434. 名無し三流 2011/08/27(土) 20:04:33
  1940年代の前半も半ばという頃、帝国陸軍富士演習場。そこは無数の民間人でごったがえしていた。

  事の発端は、夢幻会の会合においてある人物が「史実自衛隊の基地祭みたいなのを、やらないか?」と発言し、
またある人物が「ウホッ、いい提案!」と相槌を打った時である。対米戦の準備など様々な仕事や調整があって、
第1回となる『帝国陸軍総合祭』が開催されたのは対米戦争勃発から大分時間が経ってからになってしまったが、
大陸で大活躍を続ける陸軍の勇姿を一目見たいという人々はこぞってこの祭りに来場し、
富士山麓の演習場に設置された会場の入り口に置かれた寄付箱(陸軍予算の足しになる事を願い設置された)
は、ものの小一時間で満杯になってしまったのである(中には黄金そのものを入れる金持ちもいた)。


  そして、その演習場では陸軍兵士が普段口にする糧食の試食会や、
戦車への試乗会が行われており、また吹奏楽隊による国家「君が代」の演奏なども行われていた。
計画開始時から執拗に提案されていた同人誌の頒布については「これは流石にちょっと……」という意見も出たものの、
来場者のために分かり易いパンフレットを作るべきだという陸軍内の同人誌作者グループの主張に押し切られ、
『同人誌臭あふれる案内冊子』が会場内のあちこちで配布される事になった。




  祭りも酣な頃に、突如富士山の向こうから2機の『隼』が飛来してくる。
1機は両翼端を蒼く、それ以外を銀白色に塗っており、もう1機は右翼全てを紅く、
それ以外の部分は蒼い機体と同じく銀白色に染めていた。



                            提督たちの憂鬱  支援SS  〜帝国陸軍総合祭・前編〜



「皆様、上空にご注目下さい。
  これより陸軍空戦技術研究班による、曲芸飛行が始まります!」

  というアナウンスが会場各所に置かれたスピーカーから響くと、
2機の隼はぴったりと息のあった飛行を始める。大宙返りやインメルマンターンからのスプリットS、
ブレイクなどの現代戦闘機が使う機動なども見事にやってのけ、地上の観衆は拍手喝采を送った。

  2機は最後に空中衝突すれすれの距離で、互いの機体腹部を見せ合ったすれ違いを披露して、
惜しみない賞賛と共に退場していく。そしてそれと入れ替わりに入ってきたのは、
5機編成の一式戦闘機―――主翼両端と機体下部を黄色に塗装した―――『飛燕』だった。


  5機の飛燕もまたこれ以上無いほどに連携のとれた機動を見せ、
5機で空中に正五角形を作ったり、翼下に搭載された缶から黄色いスモークを焚いて、
美しい円の鎖を描くなどしてこれまた観衆の注目の的となった。
435. 名無し三流 2011/08/27(土) 20:05:04
  そして5機の飛燕が雁のような∧字編隊を描いた所で、
中華民国(軍閥系)軍のマークを付けた九六式戦闘機12機、
アメリカ合衆国軍のマークを付けた九六式戦闘機が同じく12機、会場の上空に入ってくる。
待ってましたとばかりにアナウンスは今までよりも一層気持ちが高ぶったような声で観客に告げた。

「では、最後にこの度の戦争の緒戦において、
  中国・米国連合軍との間に発生した空戦を同班に再現して頂きます。どうぞご覧下さい!」


  アナウンスが終わるか終わらないかのうちに、
黄色い5機編隊の飛燕へ中国軍マークの九六式が先制攻撃を仕掛けた(勿論、機関砲などは全て空砲だが)。
しかし飛燕はこの攻撃を易々と交わすと、太陽を背にして中国軍役の九六式に次々と一撃離脱をかけていく。
その中では隊長機と思われる1機が急降下の最中鋭く飛行機雲を描き、
一方12機の九六式は黒煙を噴きながらほうほうの体で逃げ出していった
(補足するが、この黒煙も機体に仕込まれた発煙筒によるものである)。

  それを見た観客からは「中国のクソ野郎め、ざまあ見ろ!」「帝国陸軍万歳!」
などの喝采が上がる。しかし戦いはまだ終わりではないとばかりに、
機体の各所に星を付けた米軍役の九六式が飛燕の編隊に襲い掛かる。


  アメリカ機役の九六式は中国軍役のそれよりもしぶとく、
執拗に飛燕へ襲い掛かってきた。後ろを取っては取られの激しい空中戦の最中、
ついに5機の黄色い飛燕のうち1機が被弾して
(実際に被弾している訳ではないが)、左主翼から煙を噴き始めた。

  観衆の中からは悲鳴や、「頑張れ!!」「負けるな!!」といった応援が聞こえ始め、
被弾した1機が離脱し4機となった飛燕隊もそれに応えていっそうその動きを鋭くするが、
3倍という数の差はなかなか覆せず一歩、また一歩と追い詰められてきていた。
436. 名無し三流 2011/08/27(土) 20:05:36
  そこへ、先ほどまるでつがいのカワウのような息ぴったりの曲芸飛行を見せた2機の隼が戻ってきて、
飛燕隊に加勢をした。今度はこちらの番だと言わんばかりに米軍機役の九六式を猛攻撃し、
とうとう米軍機役の編隊をも敗走に追い込む。

  そして4機の飛燕は仲間が離脱した方向へと向かい、
2機の隼はまるで獲物を追う猟犬のように九六式を追撃し続け、
来場者の喝采を浴びながら退場していった。

「以上で、陸軍空戦技術研究班の演技を終了いたします!
  皆様、応援をありがとうございました!!」


  とのアナウンスと共に、聴衆たちの感情は最大限まで高ぶり、
一部の人間は雄たけびまで上げ始めたためにそれを警備に当たっていた兵が制止する程となった。
こういった騒ぎはあったものの、祭の目玉となる予定だったこのショーは大成功に終わった。



  そして祭の後、富士演習場に設置された総合祭関係者の本部では、
開催に携わった者や出演者らが集まって成功を祝うパーティーが開かれた。


「いやはや、さすがは戦技研究班です。あのような華麗な機動ができる飛行士など、
  日本を、いや世界を探してもここにしかいないでしょう」

  受付をしていた士官が航空ショーの主役となった陸軍空戦技術研究班のメンバーを褒め称える。

「ははは、日々の研鑽の賜物ですよ。しかし褒めるなら黄色や片羽の方をお願いします。
  自分は模擬空戦でビリケツだったもんで、中国軍役をやらされたんですから」

  褒められたメンバーの1人が謙遜すると、
再現空戦で両翼の蒼い隼に乗っていた飛行士が彼の肩を叩いて言った。

「おいおい俺を忘れるとは良い度胸じゃないか。まぁお前も見事っちゃあ見事だったよ。
  中国兵の敗走っぷりをあそこまで見事に再現できるのはお前だけだ」

「おっとこれは失礼。まぁ今度の模擬空戦で『鬼神』の座席は頂きますから、覚悟しといて下さいよ?」

「『鬼神』?」

  話を飲み込めない将校がメンバーに尋ねる。
すると戦技研究班の班長―――黄色飛燕の隊長機を務めていた―――が説明した。
437. 名無し三流 2011/08/27(土) 20:06:17
「ああ、ウチの班が徹底的な実力主義である事はご存知でしょう?
  しかし内地では模擬空戦ぐらいしかする事がないのでちとつまらない。
  そこで模擬空戦の成績に応じて特別な塗装をした機体を与えるんですよ。
  特別な塗装は、黄色飛燕の隊長機とその寮機4機、そして両翼の蒼い隼、通称『鬼神』、
  右翼の赤い隼、こちらは通称『片羽』の計7機があります」

「ほうほう」

「で、成績上位7位がその順に7機の内から好きな塗装の機体を1つ持ってって、
  8位以下の連中はその他の機体に乗るという訳です。例えば今日米軍機や中国機の役をやってた奴らですな」

「なるほど、独特な方法を取り入れてますね」

  将校はこの話に感心する。そして同時に、
軍の中で主流派と言われる者達―――戦技研もその1つだが―――には変わり者が多い事も思い出した。



  陸軍空戦技術研究班(略称"戦技研"もしくは"空技研")は、昭和初期に設立された陸軍傘下のいち機関である。
これまでは陸と海という二次元世界で行われていた戦争を三次元の物に変えた新兵器である航空機、
その実際の動かし方、例えば戦闘機動などについての研究のために作られた機関だった。

  この機関はこれまで、人間工学に基づいた航空機内の居住性や、
レバーやスロットルの反応に至る様々な改善点を倉崎、三菱などの航空機メーカーへ助言してきた。
陸軍航空隊のエースパイロットや教官は、その一部がこの班の出身でもある。
ちなみに海軍にも同様の機関、艦載機運用研究班(略称"艦機研")があり、
こちらは陸上機とは使い方の異なる空母艦載機に関する研究に特化していた。
438. 名無し三流 2011/08/27(土) 20:06:49
  そしてこの戦技研であるが、メンバーの7割(といってもメンバー自体ごく少数だが)が、
夢幻会メンバー、つまり転生者によって編成されていた事も特筆すべき事であった。さらに言えば、
その転生者は全て、前世では『エー○コンバットシリーズ』の大ファンでもあった。

  種を明かせばこういう事である。彼らは大概が航空機好きであり、
人生やり直しとも言える転生を経て本気で軍用機パイロットを目指す者が続出した。
彼らはパイロットになったらモビ○スターンなどの変態機動を繰り出したい、
などと思っていたが、そんな派手な事をする機会にはなかなか恵まれず、
機会があってもそんな事をすれば(悪い意味で)注目を集めるのは確実。

  そこで夢幻会上層部に強く働きかけ、思う存分変態機動のできる隊、
すなわち空技研を作ってもらったという訳だ。本来ならジェット機がミサイルの回避に使うブレイクなども、
周囲には『新しい回避機動の実験』などと言って押し通す事ができた。また航空ショーでやるような編隊飛行の訓練も、
『連携能力を育てるため』と言って押し通してきた。陸軍総合祭ではこの訓練が買われたのだ。


  変人集団と見られながらも確固たる地位を確立した空技研は冒頭の話でもお分かりの通り、
『円○の鬼神』や『片羽の○精』、『黄色○隊』のカラーリングを施した戦闘機を使うなどしていて、
影では『"裏"痛い子中隊』などとも呼ばれている。ちなみに誰もが知ってる『○ビウス1』の塗装は、
来るべき新型ジェット機のためにとっておかれる事になっていた。


(これで後のテレビゲーム時代にエス○ンが大ヒットする下地を作る事ができたぞ。
  「曲芸飛行と言えばブルー○ンパルス」が「曲芸飛行と言えば黄○中隊」とかになってしまうのは致し方ないが、
  まぁこの世界では英語の地位自体低まりそうだし問題はあるまい。
  それにゲーム中で○色の13達がチート機動しても、「モデルとなったのは空技研だし」
  とか言えば皆も納得してくれるだろう。世界に衝撃を与える予定のジェット機もIS○Fの死神様がご予約済みだし、
  これでエス○ン世界の名立たるエースの知名度だって保障されたようなものだ)


  感心している周囲の目をよそに、戦技研班長はほくそえんでいた。
そして、戦技研の他の転生者組みも……皆、考えている事は似たような物だった。

  中には(これで空から忌々しいim@s塗装厨を駆逐できる……)とか、
(ラーグリーズは?ねえラーグリーズは?)とか(ガルーダはどうしたんだよオイ)とか、
何かとてもどす黒いオーラを発している者達もいたのではあるが……


                            〜to  be  continued…〜

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最終更新:2013年12月29日 19:40