針を決めるためにハリファックスらが関係閣僚を招集した。

「苦しいのだな、ソ連も」

「ドイツ人は『とあるスツーカ乗りが単身、敵戦車隊を撃滅した』とか、
  『とあるスツーカ乗りが単身、赤軍三個師団を潰走させた』などと随分威勢の良い事を言っていますが・・・
  戦況が泥沼化しているから、我が国を仲介に講和でも考えているのでしょうか?」

  ハリファックスの呟きに、カニンガム卿が答える。

「その"とあるスツーカ乗り"とやらにはアポイントメントが取れれば会ってみたいものだが、
  今の問題はソ連だ。カニンガム卿。それからあの国の内情で、何か分かった事はあるか?」

「食料の配給が遅れがちになっているようです。
  場所にもよりますが、最大で予定よりも3日程の遅れが出ているとか。
  後はオックスフォードの気象学者が例年よりも寒い冬が来ると予測しており、
  そこからソ連領の多くが寒波に襲われるのではないかと見られます」

「・・・連中は我々に飯をたかるつもりか?
  ・・・いや、有り得ん事ではないか、市民用の食料も戦場に送ってしまったとは笑えんジョークだが、
  どうもあの厚かましい髭面なら平然とやってのけてしまいそうな気がする・・・」

「ジョークとしてはかなり、場所を選ぶ方だと思いますが・・・私も同感ですな。
  食料は国家の基盤。それに困窮するという事は、屋台骨が腐っている事を意味します。
  加えて戦争のために民間用の燃料も十分でないと仮定したならば・・・」

「やれやれ、ちょび髭の方の国もかなり厳しいようだが、もう1人の髭の国もか」

「全くです。・・・それで、もしソ連の狙いが我々に物をたかる事・・・
  あまり上品な言い方ではありませんが・・・だったとしたら、どうしますか?
  今の所は向こうは何も言ってきていませんが」
59. 名無し三流 2011/04/09(土) 23:16:04
  駄目だあの国、早くなんとか(ryとその時ハリファックスが思ったかどうかは定かではない。
が、彼の口にした言葉は質問の主であるカニンガム卿の予想とは少し異なっていた。


「私は、前向きに考えても良いと思っている」

「"前向きに"ですか。はぁ、"前向きに"・・・では先方へはそのような返答をするようにします、が・・・
  例の対米戦略に向けて外交方針を修正しつつあるドイツ始め枢軸国との関係に危険があると存じますが」

「その心配は無い。枢軸国は経済的に困窮しており、起死回生の策とも言えるアメリカへの侵入も、
  あの海軍の弱小ぶりでは何もできんだろう。そこで彼らには必ず我が海軍の協力が必要となる。それに・・・」

「・・・それに?」

「我々には"脅威を持った敵"が必要だ。死に体のアメリカにも、宥和路線を見出そうとしているドイツにも、
  関係修復を図りたい日本にも"演じてもらう"事のできない敵が。それがいれば、
  植民地が反抗の機運を高めようともその敵の"脅威"を盾に我々は植民地の上に居座る事ができる」

「成る程、世界最大の版図を持つソ連が生きていれば、彼の国の圧力から保護するという名目で、
  インドなど重要な植民地の手綱を握り続けられるという訳ですか。確かにソ連は"敵"には適任だ・・・
  我々とはイデオロギーからして違うし、指導者の気質も中々好戦的。ふむ、考えてみる価値はありそうですな」

「それに、万が一ソ連が崩壊でもしたらあそこは枢軸国と日本の草刈場になる。
  あの二国があれ以上強大化するシナリオは大英帝国にとって好ましくない」

「アメリカと違って向こうには介入もし辛そうですからな。
  まあ、シベリアでドイツと日本が潰しあうのもそれはそれで有りですが」

「枢軸国とはこれまでの通りで、ソ連は・・・内情が本格的に不安定にならない限りは、
  ある程度の期待を持たせるぐらいにさせるのだ。リッベンドロップ辺りに知られると五月蝿いから、
  くれぐれも情報の管理には細心の注意を払うようにな」

「勿論です」


  かくして、イギリスはソ連と秘密の外交ルートを構築する事に成功、
日本同様の裏取引交渉に出たが・・・大英帝国が世界に誇る外交巧者ぶりに悩まされる事になるのであった。
あるソ連外交官によれば、イギリス外交官との交渉の際「相手の思考を読めたらいいのに」と本気で思ったと言う。


  ちなみに、当時のドイツ週間ニュースの独ソ戦に関する話題は、
その多くが『スツーカ乗りの中のスツーカ乗り』ハンス・ルーデルと、
『ドイツの狼』エルヴィン・ロンメルの挙げる戦果の話だった。その理由は彼らがヒトラーのお気に入りで、
また宣伝に都合良く良好な戦果を挙げていたからに他ならない。そして、極東は日本、夢幻会の一部人間は、
毎回のように『研究』と称し、嬉々としてドイツ週間ニュースのフィルムを入手していたのだった・・・


                                        〜fin〜


最後は蛇足だったかもしれない(汗
あと、何故カニンガム卿らが日ソの裏取引について触れていないかについては、
?そもそも、日ソの裏取引を察知していない
?日ソの裏取引自体は察知しているが、"それ"と"ソ連のイギリスへの接近"とが結びつかない
のどちらかという事で・・・

今度は"徳球"こと徳田球一に企業家が転生して、
史実の戦前や戦後における労働運動の過熱・先鋭化を防ぐために奔走する・・・
ってSSを書いてみたいなぁ
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最終更新:2012年01月14日 18:50