786 :New ◆QTlJyklQpI:2012/02/04(土) 00:07:54
支援SS ~とある戦前の料亭にて~

「いや、君が呼んだから駆けつけてみれば中々旨いな、これは」
「私もちょくちょく通ってるんですがね。旨いんですよ、この店の豆腐は」

日米が開戦する少し前、日本のとある料亭で2人の男が湯豆腐を食べていた。見た目だけなら眼鏡の役人と小柄な和服の老人だが
この料亭を囲うように私服の護衛が配置されているため、この二人が只者ではないことを教えていた。

辻政信と石原莞爾
片や日本の巾着袋を牛耳る”大蔵の魔王”と呼ばれ、日本を裏から操る、秘密結社夢幻会メンバー。片や航空機が戦争の主役になることや
核兵器の登場を予見し世界最終戦争論を唱える軍人。そんな2人が一緒に料理を食べているのを見れば誰かが邪推しても仕方がない。
もっとも夢幻会メンバーなら別の意味で邪推するだろう。辻の思考を知悉しているなら思想家や宗教家を利用はすれども決して同調はしない。
そして石原も辻の経歴からある程度の性格を把握していたので彼から料亭に誘われるや半分疑念を抱きながらも、もう半分の好奇心に負けて
誘いを受ける事になった。

「さて、儂を呼んだんだ何か話すべき事があるのではないかね?まさか講演に文句言うためでもあるまい?」
「いえいえ、言論の自由はある程度は保障しますよ。政府転覆とか言わない限りは・・・・ですが」

夢幻会メンバーにとって石原莞爾は頭の痛い存在だった。彼が有能であることは確かだが満州事変など独断専行をされては堪らないので
主流には置かなかったが、彼が唱える世界最終戦争論によって対外膨張を主張する政治屋やブン屋に悩まされ、アジア主義を唱えたので
中国系のスパイに目をつけられるなどと要らぬ仕事を増やしたせいもあり米内よりマシとはいえ信用はかなり低い存在だった。

「貴方も分かってるでしょう?もうじきアメリカとその腰巾着と戦争になるのを」
「まあ、これで戦争にならなかったら可笑しいがな・・・・儂のアジアの人脈を貸せと?」
「それもありますが、その時の指導者を嶋田さんにしようかと」
「海軍のあの小僧か、まあ確かに出来るが本人は嫌がりそうだな」
「ついでに海軍大臣と軍令部総長も兼務してもらいます」
「・・・・・苦労するなあ」

これから仕事に追われるであろう嶋田に内心黙祷する石原を見つつ辻は本題を切りだす。

「しかし、彼が強い権力を振るえばその分不満に思う人間は増えるでしょう」
「その不満分子をこっちで預かれと?」
「ええ、米内さんは危険ですし。貴方なら多少はコントロールできるでしょう」

石原は「厄介なことを」と顔を顰めるがこの男に借りを作るのも一考としてあることを条件に承諾することにした。

「わかった、引き受けよう。ただし条件がある」
「なんでしょう?」
「どうやって夢幻会は戦争を終わらせる?」
「・・・・・・・」
「勘違いしないでくれ。存在を知ったのも最近だ。ただ、これほどの組織を持つ君らがどういう幕切れを用意してるのか知りたい」

石原から見ても今度の対米中戦は分が悪く見えた。欧州列強が米国側に付くことは確実であり、仮に講和しても経済摩擦などで更に強くなった
米軍のリベンジマッチを受ける事に繋がりかねない。だからこそ密かに調べていた夢幻会という裏組織の信憑性を確かめることも兼ねて
どんな対策をしているのかを尋ねてみた。

「・・・・アメリカの崩壊」

唸るように出てきた言葉に石原は目を剥いた。

「まさか・・・出来たのか?最終兵器が・・・・・」
「最終兵器は確かにありますが、都市の1つ2つで屈する国と思いますか?」

その後辻が喋る内容に脂汗を流しながら石原は聴き入り、他言しない事を確約して帰宅した。
そして石原が帰った後、辻は豆腐をつつきながら1人思案していた。

「しかし、情報が漏れるとは・・・・何十年もある組織ですからね・・・・掃除が必要か」

その後、日米は開戦、嶋田首相に反感を持つ勢力に石原は接触し、見事にまとめ上げ戦後まで手綱を握ることになる。
尚、戦後は世界最終戦争論を唱える事はなくなり、ひっそりとした晩年を送ったらしい。

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最終更新:2012年05月13日 17:58