453. 名無し三流 2011/09/09(金) 22:14:53
  1943年4月に旧米合衆国南部フロリダに進出した欧州連合軍は、
さしたる抵抗も無くその勢力圏を拡大させていた。英独伊他の混成部隊という事で、
指揮系統や占領地の取り分などで多少揉めてはいたものの、兵站は心もとない状態で、
また現地からの徴発にも限度があるために展開速度自体は遅かった。


  軍上層部や本国首脳部の間ではこの遅さに対する苛立ちと、
遅くなるのもやむなしとするある種の諦めが混在していたが、
人知れずこれを幸運に思っていた者もいた。


  フロリダ州のドイツアメリカ軍総司令部。
武装親衛隊のマークを付けた装甲車から1人の男が、
国防軍のマークを付けた装甲車から降りたもう1人の男がそこへ入っていった。



                提督たちの憂鬱  支援SS  〜チートVSチート、その足音〜



「イギリス軍は東海岸沿いに進出しようとしているようだ。
  そうなると我々はルイジアナ方面へ進出するのが妥当か」

「ルイジアナ州から中部へ進出してイギリス人の西進を抑えるという訳だな?
  しかしルイジアナはミシシッピ川の影響で湿地帯が多い。進軍速度はさらに遅くなりそうだが」


  DAK(ドイツアメリカ軍)総司令部には国防軍と武装親衛隊の指揮官らが集まり、
今後の方針を決定しようとしていた。そしてその内容は、イギリス側の部隊の動向と、
それに対応した自軍の動きに終始した。

  今は手打ちに向かっているとはいえ、
もともとドイツとイギリスは不倶戴天の敵同士である。
現在はアメリカ侵攻のために合同軍を組織しているが、
アメリカがひと段落したらそれもどうなる事か分かったものではない。

  そこで北米大陸というパイを切り分けるこのワンチャンス・ゲームの中で、
どれだけ多くのパイを自国の影響下に置くことが出来るか。それが彼らの命運を決める、
最も差し迫った、そして最も重要な課題といえた。
454. 名無し三流 2011/09/09(金) 22:15:26
  しかし表向き協力関係にある事も事実であるため、
中部方面、特に穀倉地帯の確保が最終目標として決められた以外は、
ジョン・トーヴィー以下イギリス軍との調整をしつつ細かい所を埋めていく事になった。
また、他国への連絡を経ない独断による前進はなるべく避ける事などが各指揮官に通達された。

  ドイツは枢軸国の盟主であり、上手くやれば欧州の盟主にもなれる状況にいる。
しかしだからこそ、ドイツには他国との調整という仕事が必要だった。
その仕事が今最も必要なのはこの欧州連合軍であり、その仕事がうまくいかないという事は、
ドイツの国際的信頼、そして枢軸メンバー内部からの信頼を損ねる事につながる。

  ドイツはどこぞの超大国のように世界を敵に回しても戦える軍事力と、
それを支える天然資源、経済力、生産力、技術力の全てを兼ね備えている訳ではないのだ。
自国にその理由があるからといって、周囲の国々を無視して行動する余裕は無かった。


  ―――――閑話休題。


  会議が終了して参謀や指揮官達が次々と会議室から退出する中で、
2人の男だけはそこに居残っていた。第1SS装甲師団のヨーゼフ・ディートリッヒと、
DAK総指揮官であるエルヴィン・ロンメルである。


「さて、現在の本題は終わった事だし"未来の本題"に入るとするか」


  ロンメルが部下に鞄を持ってこさせて言う。
彼は持ってこさせた鞄から地図と『極秘』の印が付いた書類を取り出すと、
会議室にある長机の上に並べた。


「全く、"あの"忌々しい日本軍の相手はあまりしたくないのだが」

「まあそう言うな。相手をしなくて済むようにする努力は政府の役目だ」


  ヨーゼフが吐き捨てるように言うのをロンメルはたしなめる。

  ちなみにヨーゼフ・ディートリッヒは第一次大戦時に鹵獲戦車"モーリッツ号"の機銃手を務めていたのだが、
日本の遣欧部隊との戦闘においてモーリッツ号を鹵獲されてしまったのである。自身は脱出に成功したものの、
爆破による鹵獲阻止もできなかった事は彼の自尊心に傷を付けるのには十分な出来事だった。
以後彼は冬戦争などで日本軍の強さが知れ渡るにつれて日本軍に対する警戒感を強めていった。
側近に「もし日本軍と戦闘になる事があれば、我々でも撤退を強いられるかもしれない」とさえこぼしていたという。


  もう察しが付いたかとは思うが、彼らの"未来の本題"とは『日本軍との戦闘』である。
ドイツと日本はWW?以来の敵であり、ドイツがWW?、日本が日米戦争で勢力圏を広げると、
両国の衝突は現実味を帯びるようになってきた。ましてこれからは北米大陸で、
その勢力圏を接する事になる。ヒトラーお気に入りの2人は彼から直々に、
将来日本軍と戦闘になった場合の基本戦術を組み上げる任務を受けていたのだ。
455. 名無し三流 2011/09/09(金) 22:16:27
「それにしても向こうの兵器はどうなっているんだ?
  日本軍は、対英戦で我々を梃子摺らせたタイプ96を遥かに上回る航空機を導入しているという。
  Fw190があったとしてもキルレシオは1:3より酷くなるかもしれんぞ」

「航空優勢が確保できなければ平原地帯での戦闘は非常に不利になる。
  在中米軍も制空権を奪われて壊滅したという。だが我々はその轍を踏む事はできない」


  対米戦争が始まった後という事もあり、2人は戦前の米軍よりはよほど冷静に日本軍を研究していた。
しかし研究しようにも資料は少なく、また既に両者の間では技術力に差がつきすぎていた。
日本が三式弾道弾発射実験に成功していながら、ドイツは未だにV1の実戦投入すらできていないのだ。


「しかし純粋な陸戦では勝機もある。パンターの後継が間に合えば、
  戦車戦で互角に持ち込む事は不可能ではないだろう」


「大規模な夜間攻撃も視野に入れた方がいいだろう。
  それなら航空支援も昼間ほどにはできまい。まあ我々もできなくなるが……」


  さらに言えば、彼らは日本軍が100ミリ以上の主砲を搭載した四式中戦車が実用化された事を知らなかった。
また、上海攻略戦で活躍した赤外線暗視装置などは極秘中の極秘とされ、あのフィンランドですら存在を知らないのだ。


「それにしても"E計画"は本当に成功するのか?
  こちらがティーガーやパンターを発展させている間に、
  向こうがタイプ97の発展の発展の発展を作っていたら笑えんぞ」


「互いの兵器がどんな状態であれ、戦う時は戦う事しかできない。
  また、まだできていない兵器を前提にして計画を立てるなど馬鹿げている。
  今できる事はE計画の早期完遂を求める事だけだな」


  そんな状態である。結局のところ、2人に出せる確実な答えは1つしかなかった。


「「兵員1人1人の質に期待するしかないか」」
456. 名無し三流 2011/09/09(金) 22:17:16
「日本軍に対しては選り抜きのエースを集中的にぶつけよう。
  まだ十分に軍備が整わない内は、これで短期間で相手にこちらを上回る損害を与え、
  しかるべき準備が整うまで停戦に持ち込むのが基本方針だな」


  それと同じ頃、ベルクホーフで総統アドルフ・ヒトラーも2人と似たような結論を出していた。


  ヒトラーも冬戦争やBOB、日米戦争で日本軍の見せた恐るべき力はよく知っていた。
そこで彼は、独ソ戦で目覚しい戦果を上げつつある者達をリストアップし、
万が一北米において日本軍との衝突が起きた際には、24時間以内に彼らを戦地へ送れるよう手配していた。


  そのためハンス・ルーデルやエーリヒ・ハルトマンのような航空機パイロットの他、
ミハエル・ヴィットマン、オットー・カリウスなどの戦車エースなどもすぐ輸送機に乗せられるよう、
常に飛行場近くの基地、もしくは飛行場そのものの防衛に配備されていたのである。

  そのせいかは分からないが、一時期オットー・カリウスとクルト・クニスペルが、
あのハンス・ルーデルのいる飛行場近くの基地に配属されるという、
ソ連機甲師団にとっては悪夢としか言いようが無い事態も発生した。


  しかしヒトラーは東部戦線の辛気臭い状況に目を背けたいのか、
彼らの戦果を過剰に評価して、「使用兵器に差があっても彼らなら勝てる」とさえ考えるようになっていた。


  それは多くの常識人からすれば「いやそういう事は無いからjk」と突っ込まれるべき考えだったが、
驚いた事にヒトラーと同じような考えを持つ者はドイツから遠く離れた所に、しかも少なからぬ数がいた……
457. 名無し三流 2011/09/09(金) 22:18:21
「ハンナ……いやハンス・ルーデルにぶつかられたらいくら四式でも大損害は免れられない。
  陸にもヴィットマンやカリウスのような人外ズがいるからなァ……
  戦車を100両200両も破壊されて平然としてられるのは史実アメリカだからこそだな」


  会合に使われる店で東条がぼやく。
そのぼやきに頷くのは同じ陸軍の転生者達だ。その1人が東条に尋ねる。

「こちらにも上坊良太郎や篠原弘道のような空軍エースは十分いますが……
  帝国陸軍最後の切り札、舩坂弘の状況は?」

「剣道、銃剣術、小銃においては史実通りかなりの成績を出している。
  また、自動小銃と狙撃銃、それに対戦車戦闘もすぐにマスターしてしまったようだ。
  対中戦で実戦経験も積ませておいたが……おそらく史実並みの戦闘力はあると思いたい」


  東条の言葉に皆が「舩坂さんマジパネェッス」「流石人間ターミネーターは格が違った」
などと口々に言うが、東条はそれを制すると続けた。

「まあ、いくら人外エースとはいえソフト面、ハード面で圧倒していれば最終的に勝利を収める事は可能だろう。
  後はいかに損害を抑えるかだ。そのためにはこちらもエース達をぶつけていく必要があるな」


  そう言いつつ、東条は前世で「うはwwwテラツヨスwww」と言っていた者達が、
今いる世界には間違いなく実在し、しかも自分達と敵対するかもしれないという事実を思い出していた。

(全く、あんな人間チートと戦わされた連中の気持ちが分かった気がするよ……
  けど向こうからすればこっちも十二分にチートなんだよな、主に知識面とかで。
  一方がチートな小説は散々読んできたけど、まさかリアルがチートVSチートになるとは……)


  ドイツ軍は一部の将兵の質が異様に高い、というのは、
士官学校で世界の情報などの教育が注力されていたために、
転生者以外の軍人にも概ね知れ渡っていた。

  また、近衛ら夢幻会特撮部がドイツ軍エースがいかに強いかを示した映画を作るなどし、
国民の間にも「ドイツ第三帝国侮り難し」の印象を浸透させるべく努力を重ねていた。

  そのため北米大陸で対独戦が勃発するという、とあるRS●Cな展開に備えて、
陸軍も大陸での勝利に驕らず、ソフト、ハード面でさらなる強化を進めていったのであった……


  余談ではあるが、「ドイツ軍エースはクソ強い」という話を聞いた倉崎の重役(飛行機狂い)が、
「それじゃあ向こうがレシプロしか使えない内に超音速戦闘機を実用化すれば大丈夫だね☆」
などという色々と恐ろしい事を口にした事は、一部の人間しか知らない機密事項である……



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最終更新:2012年01月01日 04:47