539. ひゅうが 2011/11/07(月) 22:10:10
>>531-533

>>538
の続きというか前史のようなものです。


suuri sotalaivasto〜われらフィンランド海軍「大艦隊」〜3  「友邦」

――1942年8月1日  デンマーク  スカゲラック海峡

「けっ。欧州の裏切り者が行くぜ。」

「わが帝国の20分の1の人口しかないくせに、一丁前の海軍の面しやがってよ。なんなら一発当ててやろうか?」

「そりゃいい!あんな極東の猿のお下がりなら一発で轟沈だ。どうせ氷の湖しかない国のヤツだから泳げない。全員溺死して原因不明の事故でカタがつく。」

「わっはっは!黄色い猿が戦争になりそうだからライミーどもに頭を下げに行くんだろ?負け犬同士お似合いじゃないか。そんなことをしなくとも我らが総統閣下が保護してくださるさ。大ドイツの属領民として東部戦線で弾よけになる栄誉に感謝しろい!」

「やめておきたまえ。プロイセン軍人がみっともない。彼らは腐ってもあのソ連軍相手に一歩も引かないばかりか逆襲までやった。勇士を遇する術を知らんとは、それでも栄光ある第3帝国軍人か!!」

「は・・・失礼しました!リンデマン閣下!」

「よろしい。確かにわが海軍が冷めたパンを食わされて苛立つのも分かる。だがいつかは来る。かつてのようにあの大洋一杯に軍艦を並べて世界一の海軍国だったイギリス相手に戦えるような日が。」

「は・・・浅慮でした。しかし、その日が待ち遠しいです。閣下。」

「そうだな。よし。その時のためにも君らはもと修練することだ。持ち場に戻りたまえ。」

元気よく返事をする若い士官たちににこやかに答礼しつつ、エルンスト・リンデマン少将の心中は複雑だった。

――太平洋の緊迫を見てとった第3帝国総統  アドルフ・ヒトラーがフィンランドに対し「自軍のフィンランド領無条件通過許可と日芬同盟破棄」を迫ったのはこの一週間前だった。
英国を屈服させた今、日本の同盟国であるフィンランドを屈服させ、レニングラード北方から進撃し手薄な方面(彼の主観だが)からモスクワを落とす。それが総統の考えだった。
これに対し、フィンランド政府は、予定されていた海軍の練習艦「マンネルヘイム」の日本への練習航海の行き先をロンドン経由のケープタウン行きへ変更することで答えた。
ヒトラーはこれを「条件付き受諾」と考え、現地に飛んだリッペントロップに檄を飛ばしている。そして、デンマーク駐留の第3帝国バルト海艦隊第4戦隊(駆逐艦4隻)が「訓練」の名目で集まる中を練習艦「マンネルヘイム」は通過していたのだ。



「フィンランド艦より発光信号!『危険なので方向転換をせず現針路を維持されたい。』とのことです!」

「どういうことだ?・・・『了解』と伝えよ。各艦にも現針路維持と伝達。手空き総員上甲板。答舷礼にかかれ。」

あの戦艦「ビスマルク」の艦長から戦隊司令に栄転していたリンデマンの号令で、駆逐艦「Z1」の艦内は慌ただしくなった。
前方11時の方向から接近するフィンランド艦とすれ違いに乗員同士で敬礼を交換するのだ。だが、リンデマンには「マンネルヘイム」からの指示が解せなかった。このまま行けば距離1000メートル近辺ですれ違う。針路を変える必要はなかったのだが・・・
540. ひゅうが 2011/11/07(月) 22:11:19
開戦以来鍛え上げられ続けている乗組員たちはまずまずの早さ(大海艦隊のそれに準じるくらいで、リンデマンは及第点を与えていた)で甲板上や砲塔、ブリッジのや煙突の側面などに整列する。

「フィンランド艦より発光信号!『貴国戦時下ゆえ礼砲不要。貴艦隊の武運長久を祈る』!」

「『感謝す。冬戦争の勇士たちにさらなる栄光あらんことを』と返信せよ。」

リンデマンは、露天艦橋の向こうをすれ違って行くフィンランド艦を見やった。
日本の無骨な中にも流麗な設計を受け継いだ「マンネルヘイム」は、前部2基、後部1基の単装15.5センチ砲塔や艦橋、そして傾斜煙突という美しい洗練された姿をしていた。

と。

「聴音より艦橋!排水音!至近です!」

「何!?魚雷発射管か!?」

「違います!ブロー音!潜水艦が浮上してきます!」

「なぜこの距離で気付かなかった!?」

「申し訳ありません!」

くそ。フィンランド艦の信号はこのことだったのか。
リンデマンはほぞを噛んだ。

「『マンネルヘイム』後方30(300メートル)海面に異常!」

「警戒不要。潜水艦だ。」

海面を白く泡立たせ、波を切って浮上した400トンほどの小型潜水艦に、リンデマンは敬礼を送った。手ごわい勇士たちに敬意を表して。



――この日、スカゲラック海峡に浮上したのは、フィンランド海軍がかねてから導入したとのうわさがあった日本の小型潜水艦だった。
「波‐201型」あるいは「潜高小型」と呼ばれるこの小型艦は、小型であるがゆえに輸送船を使いこのバルト海へ運ばれてきたのだった。
太平洋では拠点防衛用には「超『海龍』型」と呼ばれる超高速特殊潜航艇があり、かといって敵地で特殊工作を行う母艦となるには小型でありすぎたこの艦は、艦政本部がとりあえずは建造したものの使い道に困っていた代物だったのだ。
結局これらの用途のすべてに使える中型水中高速潜水艦の登場でフィンランドに渡されたものだったが、欧州で使用するにはその性能は十分すぎる。
何しろ、シュノーケルを装備し、水中速力16.7ノットで動き続けるのだ。
フィンランド海軍は、この艦を乏しい予算の中4隻購入していた。

フィンランドがドイツに送ってよこした答えはこうだった。


「我々は、『友』を見捨てるようなまねはしない。」
541. ひゅうが 2011/11/07(月) 22:18:05
追記――航海途中に立ち寄ったカナリア諸島基地は奇妙に緊張状態で寄港が残念ながら許可されなかった。

さらに追記――この時の記録をとっていたドイツ海軍は、排水直前までフィンランド潜水艦を探知できなかったこと、そしてフィンランド艦がどう考えても水中で水上艦と同じだけの速度を出していたことに気づき恐慌状態になった。
              ついでに総統閣下は無茶を言い、レーダーの胃の状態が悪化するのに比例してデーニッツの胃は少しよくなったらしい。


【あとがき】――総統閣下が北欧方面には自重し続ける
542. ひゅうが 2011/11/07(月) 22:21:42
>>541
  途中で切れたので追記

【あとがき】――総統閣下が北欧方面に自重し続ける理由を考えて書いてみた。あと憂鬱日本に友邦がほしかったので書きました。

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最終更新:2011年12月30日 22:31