341. 名無し三流 2011/06/12(日) 14:32:15
  "歴史の修正力"という言葉がある。
  いわゆる逆行者である夢幻会の主要メンバーは、度々この言葉に苦しめられてきた。

  その最たるものと言えば、彼らが何としてでも避けようとしてきた対米戦争が勃発した事であろう。


  夢幻会は様々な方法により歴史を変えようとしてきた。
  しかし、それは思わぬ波紋を呼んだり、事態の悪化を招いたり、
  良い事と同じくらい悪い事を呼び込んでいた。


  "歴史の修正力"とは一体何なのか?

  それに関しては現在も小説家や小説のファンによって様々な議論が成されている所である。
  だが、その議論も現在進行形で、様々な所でかかり続けている"力"を止める事はできない。


  全ては"それ"に為されるがまま、なのだ。


  これからお話するのは、憂鬱世界において発生した"歴史の修正力"の一端である………




          提督たちの憂鬱  支援SS  〜歴史の修正力:オードリー・ヘップバーンの場合〜




  ドイツ占領下にあるオランダの町中を、1人の少女が自転車に乗りながら走っていた。
名前をオードリー・ヘップバーンと言う。

  彼女は対独レジスタンスの一員として、
別な町のレジスタンスのアジトへ連絡を届けに行った帰りであった。

  オードリーは自然に振舞うように努めていた。
町は閑散として人通りも無いが、いつ誰に見られているか分からない。

(家に着くまで、何も無ければいいんだけど)

  彼女は心の中でそう願っていたが、果たしてその願いが聞き届けられる事は無かった。
342. 名無し三流 2011/06/12(日) 14:33:09
  町のT字路に差し掛かった時、建物の影から2人のドイツ兵が顔を出した。
自転車のスピードを上げていたオードリーはあわててブレーキをかけ、
自転車はドイツ兵にぶつかる5インチ程手前で止まった。要するにギリギリである。

「おいコラ、危ないだろうが!!」

  当然ながら、距離がギリギリでもそれでセーフと言う訳には行かず、
2人組の片方がオードリーを怒鳴りつけた。オードリーは自転車から降りて謝る。

「ごめんなさい、悪気は無かったんです。ついボーっとしてて…」

「貴様の眉毛の下に2つ光ってるのは何だ?眼だろ?え?
  付いてても役に立たない目なら穿り出して代わりにガラス玉でも入れとけ!」

  2人の怒っている方は眉間に皺を寄せて中々に黒い皮肉を言う。
オードリーがオロオロしていると、もう片方の兵が笑顔で怒っている方の肩に手をかけた。

「まぁまぁ、年端も行かない可愛い娘に大人気ないぞ。
  お嬢ちゃんも急ぐ用事があったんだろ?なら仕方無いさ。」

  優しく庇ってくれる兵隊の片割れにオードリーは一旦ホッとしたが、コトはまだ終わってはいなかった。

「……とにかく、何をしようとしてたのかだけは聞いておこうか。仕事だからな」

  質問があまりに突然だったので、これで無罪放免かと思っていた彼女は慌ててしまった。

(どうしよう、変な答えでも返したら絶対怪しまれるわ)

  そして反射的に視線を逸らしたオードリーの目に入ったものは、

『ウーファーは若い魅力を欲しています!
  新作映画のエキストラに、あなたも参加してみませんか?
  ※この町でもオーディションを行わせて頂いております!
    興味のある方は是非いらして下さい!連絡はこちらまで↓』

  などと書かれ、壁に張ってあったポスターであった(ウーファーはドイツの映画製作会社である)。
彼女はとっさにそれを指差して、見回りのドイツ兵2人組に説明した。


「あ、あの、これです。これに行こうと思って」


  そして、オードリーのこの説明を聞き、怒っていた方の兵隊は、腕を組んで片眉をピクリとさせると言った。

「ふん……仕方の無い奴だな。ついて来い、案内してやる」


  オードリーは仕方なく2人の兵士に付いて行く事にした。完全なる"身から出た錆"である。

  彼女は最初、2人は自分を騙して、当局に連れて行くつもりなのではないかと心配していたが、
2人はなんと、きちんとオーディション会場までオードリーを案内してくれたのだ。
会場となっているビルの前で、2人はオードリーに言う。

「ほら、お前の自転車は盗まれないようにここで見張っててやるから、
  オーディションでも何でもとっとと行って来い」

  オードリーは彼らの親切心を有り難いと思っていたが、同時に激しく後悔していた。

(ここまで来たら、オーディションに出るしか無いじゃない……
  私、どうしてあの時あんな事言い出したんだろう)

  しかし後悔した所で状況が変わる訳でもなく、
彼女は半ば諦めたようにビルの中へと足を踏み入れていく。



  これが、史実では世界随一のスターとして映画界を生きた彼女が、
この憂鬱世界で映画というものに関わる事になるきっかけだったのであった………

                              〜  f  i  n  〜

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最終更新:2011年12月30日 20:13