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支援2_名無し三流さま_徳田球一と浅沼稲次郎と…
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417.
名無し三流
2011/08/13(土) 20:06:49
1943年2月。福建共和国はうきうきとした気分に包まれていた。
日本と中華民国(奉天派)の講和会議が下関で締結され、
そしてその条件の中には『浙江省の福建共和国への譲渡』があったからである。
福建共和国はこの戦争で大した仕事はしていないのだが、
それでも自国の領土が増えるという事、またその土地が食料の生産的に有望な土地である事、
つまりは上手く戦争の勝ち馬に乗る事ができた事から福建の国民感情は極めて良いものだった。
そして福建共和国にある徳田総合商社の本社ビル―――通称『徳ビル』。
そこの一室に、2人の男がいた。
片方は徳田総合商社の創始者であり福建随一の名士である徳田球一、
もう片方は独特な論調で知られる『日ノ出新報』の名物記者、浅沼稲次郎である。
提督たちの憂鬱 支援SS 〜徳田球一と浅沼稲次郎と…〜
「浅沼さんも相変わらずお元気そうですね。
福建では早速、不動産屋なんかが浙江省に現地入りしてますよ。」
テーブルにある高級緑茶を口にし、徳田は浅沼に話しかける。
「ええ。日ノ出新報の最近のトレンドは『先軍主義の危険性』ですかね。
世の中の問題を軍隊で解決できると勘違いした連中が増えるのは好ましくないので」
「そうですね。平和厨も戦争厨も居ないのが理想なんですが……」
「……そうとも行かないのが現実なんですなぁ」
浅沼が溜め息を付くのを見て、徳田は「本題に入りましょう」と言った。
浅沼は取材に来たのでは無く、徳田からの招待を受けて来たのであり、
彼自身その事はよく理解していたのですぐに暗い表情を切り替えた。
「今回貴方をお呼びしたのは、最近私の所にこういう物がよく来るからなんですよ」
徳田はそう言って、懐から封筒を取り出す。
そこに書かれた送り主の名を見て、稲次郎はははあと納得したような顔をして尋ねる。
418.
名無し三流
2011/08/13(土) 20:07:33
「中共にベトミン、インドのジャワハルラール・ネルー……
やれやれ、何かとんでもない連中からの手紙ですね。何が書いてあったんです?」
「端的に言えば、『欧米帝国主義の侵略から故郷を救うため、
自分達の組織の"パトロン"になってほしい』という感じでしょうか。
迷惑千万な話ですよ。こちらは平和的に企業活動に従事したいというのに」
「ははは、まぁまぁ。それにしてもホーおじさんやネルーからも来るとはねぇ……
ネルーは確か、日本政府にも色々と働きかけをしていたようですが」
「彼ら(嶋田達)が自分からイギリスとの関係にヒビを入れるような、軽率な事をする訳が無い。
国民感情は『なんでネルーに手を貸してやらないんだ』という声の方が大きくなるでしょうがね。
で、さらに困った事にはこの中共からの手紙……これね、返事出さずに放置してたら、どうなったと思います?」
球一は一呼吸置いた後に、再び話し始めた。
「中国共産党のビッグネーム、その名も『周恩来』ですよ。彼が私の所まで直接支援を求めに来たんです。
具体的な内容は武器・糧食購入のための資金援助でね。もちろん断りましたが……聞きしに勝る粘り腰でした。
国民党の方の中華民国と協力しているから正当性があるとか、色々ね。いや、4時間は話し込みまして疲れたの何の」
「大陸人パワーの本領発揮といった所ですか。
そういえば、彼は史実よりも酒を控えてると聞きましたが」
「はい。どうやら悪い酒……史実のヤミ市で出回ったようなものを掴まされたようで。
それから酒選びには慎重になったみたいなんですが、この情勢下では良い酒もなかなか見つからない、と。」
「ははあ……では周さんの寿命が延びることもあるかもしれん、と?」
「あくまで『かもしれない』の範囲でしょうが……」
「後はホーおじさんとも面会しましたよ。中身はだいたい、周さんのそれと似たようなものでした。
彼もとても誠意のある人間で、かなり良心に来るものがありましたが……これも拒否を通しましたよ。」
徳田の困った顔を見て、浅沼も次第に真剣な表情になっていく。
「某片羽の妖精風に言えば《決意…いや覚悟か、こういう手合いが一番怖い》ってヤツですな。
しかしこれは本当に困りましたね。彼らは日本政府をあまりアテにできないと見て、
政府とはあまりしがらみのない貴方のような人をターゲットにしだした、とも考えられますよ、これは」
419.
名無し三流
2011/08/13(土) 20:08:10
「まいったな……いや、良心にだけしか来るものがなかった訳でもないんです。
以後、植民地独立運動の流れは史実通り止め得ないものとなっていくでしょう。
その時確実に運動の中心となるであろうホー・チ・ミンやネルーとの関係を作っておく事は、
ベトナムやインドの対日感情に好影響を与えると考える事も出来ますから。」
「しかし、それは確実に欧州との関係悪化にもつながる。
さらにはアジア地域の混乱をも招き同地域の経済力…すなわち購買力も低下する」
「そうなんです。それもあるんですね……全く諸刃の剣とはよく言ったもんです。
いや、この場合はリスク>リターンになるから諸刃の剣にもならないのかな」
「多分そうでしょう。まぁ、私はこの福建共和国を良い国にするために努力するだけです。
独立運動を支援するなんてそんな危険な橋は渡らない。たとえ後世の歴史家に叩かれようともね。」
徳田が迷いの無い顔できっぱりと言う。
「やれやれ、辻さんもそうですが、貴方も一旦目標を定めたらぶれませんね。
それで私を呼んだのは、この情勢下でピリピリしてる内地の夢幻会メンバーを安心させるため………
という事ですか?」
「ええ。それと………私は内地を離れる時に、世界の面倒ごとには極力関わらない事を約束しましたが、
さすがにあれだけ頼み込まれて心が揺らがない訳じゃない。それを止めるためにも貴方を呼んだ訳です。」
「なるほどねぇ………ま、それも選択としてはありでしょう。
自分の言ってる事、思ってる事が本当に正しいのか不安になった時、
それに賛同してくれる人がいるという事実が与える安心感というのは実に大きい。それに」
おもむろに浅沼は立ち上がった。彼の言葉を聞き、徳田は尋ねる。
「それに?」
「良いネタの提供を有難うございました。
私も中共やベトミンその他の乞食行脚について調べてみましょう。
上手く行けば記事が1本できるかもしれないですしな。」
「ははは………ぶれてないのはどっちだか。題はさしずめ『中共の 金の無心に 気をつけて』ですか?」
「五七調ですね。まぁそれは自力で考えますよ。それじゃあ徳田さんも頑張って下さい」
浅沼はコートを着て、徳田に別れの言葉を言う。
それに対して、徳田も笑顔で返した。
「大丈夫です。福建共和国はきっと、日本の良きパートナーになりますよ。いや、私がそうして見せます。」
420.
名無し三流
2011/08/13(土) 20:08:44
数日後、東京は某所………
「そうですか、流石は彼ですね。周恩来やホーチミンとやりあって折れないとは」
隙の無い目つきの男が、浅沼と話しこんでいる。
「中国人のバイタリティは未だに侮れないものではありますが、
徳田さんの総合大学では中華思想の一掃を図っている最中でもありますし、
まぁ日本の良き"ライバル"になってくれるとは思いますよ?」
浅沼の言葉に男は頷く。
「慢心しがちな日本人には追い越すべき存在や、追い越されたくない存在を以って鞭を入れる必要があります。
その存在は、今のところドイツや北欧の国々が有力ですが、それだけでは少し心もとない。
地理的に近い存在である福建をそのメンバーに加えてやる選択肢も模索するべきでしょう。」
「ひとまずは韓国叩きや中国叩き、エゲレス叩きに終始している連中とバトルしに行きますよ。
ただでさえ油断の多い日本人に他国見下しの癖が付いたら目も当てられない。」
「お願いしますよ?『世の中の意見・価値観が1つしかない状況を防ぐ』日ノ出さん。」
「ええ勿論です。なにせそれが我が社の創設理念の1つなのですから………」
浅沼は男の言葉におちょこ一杯の清酒を飲み干して、日ノ出新報社の創設理念の1つを唱えた。
『一つ。当社は只々万民の心が唱える論を広く表すのみならず、また万民の心に反し、
世の理にそぐわぬ事甚だしと考える者多きもう一つの論にも顕在化の光を当て、
以って世に只一つの論、世に只一つの理のみが存在を許さるる世界の誕生を防ぐために在る』
それを聞いて、男は目を細める。
「いやはや、実に捻くれた理念ですね。まぁこの世には只一つの理しかない世界もある訳ですが」
そして、2人は乾杯をした。
「我等がMMJの為に!」
「………辻さん、一応言っておきますが私はMMJ構成員ではありませんので」
〜 f i n 〜
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最終更新:2011年12月30日 20:42
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