348 :名無し三流:2011/06/17(金) 22:16:54

「ふむ…日本がフィンランドに供与するというその戦闘機は、それ程高性能なのか」

「はい、現地に航空技師を派遣して詳しい調査をしております。後は報告待ちですが…」


 ベルリンの総統官邸で、ヒトラーはリッベンドロップからの報告を聞いていた。そして考えを巡らせる。


(これは航空機で歓心を買うのは厳しそうだな…距離と、陸上兵器でアプローチするしか無いか?
 それでも…陸上兵器も"あの"九七式未満では彼らは翻意したりはしないだろうな……となるとⅡ号やⅢ号、38tはペケか…)


 ドイツは、対ソ戦を意識し始めた頃からフィンランドへ強い外交的な働きかけを行っていた。
理由は簡単である。フィンランドはソ連の心臓の1つ、レニングラードのすぐ近くにあるという地理的な理由もあったが、
もう1つは冬戦争でフィンランドとソ連の友好度は冥府のさらに底、タルタロスの奥深くまで沈んでいた事だ。
要するに『敵の敵は味方』という事である。

 だが、ドイツはフィンランドとの友好関係構築を少し簡単だと思いすぎていた。
フィンランドは確かにアンチソ連ではあったが、かと言ってドイツスキーという訳でも無い。
冬戦争後には日本という名の素晴らしい友邦が出来た上、
その日本はドイツと二度の世界大戦で敵対している、言わば不倶戴天の敵。
また日本内部には(主に人種差別を理由として)民間にまで嫌ナチス感情がはびこっていたし、
『坊主憎けりゃ袈裟まで憎い』の要領で、親独国家(イタリア、ヴィシーフランスなど)
にも白い眼を向ける者は政財官民、枚挙に暇が無かった。

 これは、ドイツがフィンランドを引き入れるには、
フィンランドが日本との関係後退というデメリットを受け入れるに値するメリットを、
ドイツが与えなくてはいけないという事を意味していた。



       提督たちの憂鬱 支援SS ~足長戦闘機ショック~



 日本がフィンランドへのレンドリースを決めたのは、一式戦闘機「飛燕」。
カタログスペック(設定スレ7の>>296参照)では最高速度が689km/hで、
しかも航続距離が2750kmという、欧州勢からすれば(航続距離的に)化物じみた戦闘機である。

 欧州の戦闘機は邀撃を主目的として設計されたものが多く、
広い太平洋で活動する事を想定していた日本のそれに比べて航続距離が大きく劣る、
時に1桁もの差を付けられるのはごくごく自然な事であった。

349 :名無し三流:2011/06/17(金) 22:17:35

 だが、今までは日本が自国兵器のスペックを軍機として慎重に管理していた事から、
日米戦争などでの大戦果があっても多くの人々は「日本は何か凄い兵器を持っているらしい」
という感覚しか抱いていなかったので、フィンランドが日本から戦闘機を受け取る事になったのが、
欧州各国が一線級の日本機(正確に言えば一式)の性能について詳しく調査できる初めてのチャンスだった。
それ故に、漸次明らかになっていく一式のスペックは彼らを必要以上に驚嘆させた。

 日本が突きつけてきた「長大な航続距離を持つ単発戦闘機」という衝撃は、
欧州の航空機メーカー勢に、筆舌に尽くし難い程の艱難辛苦を背負わせる事になる。

 後に言う「足長戦闘機ショック」である。(※足=航続距離。足長=航続距離が長い)


 ドイツでは、不整地が多く、また途方も無く広いソ連領内において得られた戦訓から、
航続力に優れた飛行機の開発には比較的多めの予算が割かれていた。
しかし増槽搭載戦闘機の試金石として作られたBf109E-7はパッキンの不整合等で燃料漏れが多発。
また、パイロットの中に「燃料なんか増やしても機体が重くなるだけだ、武装を強化してくれた方がマシ」
という意見を出す者が多数いた事、また技術者からも「既存機の改造には限界がある」との声が上がった事で、
空軍は渋々新型機開発の為の予算を捻出させられる事になる。
(技術者側からの声には予算獲得の狙いがあったのではないかと考える研究家もいる)


 それとは対照的だったのが紳士の国イギリスで、彼らはスピットファイアにこだわった。
スピットファイアは基本設計が優れていた為に長い事改修されてコキ使われていく事になるのだが、
どこで何を間違ったのか、使えそうなスペース全てに呆れる程燃料タンクを増設した"長距離戦闘型スピットファイア"
なる試作機を作ってしまい、周囲から「m9(・∀・)<ちょっと太ったんじゃないの?」と皮肉を言われてしまった。
しかし彼らはその後もめげずに丁度良いバランスを探ってみたり、今度はソードフィッシュに増槽を搭載してみたり、
またどこで道を誤ったのか"艦船用増槽"を考案してみたりしていた。変態紳士の面目躍如である。


 ソ連は色々と「何この詰みゲ」な状態ではあったものの、
フィンランドに供与されるという日本機の脅威を最も切実に感じていた。
フィンランドはかつて自分達が領土を分捕った国であり、
そんな国が軍事力を強化しているとなれば、いつ自分達へ雪辱戦に挑んでくるか分からない。
そこで、設計局を鞭打ち、他国同様長距離戦闘機の開発に乗り出した。
さらにはバレンツ海付近の戦力を強化して北極海航路の牽制もしようとしたが、
こちらは西に敵国ドイツ、東に仮想敵国日本がある状態でまともに遂行する事はできなかった。

350 :名無し三流:2011/06/17(金) 22:19:09

 他の国々もこの動きへ乗っかったり乗っかろうとしたりし、例によって夢幻会はこれを爆笑……
というのがいつもの流れなのだが、今回ばかりは少し違った。

 各国がレシプロ機に注力している間、日本では既にジェット機量産化のメドが立っていたのだが、
夢幻会の間ですぐにそれからのジェット機開発の流れをどうするかで抗争が発生したのだ。
抗争と言っても論争の域を出ない、それは実に他愛も無い物であったが、本人達は至って真剣だった。

「疾風が米軍機モデルなんだからそのままF-4、F-15、F-22と発展させていけばいいだろう!」
「ちょっと待て、ソ連はボロボロだそうじゃないか。今こそスホーイを乗っ取って日本版黄色中隊をだな…」
「倉崎ならモルガンとか作ってくれそうじゃないか?」
「お前ら、これはエスコン談義じゃないんだぞ!」
「F-1とF-2は三菱に作らせてあげてください(´;ω;`)」
「機種とかどうでもいいよ、アイ○ス塗装すればそれが俺の愛機さ」

 等等……


「皆さん、夢を広げるのは大変結構ですが、それを現実にする前には財布との相談もしておいて下さいね」

 その論議(というかもはや雑談)に辻が水を差す。

 実際、夢幻会には夢想家、というか色々なマニアが相当数いる。ある大戦略マニアは、
「同志とこっち仕様の大戦略(PCは無いのでとりあえずボードゲームで)を作っているのだが、
 日本兵器が強すぎてバランスが崩れる。あまり日本軍を強化しないで欲しい」
と書いた意見書を嶋田邸へ直接投函して嶋田の精神に更なる打撃を与え、またある腐女子は
「お嬢様学校があるなら美少年専の男子校もなければ不公平だ」とあの辻に直接抗議し、
受け入れられないとなると「世界に出ても恥かしくない紳士を育てる男子校を作ろう」という意見広告を同好の志と作成。
「そんなのイギリスだけでいいだろ…」と、やおいにはおよそ縁の無い常識的な夢幻会メンバーの頭を抱えさせた。

 …閑話休題。何やかんやの議論があったものの、
これからの世界情勢、また仮想敵国の軍備がどのようなものになるかが分からない事から(※)、
結局出たのは『暫くは各種の状況を注視しつつ、フレキシブルに対応しよう』といううやむやな結論だった。

(※)例えば超高高度を音速で飛行できる爆撃機を他国が所有していない状況で、
   フォックスバットのような機体を作っても偵察ぐらいしか使い道は無い。
   開発予算は無尽蔵ではないのである。マルチロール機の典型であるF-15や、
   頑丈な地上攻撃専門家A-10などは大抵の局面で開発しておいて損は無いが…

 日本と他国。その間にあった技術的な視野はかけ離れた物だった。
しかし、どちら側でも同じように侃々諤々とした論争は行われていたのである。
これは人間が人間である限り、決して逃れ得ない宿命であると言えよう……



               ~ f i n ~

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最終更新:2011年12月30日 20:14