531. ひゅうが 2011/11/04(金) 17:24:38
suuri sotalaivasto〜われらフィンランド海軍「大艦隊」〜1


――西暦1943年  冬  フィンランド湾最奥部  レニングラード沖

「推進器絞れ。定置ソナーの配備は確認されていないが、交戦海域だ。速度は3ノットを維持。」

「了解です、『艦長』。」

狭い「艇」内で、ニュカネン中佐は苦笑した。
全長30メートルほどのこの潜行艇は、フィンランド海軍の切り札として「潜水艦」として艦籍に乗っているのだ。
名目上、彼も艦長ということになる。

「タンクブローゆっくり。潜望鏡深度で全周潜望鏡上げ。敵影がなければ撮影を行うぞ。」

乗員わずか4名というこのSB106「トイヴォ・クーラ」(シベリウスの弟子であった愛国的な作曲家の名をとっている)は、フィンランド海軍の「大艦隊」で最も危険な任務を遂行しているといえた。
首都ヘルシンキとフィンランド湾を隔てて隣接する「敵」、ソ連の一大拠点レニングラードの偵察である。

もっとも、これは偵察という名の早期警戒であった。
現在、共産主義国家であるソ連と全体主義国家であるドイツが壮絶などつきあいを繰り広げる東部戦線。
レニングラードはドイツ軍による重包囲下におかれているのだ。
しかしやるべきことは変わらない。
そのために彼らはこの「超カイリュウ型」と呼ばれる特殊潜航艇を駆っているのだから。


「浮上停止。逆探マスト上げ。」

「捜索電波反応なし。」

「・・・うん。ロシア熊どもはやはり軍艦を運用できる状態ではなくなっているらしい。港内は前回偵察時と変化なし。」

ニュカネン中佐は、魚眼レンズでできた360度警戒用の第2潜望鏡をおろし、第一潜望鏡を上げることにした。

「ラップランドのあたりはひどい寒波に襲われていますからね。日本からの砕氷船で物資援助があるから我々は助かっていますが・・・」

「ああ。こんど『ソウヤ』と『マミヤ』に、『ネムロ』が加わるそうだ。」

「へえ!2万トン級の砕氷船が3隻体制ですか。これは、本当に潜水艦300隻態勢、できるかもしれませんね。」

副長兼操舵手の浮かれた言葉にニュカネンは苦笑した。
「冬戦争」以来ソ連軍へ対抗すべく本格的な増強が開始されたフィンランドでは、友好関係を結ぶ日本海軍の協力で、水上艦隊とともにフィンランド湾やバルト海に展開できる潜水艦部隊の整備に力を尽くしていた。

その一環としてフィンランド軍は「戦車700両、潜水艦300隻、航空機200機」の最新鋭装備を整備する「大陸軍、大海軍、大空軍計画」を策定。
今や数少ない友邦となってしまった(盟邦は英国やデンマークなどあるのだが)日本の新鋭兵器を大量に導入しつつあった。
もっとも、日本にしても太平洋で戦争を遂行中である。
そのため、兵器は極力自弁ができるように中枢部品を北極海経由で送り込む一方で国内各所に製造工場が作られているような形であった。

ニュカネンは、潜望鏡に取り付けられた望遠レンズを使って何枚か写真の撮影を完了させた後、壁面に取り付けられた水中電話の受話器を手に取った。

「これより、雷撃訓練にかかる。訓練標的、湾口水路3−1−2より出航する敵艦隊。想定状況『コウ12号』。かかれ!」

周囲3キロあまりに散らばる味方の特殊潜航艇たちは、超音波で送られた信号に従い、その側面に4発ずつ携行した魚雷の発射訓練を開始した。
日本以外の潜水艦としてははじめて巨大な水中翼を船体中央部に搭載し、航空機のような操縦用ジョイスティックを搭載したこの「超海龍」型特殊潜航艇は、潜水艦としては破格の機動性と同時に最大30ノットという高速での機動が可能となっている。
それを利用し、敵泊地沖やバルト海の海上で迎撃戦を行うことこそ、フィンランド海軍とそれを指導する朝野卯一郎少将の考えた基本戦略だった。

戦後ずいぶんたつまで誰も察知できなかったこの「レニングラード・パトロール」は、欧州諸国にフィンランドが「あのソ連に勝利した国」であることをいやというほど印象付けることになる・・・
532. ひゅうが 2011/11/04(金) 17:28:37
【あとがき】「海龍」を投入してみたかったために書いた小ネタ。
作中の「海龍」は、全長30メートルほどと少し大型化し、バラストタンクと魚雷を2本追加しています。
速力については日本製の強力な電動機がついているのと、バルト海や北極海沿岸で使うことを考えていること、それに水中抵抗が少ない涙滴型構造のために欧州諸国のどの艦よりも高速ですw
発展型は酸素魚雷まで装備していますからドイツ海軍やソ連海軍にはたまったもんじゃないでしょうw

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最終更新:2011年12月30日 22:33