850 :名無しさん:2012/02/29(水) 10:54:32

 アメリカ聖教国の保有する強化型アメリカ風邪。
 その情報を最初に掴んだのは大日本帝国であった。
 といっても、それは偶然にすぎない。
 実を言えば、大日本帝国もドイツもイギリスも旧アメリカ東海岸に小規模な部隊は送り込んでいた。言うまでもないかもしれないが、彼らの目的はアメリカ風邪の詳細である。
 詳細な情報があれば、その分ワクチンなりの開発に役立つからだ。
 とはいえ、アメリカ聖教国が成立してからは危険な為に小規模部隊では侵入しづらくなっていたのだが……。 
 相手が狂信者だから、ではない。
 現場がアメリカ風邪のみならず、各種の毒ガスの原料や各種病原菌によって重度に汚染されている地域だからだ。
 そんな所では当然、重く動きづらい防護服に全身を包んで動くしかない。
 そんな格好では当然、そんな危険地域でも普通の軍服で行動する、つまりは身軽な相手の対処は如何に精鋭部隊でも厳しく、また、もし防護服が破損すれば一大事だ。
 そして、各国軍とも精鋭部隊をそんな事で失うような真似は避けたかった。そういう事だ。

 さて、話を戻すが、そうして手に入れていた情報の中から一つの情報が発掘された。 
 書類に記されていたそこには、強化型のアメリカ風邪が開発されていた、というものであった。
 では何故、それがこれまで漏れ出していなかったのか?
 原因は『コントロール不能』、この文字が全てを示していた。
 どんなに強力な生物・化学兵器であっても、こちらがコントロール出来るのであれば問題はない。だが、制御不能とあっては話は別だ。そんなもの使えばこちらも自滅しかねない。
 かくして、強化型アメリカ風邪は、本来のアメリカ風邪以上に手に負えないと厳重にも厳重な封印が施されていた。
 それ故に、大西洋大津波が押し寄せた際もアメリカ風邪と異なり密閉されたままで大金庫に納められており、流出を免れた、のだが……これを持ち出したのが聖教国であった。

 この最も恐るべき点はキャリアーが聖教国の兵士達であり、動物であるという点だった。
 無論、死ぬ者も多い。
 だが、カルトにおいてはそれは神に召されただけであり、生き残った者こそが約束の地に迎え入れられた者、神の為に戦い散った者は神の下に召されるであろう、と命を賭けて戦ったのだ。
 原子爆弾、BC兵器。
 それらを用いても全てを殺しつくすのは難しい。
 何しろ、街中で見つけた震えている子供を、武器すら何も所持していない子供を保護してすら、実はキャリアーである危険性があるのだ。
 イタリア兵の場合、怯える女性を保護したら女性当人すら知らされずにキャリアーとされていた、という例もあった。
 それこそ子供が銃を持っている場合より恐ろしい。
 銃を持っているなら目に見える。だが、アメリカ風邪は目に見えない。一見普通に見える人間が実は恐るべき生物兵器を宿す爆弾であるかもしれないのだ。
 これで「片端から殺せ!」と命じられて、殺せるならいいだろう。
 だが、現実には難しい。
 如何に頭では理解していても、泣く怯える震える当人には全く「生きた爆弾」としての意識のない民間人に銃を向け、殺せるだろうか?
 それも兵士全員が徹底しなければならない。
 一人がつい情に流された結果、部隊全員に感染が広がる可能性もある。というか、実際に起きた例がある。
 そう……あの戦争が『生存戦争』と呼ばれたのは、ただ単にどちらの国が生き残るか、ではない。
 個人個人が聖教国の兵士だけでなく、目の前の子供や女性を自分が生きる為に殺すか、自らと仲間のの命を賭けて助けるかを強いられた戦争だったからである……。

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最終更新:2012年02月29日 21:42