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193.
名無し三流
2011/05/03(火) 19:45:26
本編第44話で、髭伍長が北米分割構想を実行に移そうと決心したきっかけっぽい何かです。
***
1943年初頭、ドイツ軍の最前線には例年よりもさらに多く雪が降っていた。
ロシアの泥濘に足を取られ、バグーの攻略にも頓挫してしまったドイツ兵の心は、
軍用車両に降り積もるその雪を目にするだけで憂鬱になっていく。
そんな中、ある後方基地に多数の護衛機を伴ったJu52が降り立った。
地上では良く訓練されたと見られる兵達が、その搭乗口に対して素早く垂直に整列していく。
飛行場が物々しい雰囲気に包まれる中、Ju52から降り立ったのはドイツの首領、
アドルフ・ヒトラーその人であった………
提督たちの憂鬱 支援SS 〜雪と狐〜
「遠路はるばるお疲れ様です」
大雪の中ユンカースから降りてきたヒトラーを出迎えたのは、
ドイツ国内でも知らない者はいないと言われる程の有名人となったエルヴィン・ロンメルである。
2人が握手をすると、あらかじめ待機していたカメラマン達が一斉にフラッシュをたいた。
「早く落ち着いた所に行って話をするぞ。この雪が鬱陶しくて堪らん」
ヒトラーは不機嫌な顔で吐き捨てるようにそう言うと、
護衛を側につけてロンメルと司令部の中へ入っていった。
所は変わって司令部内の小さな部屋。中には質素な木製の机が1つと、椅子が2つある、誰もいない部屋だ。
そこにロンメルとヒトラーが入ってそれぞれ椅子に腰掛けると、ヒトラーが溜め息をついて口を開いた。
「………先週、最前線で赤軍の狙撃兵に銃撃されたそうじゃないか」
「はい。幸い弾は搭乗していた装甲車に当たり、弾き返されましたが」
「君は自分で思っている以上に、自分が重要な人物だという事を余り分かっていないようだな。
もしあれで戦死してみろ。いや、致命傷にならなくとも我が国にとっては大事件なのだ」
苛立つ総統の言葉を聞いて、ロンメルは何故自分が後方の基地へ呼ばれたのかを悟った。
「………成る程、それで私を後方へ呼び戻されたと」
「そういう事だ。君は少し無茶をしすぎる。本来ならばベルリンで後進の指導に当たってほしい位なのだ。
君の指揮下にいる彼……そう、ルーデルも君に影響されたのかは知らんが無謀な事をよくしている。
単機で敵装甲列車を生き埋めにしたという報告を聞いた時は血の気の引く思いをしたぞ」
「しかし、正直に申しまして現状は厳しいものとなっています。
膠着状態を打開する為には、少々の無茶も覚悟の上でなくては」
「される側の方も少しは考えてくれないか?それに、国家的にも今は無茶はできん。
軍需工場がフル稼働してこの体たらくだ。今のままではバグー再攻略の延期さえ検討せざるを得なくなる……」
194.
名無し三流
2011/05/03(火) 19:46:00
うつむき、額に手を当てて「ん゙ん゙ー」と言葉にならない嘆きをロンメルにぶつけるヒトラー。
ロンメルが何を思ったか定かでは無いが、流石に気まずいと思ったのか総統に声をかける。
「総統閣下。最前線より、良い報せと悪い報せが1つずつあります。どちらをお聞きになりますか?」
「………悪い報せの方から頼む」
「はい。悪い報せですが……我々は、スターリンによって賞金をかけられました」
「何だと?」
ヒトラーも流石に驚いたのか顔を上げる。
総統が驚くのを見たロンメルは、机の脇に置いてあった鞄から小冊子を取り出した。
「先月捕虜から回収したものです。私から説明した方がいいかと思いまして」
ロンメルが渡した小冊子の表紙には、ロシア語で『ソ連人民最大の敵!!!!』と大書きされていた。
ページを開くと一番上に『以下の者を殺害した者には、その証拠品と引換えに以下の金を贈呈する』と書かれ、
その下にはヒトラーを始めとしたナチスのビッグネームや、国防軍の将官らの名前が盛りだくさんとなっていた。
「………ふん、私の20万ルーブルを筆頭に、ヘス、ヒムラー、ゲッベルスら主要閣僚が10万ルーブル。
そしてロンメル、君は5万ルーブルか。ソビエトの財布がこの金を捻出できるのか、甚だ疑問だな」
「兵に活を入れるために出したのではないかと我々は考えています。
気分の悪くなる話はこれ位にして、良い報せの方に移りましょう」
「そうだな。しかしこういう物騒な本が出回っていると知ると、益々君を前線に出したくなくなるぞ」
ヒトラーの言葉を聞きつつ、ロンメルは手早く小冊子をしまう。そして"良い報せ"を切り出した。
「ソ連製機械の工作精度はこちらの予想以上に低い模様です。
我々もあまり人様の事は言えませんが……捕虜の所持していた武器や、
鹵獲した敵車両を軽く分析させた所、不具合のある物が相当数ありました。
銃器の弾詰まりや不完全閉鎖はザラ、戦車のペリスコープやライフル用スコープも、
比較的精度の低いレンズを使っているものが多いようです。
酷いのでは始動させて1、2分で動作不良を起こす発動機、というのもありました」
ロンメルの言葉を聞くと、ヒトラーの表情は少し明るくなった。
「つまり、赤軍には必ずしも額面通りの戦力がある訳ではない、という事だな?」
「事象をこちらに都合良く解釈するのは危険ですが、あながち間違いでもないでしょう。
交戦中に突然エンジンから煙を噴く敵戦車を見た事もあります。
しかし、これは問題でもあります。鹵獲兵器が使い物にならないという事は、
敵地内での戦力補充が難しいという事でもありますから」
「連中が質の悪い兵器の使用を強いられているというだけでも、こちらとしては心強いのだよ。
まあ、ユダヤ人工場から上がってくる兵器にも似たようなのが無いかと言えば嘘になるが。
今の所比較的信頼性が高いのは、ベルリン近辺の工場とチェコの工場ぐらいだな」
そう言うと、ヒトラーはおもむろに席を立った。
「今日は良い話を聞かせてもらったぞ。そろそろ記者どもの所へ行くとするか」
ヒトラーに促されてロンメルも席を立ち、部屋を後にした。
この会談がヒトラーをして北米分割構想を実行に移させたかどうかは定かではない。
しかし、後世の歴史家の多くはこの会談が彼に北米への進出を決心させたと考えている。
事実この会談の後、彼は北米分割構想を閣僚らに発表し、北アメリカ軍集団の編成を命じたのだから………
〜 f i n 〜
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最終更新:2011年12月30日 19:45
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