177 :フィー:2012/04/14(土) 22:05:29


異世界のジパング2


「それでは、やはり実行せざるを得ませんか。」

「航海中の魔物の襲撃による被害は無視できるレベルを超えていますし致し方ないかと。」

「それにしても、半島はともかくアフリカ大陸相当の遠隔地に街を作らなければいけなくなるとは・・・。」

「有効性は非常に高いものですし、平時であるなら一も二もなく賛成するのですが・・・。」

沈痛なため息を漏らすものが何人もいるある日の会合。まぁそれ自体はいつもの事である。
転移から10年程の月日が経ち予断は許さないものの国内事情にある程度の安定が見られてきた時のことだ。
帝国にとって海外との貿易の維持は死活問題であり、常に多くの船を運用する必要がある。
これはそれ故に起きた問題の一つへの対策だった。

「八百万の神々のお力添えもあり国内は、ある程度の安定を保っていますが国外はそうもいきません。もともと全ての船に常に護衛を張りつけられるほどの余裕などありませんし、武装の増強や航海神の加護、魔法の守護を施してなお国内需要を満たすだけの輸送には危険が大きいと言わざるを得ません。」

「国内で賄えない資源は多く、食糧すら欧州地域からの輸入が途絶えれば危機的な状況になるのです。それにあの場所はネクロゴンド王国が滅んでから誰も領有していない無主の地です。我々が領有を宣言しても文句は出せません。」

スエズもパナマもないこの世界で欧州地域まではアフリカ、南米大陸周りルートに等しい距離の航行が必要となる。
その上魔物が多数出現する以上輸送船は船団を組んだ上で護衛艦を付けるしかない。
そんな状態では帝国の需要を満たす事など到底不可能だった。
そこで持ち上がったのが今回の計画である。
それは旅の扉を輸送ルートとして使う事で距離の大幅短縮を実現するというものだ。
朝鮮半島相当の地とアフリカ大陸西部相当の地を繋ぐ旅の扉の両側を都市化し港を整備できればその価値は計り知れないものになる。

178 :フィー:2012/04/14(土) 22:06:33

「しかしあの場所は魔王の居城からあまりに近い!だからこそ今は封鎖する事で魔物の侵攻ルートにならないよう管理しているのだ。事実、同程度の距離にあるテドン等は完全に滅ぼされてしまっているではないか!」

「外地の鉱山や入植地で結界を整備しある程度の戦力を置けば防衛が可能なのは証明されています。京都クラスの多重結界で守れば維持は可能だと、それに万が一にも陥落が免れない情勢になれば旅の扉へ退避したのちに扉を封印します。」

それにあの場所は大陸の一部ではあっても魔王城とは地続きではありません。万全を施した上でならリスクをリターンが上回ります。と推進派が強く主張する。

これまでにも大陸などへ入植し食糧生産や林業、鉱山開発などを生活の糧としている者は多い。
どれも需要に対して供給が全く追い付いておらず日々入植者は増え続けているが、これまでに魔物に滅ぼされた入植地は初期の数えるほどにすぎない。
それに各国との技術協力等も積極的に行っており、他種結界の複合運用等により強化に成功し世界各都市も防御力を高めていた。
ちなみに、他にも帆船に機械の補助を入れる事で効率を高めたり、木炭の製造に魔法を用いる事で燃焼効率を上げるなど多分野に亘って成果が出ている。

「地球半周分の距離を短縮できるのなら他の航路に艦船を回す余裕も生まれます。輸送効率の向上はランシール航路等にも及ぶ事になりますし、何よりも石油が節約できるのが大きい。リスクを背負う価値は十分にありますよ。食糧供給の安定化の一助にもなりますしね。」

「・・・致し方ないのか。たしかに多大な利点があることは認める。だが安全対策に出来うる限りの最善を尽くした上でさらに警戒するくらいは必要だろう。陥落を絶対に避けなければいけない重要拠点を増やす事になるのだから。」

「それは当然ですね。旅の扉自体も解析を行っていますが、ある特定の場所どうしのみ繋げる事ができる地脈干渉型の転移装置という以上は分かっていませんし。」

出来る事なら大型化や複線化はしたいのですがねぇ。とつぶやく者もいるがそれを実現するには更なる技術発展を待たなくてはいけない。
諸外国との交流や技術開発は今後もさらに加速し世界を確かに変えていく。
そうした未来を象徴するさきがけの街として呼ばれる事になる西の都、「西京」はこうして誕生した。

179 :フィー:2012/04/14(土) 22:07:17

極東にジパングという島があり、そこは一人の女王に治められる黄金あふれる国だという。

そんな噂も今は昔。
今はその場所には大日本帝国という別の国が存在している。
はるかな異世界より突如現れた多くの人口と優れた技術を誇る超大国であり今ではこの国、ロマリアの最重要取引相手となっていた。
そして、それはかつて異世界においてこう呼ばれた国でもある"黄金の国ジパング"と。

ロマリア王side。あるいはロマリア王の憂鬱


ロマリア王城の執務室にて楽しそうに報告書を読み漁っている男がいる。
少し前を思い出せば誰もが驚く事だろう、それは闘技場に通い詰め仕事をサボる事で有名なこの国の王その人であった。

(ふむふむ、日本からの技術支援で作った実験農場の収穫量は従来の3倍か。これがそのまま他の農村に適応できるわけでは無いだろうが収穫量増大は間違いないな。順次広めていくよう指示を出そう。余剰品は日本へ売れば腐らせることも無いからな。)

王国の港に大日本帝国の軍艦が全権大使を乗せて姿を現わしてから数年が経っている。
そのあまりの威容に戦々恐々としたものだが付き合ってみれば誠実で信用できる者達であった。
彼らは異世界からこの世界に現れそう時間が経っておらず情報と足りない物資を求めて国交を開くことを望んでいた。

(次は、新型船の試作案か。日本の戦列艦のような巨大な船も何時か我が国で作れるようにしたいものだ。燃料となる特殊な油が彼らの国内でしか産出しないのだから新しい動力機関を開発しなければならないだろうが・・・予算を付けておこう。)

いそいそと書類に数字を書き込みながらふと思う。

(――むしろ油が取れないのは幸いだったのかもしれないな。彼らが国力に見合う潤沢な資源を持っていたなら我が国との付き合いも自然と別物になっていたであろうしな。)

ともあれ友好的に付き合えるのは良いことだ。末長い関係を築きたいものだな。と独白し次の報告書へ目を移していく。

(この仕事が終わったら久々に闘技場にいこうか。それとも研究所に顔を出そうか。)

そんな取り留めも無いことを考えながらも次々に書類を片付けていくのだった。
ちなみに研究所とは国内の魔法使いや学者を集め発足させた魔法・科学研究所であり大日本帝国との技術交流の実務の場ともなっている。

王は国家機関として設立した研究所に対してさらに私財を投じ主研究とは別に自分が面白そうだと思った事を片っ端から研究させているのだ。
潤沢な資金に優秀な人材を集めた研究は莫大な利益を国と自身にもたらし先見の明を持つ賢王としても名誉をも得ることとなる。(別に欲しいとは思っていなかったが。)
日々上がってくる報告書は面白さに満ち溢れており、完成する品物は好奇心を掻き立てる物ばかりだった。
かつて無いほど仕事に取り組み、なお疲労さえも感じないほどであり、まさに順風満帆なひと時であった。
――事務処理量が許容値を超えるまでは。

そして、大日本帝国と国交を結んでおおよそ10年。

180 :フィー:2012/04/14(土) 22:08:05

パタパタと廊下を走る音が聞こえてくる。

「失礼します。陛下!日本大使館より連絡がありました!」

執務室の扉が開かれると同時に年若い文官が入室し報告事項を読み上げ始める。
本来なら不敬罪ものなのだが仕事量が増え続けると共に普段は虚礼を廃し効率を優先するように命令が出ているのだ。

「騒々しい、いったい何事だ。」

「大日本帝国が先日領有を宣言したネクロゴント西の三角地帯に港湾都市の建設を決定。施設が稼働次第、我が国との交易の拠点を同都市に設置するとのことです!」

「なっ・・・あの場所を確保したのは旅の扉を使った輸送ルートの短縮が目的か!」

てっきり魔物の侵入を防ぐ安全保障上のものだと考えておったわ。と苦虫を噛み潰した様な表情を浮かべた。

「これにより現在の数倍の輸送が可能となり交易の規模が大幅に拡大します。具体的な数値は現在計算中ですが、我が国としても数百万ゴールドの増収が見込まれます。」

報告にきた文官が興奮気味に告げる中、王の眉間の皺は深さを増して行く。

(どう考えても今より仕事が増えるではないか!私を過労死させるつもりか!)

「すぐに領事館の設置を打診しろ、派遣する人員の選別を並行して行え!」

「はっ。ただちに!」

機嫌の悪そうな表情に気がつき慌てて退出していく文官を見送りながら王は自らの思考の中に沈んでいく。

(現状のままではどうやっても文官が足りん。そもそも私がこの量の事務処理をしている事自体がおかしいのだ!何処かに仕事を任せられるだけの人材はいないだろうか?・・・いたらとっくに雇っておるな。)

これまでの10年間で爆発的に増えた書類を処理する為に文官の人数は倍増している。
しかし、一定以上の教育を受けた人間は富裕層に集中している上に引く手あまたで増やすのも限界を迎えつつあった。

(やはり教育改革が必要か?ある程度仕事を任せられるだけの文官を育てるにはどうしても必要になるな。そうだ、才ある者には魔法使いとしての教育も行うようにしなければ。研究所の方からも人員増強の申請がきておるし・・・。)

自分の娯楽的な面もあり研究所視察は数少ない息抜きの時間でもあるのだが、最初の成功に調子に乗って増強した研究所はその分の成果を出し続け、さらなる人員の要求と報告書の山を王に献上し続けている。

(はぁ、こんなはずでは無かったのだがな・・・。折角いろいろ研究させているのに殆ど私が遊べないではないか。もう最後に闘技場に行ったのすら何時なのか思い出せんぞ・・・。)

そして、成果を出している以上それに見合った待遇が与えられさらに拡張していくスパイラルが発生していた。
――無視できない要素として研究員たちが王の期待に答えようと全力を尽くしているというのもあったのだが。

(学校の設立と地方からの人材発掘、奨学金を付ければ平民にも広く門戸を開けるか。農地改革で収穫が増大した分民衆に余裕はある。学ぼうとする意志がある者は多いだろう。しかし、そうすると根回しにまた貴族連中と愚にもつかないパーティを開かなければならんのか・・・。)

大日本帝国との技術交流や交易により好景気に沸くロマリアでは貴族と言うだけで恩恵を享受している者も少なからず存在する。
もちろん貴族としての自覚を持ち国や領地の為働く者も数多くいるのだが、同程度には自分が儲けることしか考えていない者もいるのだ。
そして宮廷での勢力が大きいのはおおよそ後者なのである。

(くくっ、仕事を減らすために仕事を増やさねばならんとはとんだ皮肉だ。ああ、それにしてもこのエイヨウドリンクとやらは良く効くな。さすが、日本の宰相も愛飲しているというだけの事はある。)

やる事が多すぎ、やらねばならず、疲労で笑いすらこみあげてくるテンションになりつつも更に今後の予定を立てていく。
優秀な王に統治されかつてない変革と繁栄を謳歌するロマリアは今日も今日とて平和であった。


「っく!このまま書類に埋もれてなるものかっ!いつか!必ず!この地獄を抜け出して遊び倒してやる!」


偉くなるほど自由が無くなる。
楽隠居を目指しながらも仕事漬けになる。
憂鬱世界の世界律もきちんと世界に刻まれているのだった。

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最終更新:2012年04月15日 06:10