414 :ひゅうが:2012/01/19(木) 22:09:05

ネタ――派遣船団4

――同 皇紀4249(宇宙暦789=帝国暦480)年1月 銀河系 白鳥腕
  秋津洲星系 大日本帝国 帝都「宙京(そらのみやこ)」


「ここが、『帝都』か。」

「さすがというべきか――巨大ですな。」

「はい。秋津洲星系の第3惑星、帝都『宙京』。正式名は『そらのみやこ』ですが漢字を音読みして略称の『ちゅうきょう』とも『みやこ』とも呼ばれます。基本的に都市圏として規定される通勤圏は第2惑星『千代田』と第4惑星『八十島』第5惑星『中津』にまで伸びています。都庁の直轄区域である秋津洲特別区の国民は5億程度ですが、都市圏人口は42億ほどに達します。」

「通勤圏ということは――」

「鉄道・・・ああ、俗称ですがレールウェイといわれる環状線と放射状航路の複合体を乗合い恒星系内用宇宙船が運航しています。軌道上に『駅』があり、そこから惑星上の位置調整では惑星軌道上のリングを使うことが多いですね。各所に設けてある軌道エレベーターから地上に降ります。」

同盟軍の戦艦「アキレス」に乗り込んでいる連絡武官の霧河中佐はそう説明した。
どうも彼女はこれまでの実務交渉団の半分程度を占めていた電子知性起源の出生であるらしいが、傍目からみれば表情豊かでとてもロボットのようなものには見えない。
ただ、説明が少し冗長なのがそれを感じさせるがそれもまた個性と割り切れてしまうものだった。
ゆえに、連絡武官と対応した同盟の軍人たちは彼女が「人」であるような対応をとることにしていた。

「これより、帝都の玄関口を守る新横須賀軍港へと向かっていただきます。」

彼女は、手にした信号変換機を通じてデータを転送してきた。
既に慣れているらしいオペレーターがそれをスクリーンに投影する。

標準的な星系図よりやや惑星の数が多目の「太陽系型」星系の外側を周回している大型の構造物が映し出される。
天体よりは小さいながらも、それでも下手な小惑星なみの大きさがある。
数は4つ。航路を表す線はそのうちのひとつをさしていた。


「あれが?」

「はい。帝都の外郭港です。艦隊泊地は呉軍港と横須賀軍港が主ですが、帝都の周辺にも展開可能な部分が必要です。ですから中規模ですが横須賀軍港の支部という形で整備されたのが新横須賀軍港になります。それ以外は商港です。」

工業地帯からの出荷などは横浜・川崎・鹿島などの各港で行われているが、この宙域自体が白鳥腕の要衝に位置しているために周辺宙域へのターミナルにもなっていると霧河中佐は述べた。

彼らは、連続ワープを行いつつ、防衛網構築作業が進むサザンクロス回廊を抜けてここまでやってきていた。
軍用航路と民間航路のすみ分けができているために旅程は順調で、エア回廊に突入してからわずか1カ月ほどしか時間は経過していない。
軍用艦船ならではの高速だった。

415 :ひゅうが:2012/01/19(木) 22:09:42

「皆さま、本日1200時をもって歓迎式典を挙行する予定です。長旅お疲れ様でした。久方ぶりの遠来の賓客を持て成すゆえに至らぬところもあるかもしれませんが、歓迎いたします――」

霧河中佐が微笑んで敬礼を捧げる。
ブリッジのシトレ大将たちも答礼でそれに答えた。



新横須賀軍港は、回廊で見たそれと同じくらいの円錐同士を底面でくっつけたような形をしていた。
ガイドビームに従って入港した先には、巨大な硬化テクタイトでできた窓に挟まれた埠頭があり、管制官の少し古びた感じのする旧銀河連邦公用語に従って「アキレス」は接岸した。
設備としては新しいもののようで、これといって大きな振動などは感じない。

「では、行こうか。」

「少し緊張しておられますかな?特使。」

「大将。君もだろう?」

少しオーバーに笑ったトリューニヒトは、今までのどこか作り物じみたものではなく本物の苦笑を見せた。
代表団には、文官と武官がそれぞれ150名ほど含まれている。
ほとんどが実務者や文民の護衛であり、本当の意味での武官は30名ほどしかいない。
彼らは、事前に手渡された手順書を思い出しながら舷梯(ラッタル)を降りた。
文官らしくトリューニヒトは集まっているらしい報道陣に向けて手を振るのを忘れない。

まず目に飛び込んできたのは、自由惑星同盟の国旗とならぶ日本帝国の国旗。
儀仗隊が整然と整列し、その奥には高位の軍人たちが整列している。
後列にいるのは、背広を着た文官たちだ。

「気をーつけっ!」

儀仗隊がざっと音をたてて姿勢を正す。

「自由惑星同盟特命全権大使閣下にィ、捧げ、銃!」

礼装を身に付けた霧河中佐が白い手袋に包まれた右手でトリューニヒトを促す。
整列した代表団から一歩前に出てトリューニヒトは儀仗隊の前に立った。
と、指揮官の合図で軍楽隊が曲を吹奏しはじめた。
自由惑星同盟国歌「自由の旗、自由の民」の前奏である。

これまで、フェザーンを舞台に繰り広げられていた外交交渉において何らかの妥結に至っても、この曲が吹奏されたことはなかった。
銀河帝国としては自由惑星同盟という国家の存在を認めてはいないためだ。
しかし、儀仗隊は日本宇宙軍の軍艦旗とあわせ、自由惑星同盟の国旗を掲げているし、軍楽隊は自由惑星同盟国歌を吹奏している。

きょとんとなった文官たちは、たちまち顔を紅潮させた。
自分たちの存在が否定されず、受け入れられている。それを象徴する光景に感極まって涙を流すものまでもいる。
代表団に同行していた報道陣は吹奏を邪魔しないようにせいいっぱい抑えながらもマイクに向かってこの慶事をがなりたてていた。

「liberty stands for freedom. Oh,hail!the flag set us free!」

制帽を脱いだ軍人と、文民たちは声をあわせた。

――数時間遅れ、この映像は自由惑星同盟のすべての放送局からトップニュースとして放送された。
歴史はこの光景をもって自由惑星同盟市民の日本帝国への態度を決定づけたと記している。

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最終更新:2012年01月29日 19:35