538. ひゅうが 2011/11/06(日) 22:27:36
>>531
  の続きです。

suuri sotalaivasto〜われらフィンランド海軍「大艦隊」〜2

――1943年5月  フィンランド  ヘルシンキ沖  駆逐艦「カレリア」

「3分経過・・・」

日本製のそれをもとにした駆逐艦「カレリア」のブリッジでは重苦しい沈黙に皆が耐えていた。
上空では、これも日本製の大型飛行艇が2機旋回を続けている。

「ドイツ潜へ告ぐ。こちらはフィンランド共和国海軍第1艦隊  第3戦隊旗艦「カレリア」である。
この海域はわが国の領海接続水域である。直ちに浮上されたい。繰り返す。こちらは、フィンランド共和国海軍第1艦隊――」

警告が開始され、すでに3分が経過していた。
あと2分を経て応答がない場合、手順に従い、スオミ航空工業製のライセンス機から警告爆雷が投下される手はずになっている。

重巡2隻で構成される第1戦隊はすでにヘルシンキ港沖のスオメンリンナ泊地で緊急出動準備を開始しており、空軍の哨戒機部隊は、周囲にスクリューを止めたドイツの潜水艦が潜んでいないかどうか上空から確認を続けている。

あの冬戦争以来、常時即応状態にあるフィンランド軍はその防衛態勢を第4レベルから第3レベルへと上げるかどうか、その瀬戸際にあった。


「5分経過しました。提督。」

「第23哨戒航空隊へ下命!警告爆雷投下!」

「ドイツ潜へ告ぐ。これより警告爆雷を投下する。フィンランド領海への接近を中止し、直ちに浮上せよ。しからざれば、撃沈も辞さない。これは最終警告である。貴艦直上30メートルにて炸裂させるが、次は外さない。繰り返す――」

駆逐艦「カレリア」の艦底部のスピーカーから、東洋音響製謹製の指向性音波が正確に海面下80メートルを航行するドイツ第3帝国海軍の潜水艦を貫く。
聞こえていないわけがない。
鯨の鳴き声などは数百キロを超えて潜水艦のソナーに響くという。
同様に、指向性を重視したこの警告音声は、試験では30キロ彼方まで聞こえていた。
まして、ソナー員がそれを聞き間違うことはあり得ない。

「ドイツ人は、浮上するでしょうか?」

「浮上させるさ。いかなドイツ人とはいえ、このスオミの海で好き勝手を許すわけはいかない。」

艦の最重要防御区画に設けられた戦闘指揮室で海図をにらむメリカント提督はそう言った。

「でなければ、撃沈する。すでに記録はとってある。」

「爆雷投下されました!」

「さて・・・鬼が出るか蛇が出るか・・・」

「ここまで分かってしまうというのも考えものですね。」

「まぁ、そういうな。艦長。整備されたばかりとはいえ、海底定置ソナーのおかげで貴重な『実戦』を経験しているのだから。」

――1943年・・・日米戦争の実質的な終結を受け、ドイツ軍は後方である東部戦線の安定状態の維持に血眼になっていた。だからだろうか。占領下にあるリガの潜水艦基地から試験航海に出たUボートは、フィンランド湾の奥深くまで威力偵察を試みた。
だが、それは即座にフィンランド軍の探知するところとなった。フィンランド湾上の諸小島を結ぶ間に敷設された海底定置ソナーから、海軍総司令部がおかれたヘルシンキ沖のスオメンリンナ要塞に伝送された音響信号は、「大艦隊」の整備に尽力している日本人に鍛えられた耳を通じ、Uボートに特徴的なスクリューの特徴を判別していた。
結果、即応待機をしていた哨戒機と沖合にいた第3戦隊の駆逐艦2隻、フリゲート4隻が現場海域に急行。ドイツ潜U802(?C型)は浮上を余儀なくされた。

この結果は、ドイツ海軍上層部はもとより国防軍総司令部を震撼させ、検討段階にあったフィンランド侵攻作戦を事実上の頓挫に追い込んだのであった。


【あとがき】――というわけでその2を投稿。地味目ですが、海底ソナーの話を出したのでちょこっと活躍させてみました。

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最終更新:2011年12月30日 22:32