257. 名無し三流 2011/05/15(日) 19:08:00
お久しぶりです。
かなり短めですが、ドイツを舞台にしたSSです。
たまには文化面でのお話も書いてみようかなぁと。


***



  時は独ソ戦も酣な頃、ドイツ某所。大きな建物の塀の内側で、
子供達がそれぞれ手にしている紙袋をわくわくしながら開封していた。

  彼らは紙袋の中から目当ての物を取り出して見ると、
ある者は喜び、またある者はがっくりと肩を落としていた。


「ちぇー、ヴァイス(白色)かよ。つっまんねーの」

「おめー何言ってんだよ、この前マンシュタイン元帥を当てたくせにさ。
  ありゃシュバルツ(黒色)の中でもかなり稀少なんだぜ」

「そうだよ、つーかこの前"ちょっと貸してくれ"って言ってたあのルントシュテット、
  あれまだ返してねーじゃんよ。どうしたんだよ早く返せよ」

「ねぇ、ヨーゼフ君はどうしたの?」

「あ、あんな所にいるぜ。おいヨーゼフ!お前は何が出たんだ?」


  塀のそばにいた子供達の1人…ヨーゼフ・アロイス・ラッツィンガーは、
何時の間にか輪の中から離れていた。子供達がそれを見つけて彼の事を呼ぶと、彼は小声で答えた。


「……ルーデル」


「ハァ!?」



    提督たちの憂鬱  支援SS  〜トレーディングカードにまつわるエトセトラ:ドイツ編〜



  ヨーゼフが紙袋の中から赤く縁取られたカードを取り出して見せると、
子供達は稲妻に打たれたかのように硬直した後、一斉に彼のもとへ駆け寄ってきた。


「ヤベーぞオイ、ヨーゼフこのごろ引きが良すぎじゃないか!?」

「ちょ、オメー先月グデーリアンゲットしたばっかりだろ!
  何だ、何となら交換してくれるんだ!?ルーデルと交換なら何でも出すぞ!!」

「コイツ、神様の加護でも受けてやがるのか!?絶対そうだろ!!」


  その後、塀のそばで暫くの間子供達の騒ぎ声が聞こえたという。
258. 名無し三流 2011/05/15(日) 19:09:03
  彼らが執心していたのは、丁度日米戦争が始まった頃からドイツ国内で発売されていた、
『ドイツの騎士』という名前の商品である。

  この商品は、紙箱に3cm×4cmのチョコレート片と、カードが一枚入った紙袋が入っているもので、
そのカードにはある特定のドイツ軍人の写真、名前、短い紹介文が印刷されている。
そして、このカードがこの商品一番の売りであった。

  多くの場合『ドイツ軍人カード』と呼ばれるこのオマケのカード、
『ドイツの騎士』の箱ごとに違うものが入っており、またそのカードは
・シュバルツ(黒で縁取られている。特に高い功績を挙げている将官以上の軍人がこれ)
・ロート(赤で縁取られている。特に高い功績を挙げている将官未満の軍人がこれ)
・ヴァイス(白で縁取られている。上のどちらにも当てはまらない者がこれ)
の三種類の色や、印刷されている軍人の人気度によってその出現率も異なる事、
また当局が『○月中に○○のカードを持ってくれば、それと交換で景品が貰える!先着1000名様!』
『陸軍士官のカードをコンプリートしたら?号戦車の模型をプレゼント!先着5名様!』
などという主旨のキャンペーンを行っている事から国内で人気が爆発した。
そして、その人気が冒頭の子供達のような現象をドイツ各地で多発させたのである。


  このブームの仕掛け人の1人が、誰あろうドイツ第三帝国の総統アドルフ・ヒトラーその人だった。
独ソ戦の緒戦におけるバグー攻略の失敗に激怒した彼は、無能な人材を処罰するだけでなく、
軍に『大戦果を挙げれば色々イイ事がある』という意識を植え付けることを目指す、
要するに『飴と鞭』によって、ドイツ軍の質の向上を図っていた。
また、WW?以降かさみ続ける戦費に、どうにか金を搾り出したいという思いもあった。

  彼が如何にしてこのアイデアを出したかは諸説あるが、

>  ヒトラーは、19世紀末から世界各地で煙草の販売促進目的でタバコの箱に同封された『Tobacco Card』
>(女優、自動車、風景画等様々な絵が印刷されているカード)をヒントにして、ゲッベルスらと共に、
>ドイツ軍人をニュース映画やラジオ等、既存以外の媒体で広く国民に紹介する方法を考案した
(トレーディングカードの歴史書、『19世紀から始まるトレーディングカード史』(民明書房刊)より抜粋)

  上記のような『タバコカード説』が最も信憑性が高いとされている。


  『ドイツの騎士』の売り上げは発売後から順調に伸び続け、
国の全面的バックアップがあったとはいえ商業的には大成功を収める事になった。一方軍の内部では、
『このカードに紹介された者は昇進が早まる』『失敗をするとこのカードに記録されて叩かれる』
などという噂がどこからともなく広がり、兵卒の中には戦果を競う者が増え、
指揮官の中には貪欲に功績の拡張を狙う者、損害を減らすべく慎重に戦いを進めさせる者、
そして自分の失敗をひた隠そうとする者の3者が現れるという、
良い面、悪い面を内包した複雑な結果となったのであった……


これが、世界のトレーディングカード史における有名な逸話の1つである。


                                〜  つ  づ  く  ?  〜

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最終更新:2011年12月30日 20:08