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357.
名無し三流
2011/06/20(月) 20:22:31
『災害に備えましょう!まずは三菱の緊急時用小型発電機を!』
『もしもの時あなたの命を守るもの。それは家族の絆と、この防災用品袋!』
『"神風が いつでも吹くとは 限らない"
明日来るかも分からない大災害。
それを乗り切る助けとなるのは神風ではなく、防災教室です!』
これらは日米戦争が"合衆国の崩壊"という予想だにしなかった局面へ入った頃、
日本国内の多くで見る事ができた広告の1つである。
内容は読んでの通り防災意識の啓発であったり、自社製品の売り込みであったりした。
そしてその動きを主導していたのは、三菱を中心とする企業同士の会議『日本防災推進委員会』だった。
提督たちの憂鬱 支援SS 〜備えが有れば…〜
大西洋で発生した大津波は、欧米へ1世紀は回復不能なのではないかと思わせる程の打撃を与えた。
列強各国はこの大津波がもたらした被害に驚愕した。そして日本も、その列強各国の1つだった。
災害直後の混乱が落ち着くと、日本のメディアは『アメリカ東海岸、阿鼻叫喚の地獄絵図!』
『イギリスにも訪れた津波の余波!現地住民は語る!』等とこの天災をセンセーショナルに書き立てて、
国民の間で自然災害、特に津波に関する関心を高めていた。
また政府の関係機関及び考古学者らの尽力により貞観地震とそれに伴う貞観津浪の資料が発掘され、
「日本も巨大津浪に襲われた事があったんだよ!!」とキ○ヤシじみた大々的発表が成された事で、
日本の国民の間ではにわかに『防災ブーム』が生まれる事になる。
この防災ブームは"ブーム"の域に留まらず、"防災文化"とでも言うべき存在になりそうな勢いであった。
勿論当世を生きる人間にとって大西洋大津波は対岸の火事(どころか"天の配剤の妙"と思っている節もある)、
関東大震災は"終わったコンテンツ"に片足を突っ込みかけていたのではあるが、
日本の有名大学の教授らが(売名目当てもあるが)災害についての論文を発表して、それが新聞や新書に載ったりすると、
より多くの人々の目が自然と、この防災ブームを当てにして発売された防災グッズ群に向けられる事になる。
358.
名無し三流
2011/06/20(月) 20:23:04
夢幻会が三菱を中心とした企業間組織『日本防災推進委員会』を作る事を決定したのは、
これをいい機会にして日本人の防災意識をより高めるためである。
しかし、同時にこういったブームが制御不能な方向、不穏な方向へ持っていかれるのを防ぐためでもあった。
三菱はこの委員会でリーダーシップ的な立場を取って倉敷に対するアドバンテージを得たかったし
(夢幻会としても、これまで地味な仕事ばかり請け負ってきた三菱には何かさせてやりたかった)、
それ以外の企業も名門である三菱と組んで防災ビジネスを展開できるというのは魅力的な提案であった
(夢幻会としても、少数企業の一人勝ち状態を避ける為に他の企業も巻き込みたかった)。
かくして関係者らの思惑が一致した事で、この委員会は割とすんなり成立する。
そして委員会がした仕事は中々のものであった。まず大学から有能な(著名な、ではない所が大事)学者を招き、
企業が彼らのパトロンとなって災害研究を推し進めさせる。その結果を企業は新製品の開発に利用する。
少し語弊があるかもしれないが、この"蜜月の関係"は上手く働いて防災技術の進展へ大きく貢献した。
東京郊外には官民共同出資によって大型の耐震実験装置(要は地震体験車の中が超広いバージョン)
を備えた耐震試験施設が作られ、プレハブ小屋からタンスまで大小様々な物品がこの装置の洗礼を受ける事になる。
この施設は人々の耳目を集め、同施設の見学者用に作られた『地震体験室』は予約が二週間先まで埋まってしまった。
この試験施設には後に津浪、暴風雨などを再現する装置を備えた棟も増築され、
また東京以外にも様々な所で似たような施設の建設も計画されていく。
さらに、貞観津浪の被害を受けたと見られる地域には民間も含め少なくない数の調査隊が送られ、
周辺の詳細な地形と津浪の高さ毎に想定される被害範囲を記載した地図の作成が始まっていた……
359.
名無し三流(このレスでおしまい)
2011/06/20(月) 20:23:47
宮城県の沿岸部、とある集落の浜辺。
そこでは東京の大学から来た学者とその弟子達が防災地図作成のための調査をしていた。
彼らの道案内をしていた少年が、学者に話しかける。
「おじさん達みたいな人、最近良く来るんだよ。この辺で何かあるの?」
少年の問いに、("おじさん"はまだ早いだろう、jk…)と思いながら中年の学者が返す。
「うん、私みたいな人かい?」
「ああ。確か……どっかの大学から来たとか言ってた。おじさんみたいな事してたよ」
少年の記憶はだいぶ曖昧だったようであるが、それを聞いて学者は満足げに頷いた。
(大学にいて俺みたいな事をしようとする奴というと……あいつとあいつと、あとそいつ辺りかな。
全く、皆して気が早いもんだな……まあ、俺も人の事はあんまり言えないんだが)
しばしの思案の後、生徒達が周辺の測量を終えた事を告げられると、
学者は手早く機材を片付けてトラックに積み込むように指示した。
指示をし終わって弟子らがテキパキと動き出すと、学者は少年に問うた。
「……君、海は好きかね?」
意味深な表情で海の方を見つめながら尋ねてくる学者に、少年は戸惑う。
「……いや、いきなりそんな事言われても……
俺の父ちゃんも爺ちゃんも俺が生まれた時から海に出て仕事してたし、
向かいん家も隣ん家も、俺ん家と同じだったからなァ……
なんかその、海はあって当たり前、っていうか何ていうか」
「そうか……じゃ、海を離れて暮らすのは嫌かい?」
少年は再びかけられた不思議な質問に、少し考えてから答えた。
「それは…………嫌だよ。だって、海を離れた暮らしなんてサッパリ想像できなくて、怖いもの」
少年の答えに、学者は満足げに頷いた。
「海を離れるのが嫌なら、もっと海の事を知らなくちゃいけないぞ。
海の事だけじゃない、海に関わる色んな事もだ。海の危険も……
例えば………津浪とか………いや、まだ君には早すぎるかもしれないが。
ともかく、何事も『備えが有れば憂い無し』という事だよ。いいね?」
少年に学者の言葉はまだ難しすぎたのか、はたまた突飛すぎたのか。
彼は首を少しかしげると、「うん、わかったよ」と言った。
振り向くと太陽は山と空との境目へ迫ってきており、既に雲もオレンジ色に染まっている。
「今日は母ちゃんが、お客さんが来たってんで奮発して飯作ってる筈だぜ。
おじさん達、一緒に食べてかないかい?」
少年の提案に、学者は満面の笑みでそれを承諾する。
(何十年ぶりかねぇ……ここで飯を食うのも)
そんな事を考えながら、学者は浜辺を駆けていく少年の後を歩いて付いていくのであった…
〜 f i n 〜
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