662 :ひゅうが:2012/02/09(木) 00:05:04
→627 の続きです。

銀河憂鬱伝説ネタ 本編――「春は出会い(と政治)の季節」 その3

――同 日本大使館 大使執務室


扉を開いたハッブル議長は驚いた。
広々とした執務室にいた駐同盟日本大使 三島浩三の姿はスーツ姿の上に年代物の鉄兜という珍妙な出で立ちだったためである。

しかも腰には、最近流行りはじめたヒストリカルドラマのジャパニーズ・サムライのように細身の湾曲した「ニホントウ」を差している。

「議長閣下?」

「はい。大使。しかしその出で立ちは?」

大使はため息をひとつつくと、ホッとした様子で答えた。

「いえ。騙し討ちでもされたら厄介ですので、せめて抵抗の準備を。」

しかしそれはまた・・・と議長はひきつった。

「警備兵の火器は全部検査されておりますので全員分はありません。外交行李の中に美術品として入れておいたものです。ほら。」

と、三島大使は壁際に飾っていある年代物の日本具足を指差した。
どうやら頭にかぶっているのは具足の兜部分であるらしい。

「これも美術品ですよ。古刀に類するもので、家伝の長船です。脇差は持ってこれなかったので、恩賜の軍刀を拝借しました。これでも耐レーザーコーティングと熱分散用に白金イリジウム合金を表面直下に仕込んだ代物でしてね。まぁ白兵戦くらいでしか使いませんが様式美ということで。
鞘に入ったものは美術品で通りました。」

変則二刀流です、と笑う三島大使に議長はひきつった笑みを浮かべることしかできなかった。


「その様子では、こちらの懸念は取り越し苦労ということですね。」

応接セットに議長と護衛をいざなった三島大使(むろんこちらにも警備がついている)は切り出した。

「というと?」

「我々を謀殺するか何かして、一気にわが国に領土的野心をもやし侵攻してくるものかと。」

とんでもない!と議長は否定した。
だが、そうとられてもおかしくはない状況だったことに気付き、俯いた。

「いえ、わが軍は艦艇数で貴国を下回りますので、それをいいことにうちの玄関先に押しかけている連中が言うように『帝国排撃』と『自由を輸出』でもされるのかと。
そのために海賊をけしかけたのかと思いました。」

大使は冗談めかしてニコニコ笑いながら言った。

「断じて違います。」

議長は、ソファーから立ち上がり、深々と頭を下げた。

「このたびは、わが内閣の一員の邪な企てのために貴国に大変な迷惑をかけてしまいました。同盟政府と同盟市民を代表しお詫び申し上げます。」

三島大使は、笑顔を崩さずに応じる。

「それでは、今回のことは貴国の意思ではないと?」

「その通りです。もちろん、今回のことにかかわった者たちは相応の罰を受けるでしょう。」

「この度のようなことは貴国ではどのような罪に問われるのですか?」

三島大使は笑顔を消して言った。

663 :ひゅうが:2012/02/09(木) 00:05:35

「武力の私的かつ恣意的な運用ですので、国家反逆罪と内乱罪になります。もちろん、敵国との通謀も。最高刑は死刑、ですが有罪が確定すれば少なくとも懲役30年以上となります。」

三島大使は頷いた。

「では、貴国の法に則りよろしくお願いいたします。」

今度はハッブル議長がきょとんとなった。

「すぐに処刑せよとは言われないので?」

いえいえ!と三島大使は両手を振る。


「我が国は法治国家ですよ!? 他国の裁判にあれこれ横槍を入れるなんてそんなゴロツキじゃああるまいし。ともかくきちんと裁判が行われるのであれば問題はないと考えています。」

幸い、わが方の損害はごくごく軽微ですし。と三島は頭を掻いた。
それに、と彼は付け加える。

「不手際があれば謝罪し、それを許す。対人関係にしても国際関係にしてもそれは基本だと思いますよ。わが国の近衛首相も『事あるごとに過去の過誤をあげつらうようなみっともない真似をしようと思うな』と各部署に通達を出しておられます。」

「では、貴国としては今回の事件を機会にわが同盟との関係に変更を加える意思はないと?」

「その通りです。肝心の軍の方は『貴重な実戦経験がつめた』と感謝しているくらいだそうなのでこちらとしても困っている次第で――」

つまりは国の体面の問題だ、と三島大使は言った。
三島は、ここでは情報電脳局が掴んだ「今回の一件の裏で糸を引いた連中の隠し銀行口座にフェザーン系金融機関を通じた入金があった」ということや、それを利用して同盟側情報部と密約が結ばれたことは口にしなかった。
口にしたら最後、日本側が現状で圧倒している状態である情報通信技術の実態について警戒をされるだろう。
それに、同盟を動かす官僚たちの親玉を縛り上げるよりもここで「裏口」を作っておいた方が後々何かとやりやすい。
そしてこちらがそうするであろうことは、今回の仕掛け人の一人である銀河帝国帝都オーディンに住まう某皇帝の侍従武官にとっても織り込み済みだろう。

『こんな手土産を渡されては、近々「元」が冠される銀河帝国皇帝陛下を無下にはできないだろう。
いやはや、やってくれる。』

そう簡単に述べた「夢幻会」所属の「あの元勲」たちに三島大使は底知れぬ畏怖を抱いたものだった。


「それでは、閣下、今後のご予定は空いておりますか? 外で記者たちが騒ぎ出す前に『共同記者会見』をやりたいと思うのですが。」

「もちろん。こちらからお願いしたいくらいです。」

ハッブル議長は、三島大使と固い握手を交わした。




かくして、亀裂は修復されることになる。
議長側としては今回の一件を機に生き残りをかけて現政権の追い落としをはかろうとする「過激すぎる共和主義者」たちを封殺するに足る「友好関係は崩れず」のアピールになるし、日本側もこれで自由惑星同盟政府に「貸し」を作れた。
そして――仕掛け人も大きな「手土産」とその実力の一端を見せつけた。

切り捨てられる者以外にはまったく万々歳な成果である。
もっとも、宇宙の塵に変わった連中以外は彼らの望み通りインテリジェンス的な意味でのお仕事を付け加えるだけでほかの運送業者以上に身入りのいい商売にありつけるか、もしくは完全な平穏を手にできたのでこちらもあまり損はないのだが。

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最終更新:2012年02月11日 05:19