328. 名無し三流@SS投下準備完了 2011/06/11(土) 20:21:18
  ソビエトロシアでは寒波があなたを捕まえる!
(Wikipedia  "ロシア的倒置法"のページより)

  そんな訳で1943年のモスクワは例年に無い冷え込みを見せていた。
そしてまた、クレムリンの中の空気も例によってお寒い限り。
その理由はこれを読んでいる諸兄ならもうお分かりの筈であろう。

  ヨシフ・スターリンを始めとしたソビエトのトップ達が集う会議の内容は、
専ら「大祖国戦争」に関する物ばかりだった。だが、ここはソビエトロシア。
いくら参加した面子が色々と言おうとも、同志書記長閣下の仰る事は絶対。
彼に少しでも異議を挟もう物ならば、次の日には別な誰かが自分の椅子を奪う事になる。



                提督達の憂鬱  支援SS  〜ヨシフ・スターリンの焦燥〜



  今回の会議の主な議題は、大祖国戦争に伴う内政状況について。

「コルィマ鉱山の稼動状況はどうなっているか?」

「全施設をフル稼働させ、現在ノルマの1.2倍の採掘量を確保しています。
  より多くの労働力を確保できれば、同鉱山における金の採掘量はさらに増えるものと分析されています」

(ええい、日本人め……果物一箱に黄金まで支払わせるとは何という奴らだ!
  いや、それも連中の狙いの1つだったのか?コルィマの金も……)

  書記長の質問に担当者が答えると、
彼は悔しいような満足なような複雑な表情をして「よろしい」と返した。

「では、工場の人手は?」

「工場長によれば、ノルマの達成に十分な数の労働者は確保できている模様です。
  しかし、このまま戦場に人を取られてばかりではそれを維持できるかは分からないとも」

  スターリンの質問に答えた後、民需産業の担当者がニヤニヤしながら軍関係者の方を見る。

「戦況は芳しくないようですな」

「前線の指揮官が無用な損害を出しすぎるのだ!貴様等こそ本当にノルマを達成できているのか?!
  補給物資の到着が3ヶ月に渡って全く無い部隊もあるのだぞ!!」

「工場は正常に稼動している!!どうせ輸送部隊が横領でもしているのだろう!!」

  制服組と担当者が顔を真っ赤にして自分達の失敗を擦り付けようと声を荒げるが、
ヨシフが大きな咳払いをするとそれも嘘のように静かになった。



  そして結局、会議は低調のまま終わった。
329. 名無し三流@SS投下準備完了 2011/06/11(土) 20:22:18
「同志モロトフ、確か中共やホーチミンはこちらの支援を求めてきていたな」

  スターリンは会議の後、外相モロトフを呼びつけて尋ねた。


「はい。一応中国の方には国民党との協力を促すよう手配している所ですが…?」


  不機嫌な書記長はしばしの沈黙の後、とんでもない発言をした。

「支援の対価として彼らから労働力を回収する事は可能か?」

「………はっ!?」

「こちらから武器弾薬を提供する見返りとして、連中から労働者を貰うのだ。
  我が国の内部では随分人手が不足しているのだろう?前線に兵を回さねばならん事も考えれば、
  その穴を中国人やベトナム人に埋めさせるのというは合理的ではないかね?」

「求めるだけなら可能ですが、しかし……大きな反発と、損失が予想されます」

  モロトフは大汗をかきながら答える。スターリンが"反発と損失"について尋ねると、モロトフは答えた。

「毛沢東はともかくとして、ホーチミンはかなり右派的傾向の強い人物です。
  いくら理路整然とした要求とはいえ、同じベトナム人を遠方であるこちらに送る事に彼が反発を覚えないとは限りません。
  また、損失についてですが……日本も東南アジアや中国の情勢には大変な注意を払っている模様です。
  これをネタにし、日本が彼らを取り込んで我々の当該地域への影響力を削ごうとする可能性も否定はできません。」

「ふむ……」

  書記長は再び思案した後、日本周辺の地図を取り出し、ある一点を指差した。

「では、この……何だ、満州から盲腸のようにはみ出ている所……」

「朝鮮半島ですか?」

「うむ。そこにも確か国があっただろう。あれはどうなっている?」

「大韓帝国は日米戦争において、一部政府高官が……」

「簡潔に、三行で説明しろ」

「は、はい。えー……
  『今まで飼い主だった中国がアメリカごと駄目になって
    新たに地域の覇権を握った日本に媚を売ってみたけど冷たくされて
    そんなこんなでどうして国と名乗ってられるのかとても不思議』
  といった所ですが?」


  スターリンはモロトフの簡潔といえば簡潔な、余りといえば余りな解説を聞くと、
何か納得したような顔をしてモロトフに言った。

「よく分かった。もう下がってもよい。
  それから言っておくが、今回の案件は破棄した訳ではない。関係者と検討の上で、
  正式に採用される事になったら君には一仕事してもらうぞ」

「はい…………」

  モロトフは心の中で溜め息をつきながら部屋を退出した。
330. 名無し三流 2011/06/11(土) 20:22:52
  そして、モロトフが退出したのを確認したスターリンもまた、溜め息をついていた。


(全く。今回の会議も責任者共は責任のなすり付け合いをしてばかりだった。
  連中も自分の責任を投げ出してよく責任者面をしていられるものだな……厚顔無恥とはこの事か?)

  もしこれを夢幻会の面々が聞いていたら「厚顔無恥はお前だろ」と一斉に突っ込みを入れるに違いない。

(ああ、私にも日本の夢幻会のような優秀で、各部署間の調整が神業的に上手で、
  国の様々な所に食い込んでいて、かつ心の中には私への忠誠心しか無い……ここが一番重要な所だ……
  そんな組織が欲しいものだ……いっそKGBに攫ってこさせるか)

  その夢想の中で、ふとヨシフは自分が今まで何をしようとしていたのかを思い出した。
そして、自分がそれを思い出した事を自覚すると、間髪入れずに執務室の電話を取った。


「―――KGBか。私だ。議長と代われ」

  暫くして、議長が電話に出たのか、スターリンは話を進める。


「単刀直入に言おう。KGBに"韓国人の集団拉致"は可能かね?
  可能ならば直ちに計画を立て、私の所まで持って来い。
  不可能ならば今ここで『ニェート(いいえ)』と言うのだ。」





  スターリンは暫くの間、受話器を手に取りながら動かなかった。


  そして、一言手短に言った。



「うむ」



  それだけを言うと、書記長は受話器を力強く台へと置いた…………



                    〜  f  i  n  〜

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最終更新:2011年12月30日 20:12