560. ひゅうが 2011/11/10(木) 21:37:34
提督たちの決断ネタ帳――厳秘  「衝号計画」要綱


1、ラ・パルマ島の構造とマグマの特質

カナリア諸島、ラ・パルマ島。
面積は約706平方キロ。南北47キロの南向きの楔形をしたこの島は、2つの火山により構成されている。
プレートテクトニクス的には大西洋ホットスポットの一員であるこの島は、ユーラシアプレートとアフリカプレートのせめぎあいの中で誕生した火山性の地質を持つ。
問題は、その島が大洋底4000メートルから海上2400メートルまでそそり立つ「巨大な火山」であることである。
また、海底の玄武岩層を主成分とするこの島は、花崗岩のように丈夫的ではない。
幸いなことに大西洋岸の火山が持つマグマは発泡性や水分に富んではおらず、ある日突然噴火し大爆発を起こす性質はない。
だが、アイスランド島のような巨大な島ではないカナリア諸島は、たとえば砂場に作った砂山のように脆弱である。
通常の噴火は、海底のマグマだまりの圧力が島の形成時にマグマが冷えてできた山体の割れ目を押し破り、間欠泉のようにたびたび噴火を起こすのであるが、その噴火により海面下にいくつもの亀裂が生じ、そこを通じ海底に蓄積され続けているマグマだまりに水分が供給される。
たちの悪いことに、マグマは水分を得るととてつもなく粘性を増す。
水分の供給が一定以上となると、まるで過冷却の水に衝撃を与えると結晶化し氷となるようになり、噴火を起こさず「すんづまり」状態となる。

こうして本来ならば爆発によりほどよく圧力が解放されていたはずのマグマだまりは圧力を高め続け――3〜4万年に一度、巨大な爆発を起こすのである。
元来ラ・パルマ島はこうして海底火山が大爆発を繰り返し、鋭角三角形の断面の上部が崩れ落ちることで「土台」を押し固めて成長したと考えられている。

島が巨大になるに従ってこういった「山体崩壊」と呼ばれる現象は起きなくなったが、それでも着々と圧力は高まっていたのだ。
海面上の圧力は低いため、島の海面下にあるマグマだまりとは別に2つの火山の下には浅部マグマだまりが形成され、に通常はアイスランド島やハワイ諸島のように溶岩流を噴き出す噴火を繰り返しているものの、深部マグマだまりは「寸詰まり」の状態を有史以来続けていた。



2、衝号計画

衝号計画は、北米大陸へ巨大津波を到達させることを目的としており、そのためには上述の山体崩壊が必要である。
幸い、ラ・パルマ島は2つの火山で構成されており、その間には深い断層帯が斜面のように横たわっている。
これは、もともとの島体を構成する古い火山のカルデラ横から新しい火山がそびえたっているがためである。
そして、カルデラ斜面の底は海面下4000メートルにまで達する。
要するに衝号計画とは、新しい方の火山噴火により断層帯で二つの火山を切り離し、古い火山のカルデラ斜面から高さ2000メートル、長さ25キロ×15キロの巨大な陸塊を崩壊させながら海面下へ一気にたたきこむ作戦と推定できる。

これを完成させるには、活発な活動を繰り広げる新しい方の火山――ケンブレビエバ火山による大噴火を起こしつつ、島そのものを吹き飛ばすレベルでの噴火を巻き起こし断層を分断しなければならない。
実現にあたって考慮できるのは、水蒸気爆発である。
島の海面下2000から3000メートルほどに横たわる巨大なマグマだまりによる爆発も広義の意味では水蒸気爆発に近い。
それは、本来は圧力に耐えかねたマグマだまりに生じた裂け目から火の玉の塊のような海水含有マグマが上昇し、ついに海中の海水と出会って沸騰することによって怒る爆発である。
今回は、ケンブレビエバ火山の活発な活動により生じているであろう地上から海中にまで達する断層という裂け目を掘削し、なるべく地下深くの、かつ海中に近い部分で炸裂させることが望ましい。
これに加え、できれば二つの火山の間を走る断層帯と合流している部分であるならば言うことがない。
561. ひゅうが 2011/11/10(木) 21:38:27
手順はこうである。まず、核爆発の高熱により弾体から直径500メートルほどの地下空間が生じる。想定される爆発深度は地下およそ500から800メートルほど。
衝撃により、マグマだまりは刺激され、この低圧の地下空間の崩壊開始と同時にマグマも殺到していることだろう。
また、海に近い断層帯のため、地下空間の崩壊によって海底の水圧により割れ目の方から海水の流入もはじまる。
こうして、マグマと海水は出会い、大爆発が生じる。
この課程でおそらくケンブレビエバ火山には新たな火口が誕生することになるだろう。
しかも、崩壊した地下空間は直径500メートルほど。富士山の火口の大きさを考えれば破格なほど巨大なマグマの通り道ができあがる。
連続する水蒸気爆発によりその大きさは更に拡大していることだろう。
こうして浅部マグマだまりの圧力は急速に低下していく。
そうすると、圧力や自身の粘性のために蓋をされていた深部のマグマだまりも、核爆発の衝撃に加えてこの圧力低下によりにわかに活気づく。

大噴火の開始である。
圧力低下点である「爆発火口」めがけて、粘性が高いために直径100から200メートルほどになっているだろう巨大な1000度以上の炎の塊が上昇を開始する。
そして、もとから水をため込み続けていたマグマは、流入しつつある大量の海水に触れ・・・
大爆発を生じることになる。
威力は、ガスや含有水分の発泡も考慮し、かつ圧力がまだ万年単位でたまりきっていないために「不完全」であることも考えれば全てが吹き飛ぶ「破局的大噴火」とはなり得ない。

しかし、20キロ四方の暑さ2キロ程度の岩塊であるケンブレビエバ火山を島本体と切り離すには十分だろう。
最終的には、水爆数十個分のエネルギーを一気に放出しつつ、ケンブレビエバ火山を構成していた質量の大半は海中に没する。
その課程で、熱いマグマが水蒸気爆発を繰り返しつつさらに多くの海水を押しのけ続ける。
その轟音は、遠くイベリア半島や英国諸島でも聞くことができたかもしれない。

この大噴火により生ずるであろう津波は、最低でも225立方キロメートル(周囲15キロ、深さ1キロほどの崩壊)。最大となると、海底部分の山体も崩壊するため(周囲20キロ、深さ10キロ程度の崩壊)4000立方キロメートルまで達することだろう。
ここは、元ネタであるロンドン大学のシモン・デイ博士の試算にのっとり「長さ25キロ、幅15キロ、厚さ1.4キロ」とし、約525立方キロメートルが落下したものと推定してみよう。

試算によれば、地滑り開始2分後には津波の高さは906メートルに達する。反動によりラ・パルマ島近辺の海面は1324メートルまで沈下するという。
盛大に崩落面からは水蒸気爆発が起こりまくっていることだろう。
ひょっとすると、大量のマグマが一気に流出し、崩落分の質量分の炎の塊のような代物をぶちまけているかもしれない。
こうして生じた津波は、作中の描写の1.5倍、30メートルほどに達してフロリダ半島を飲み込むことだろう。
東海岸に押し寄せる波の高さは20メートル弱となる。
だが、恐ろしいのはここからだ。
作中で無理矢理山体崩壊を起こし、マグマを排出させてしまったので、その分の熱を冷やさなければならない。
何で冷やすのか?
もちろん海水だ。
この時点で排出されているであろうマグマの量は、マグマだまりの大きさを5キロ四方としても125立方キロ。
このうち外側をくるめばいいので反応するものを考えてみると、少なくとも1キロの厚さを持つ即席のブランケットを作るには20〜30立方キロ程度の反応は必要になるだろう。
これだけの質量を持つ物体の温度を7〜800度程度から100度以下に下げなくてはならないのだ。
水蒸気爆発は連続するだろう。
あたかも空想科学読本で「ザンボラー」というウラン食ってる怪獣が自分の熱で岩を溶かし、キノコ雲を毎分何本も立ち上らせて地球中心へ落下していくように、それはすさまじい光景だろう。
爆発により生じるエネルギーは見当もつかない。ただ、毎秒核爆発を起こしているようなもの・・・というのが火山学入門書の表現だ。
ここは、5〜6メートルの津波を北米大陸にもたらす程度と考えておこう。
562. ひゅうが 2011/11/10(木) 21:41:30
こうした爆発は、おそらく数日から数ヶ月続く。
初期の派手な爆発により生じた津波は、10波や20波ではきかない程度の津波を東海岸の標高の低いあたりにもたらしているはずだ。
525立方キロメートルの土砂に加え、20〜30立方キロの高温(少なくとも700度ほど)の岩石が蒸発させただろう140〜210立方キロの水は、体積は圧力によって違うものの概ね1000倍になっていると推定できよう。
蒸気の全てが海面を押し上げるわけではないが、巨大な気泡やそれが破裂する爆発音はそれだけで十分に驚異的なエネルギーを秘めているだろう。
津波の高さを押し上げるわけではないものの、断続的に続く水蒸気爆発は、津波の全体体積を十倍以上にしているとしても驚くことはない。



3  被害推定


こうして生じた津波は、大西洋を押し渡り、まずはフロリダ半島を飲み込む。
高さは30メートルほどだが、前記の水蒸気爆発により波は連続しており、0.5時間程度継続していたとすると、津波の総体としての幅は300〜400キロほどになる。
高さ30メートル、幅300キロの水の壁が襲いかかってくるのである。
フロリダ半島やカリブ海の島々には、生存者がいる方が不思議であろう。

同時に、北米大陸東岸部の低地地帯は壊滅しているだろう。
アパラチア山脈より東側は、おそらく3割近くが水没。水をかぶった部分だけ考えれば、その遡上は内陸1000キロ程度の河川にまで達している可能性すらある。
ワシントン.D.Cはポトマック河の水域に面している。0メートル地帯も多く、津波はこれらのほぼ全てを押し流すだろう。
ホワイトハウスは完全に水没。議事堂は高さ87メートルのドームを有しているが、議事が行われている場所は高さ30メートルもない。
おそらく阿鼻叫喚の中議員たちは生きたまま水葬されたことだろう。
また、ワシントンD.Cの建造物の高さ制限のため、建物および政府機能はそのほとんど全てがストップする。

南に目を転じ、ニューヨーク市も似たような状況だ。
高層の摩天楼は残るが、そこに避難できる人間は突然の津波もあって数万人いればいい方だろう。
ニューヨーク海軍工廠は、北米東岸のフィラデルフィア、ニューポートなどと同様に浸水。
建造中の軍艦は横転するか、ドックにたたきつけられて崩壊する。
市街地に近いため、巨大な軍艦や客船が人々を圧しつつ市街地のど真ん中へ突っ込むかもしれない。
同様な光景の北限はおそらくニューファンドランド島だが、そこでも少なくとも5メートルの津波に襲われる。


南部沿岸は悲惨に襲われるだろう。
カリブの島を丸ごと押し流した津波が殺到し、メキシコ湾岸の油田地帯は崩壊。数ヶ月たっても海が燃え続ける恐ろしい光景が現出するだろう。
ダラス、ニューオリンズなどの都市機能も麻痺し、ミシシッピ川を遡上する津波によって耕地は塩害に苦しめられるだろう。
ただでさえ地下水のくみ上げすぎで海面とほぼ同じレベルまで沈降している大平原に海水が流入するかもしれない。

こうして第1波の被害で唖然としていると、そうこうしているうち北アフリカとポルトガルというラッパ状構造で跳ね返った波が逆に押し寄せてくる。
津波のあまりの巨大さからそれは、「いつまでたっても水が引かない」という状況になるだろう。
なまじっか標高が低く、なだらかな北米大陸では水が引くのはさらに遅くなるかもしれない。
結果、同地域に居住していたアメリカ合衆国の国民およそ8000万のうち、沿岸都市部に居住する3000万あまりの半分以上は、適切な避難がなされるか、高い避難場所が存在するか、あるいは運がよいか出ない限り、そのほとんどが海に呑まれる。
南米、アフリカ西岸、ポルトガルなどもあわせればその数はさらに数倍されるだろう。

以上が、衝号計画における初期の被害推定である。

(以下略)


【あとがき】――まじめに「衝号計画」の流れを想定してみた。
書いておいてなんですが、こんな恐ろしい代物が大西洋に眠っているのは恐ろしすぎます。
実は南九州とか薩南諸島とかにも似たような怪物が眠っていますが・・・
そのあたりは石黒先生の作品あたりでおなかいっぱいです。
では、長文失礼しました。

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最終更新:2011年12月30日 22:45