虚と出会った一人の少女


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第一話 虚と出会った一人の少女

身体が滅びゆく中、俺は一人の女にこう問うた。『俺が怖いか?女』と。すると女は答えた。『怖くないよ』と。その言葉を聞いたとき、俺の胸中に去来したものは
なんだったのだろうか。そしてこの身が完全に滅びる直前『そうか』と俺はつぶやき、世界から消え去った。
しかし、俺はまたこうして意識を取戻した。いや、意識だけではない。この身体も、あの時塵となって滅びたはずの俺の身体も俺自身も知らぬ間に
再び形作られている。それだけではない。あの世界、俺たちが暮らしていた世界とはまた別の場所に、俺は現れた。
そう、聖杯戦争というゲームのために。そして自分のマスターを勝利へと導くために。

周囲を見渡してみると、すっかり葉を落とした木の群れが吹きすさぶ風にその枝を揺らし、太陽も西の空へと大きく傾いている。
蝋燭の最後の残り火のような儚い光をしばし見つめた後、俺はゆっくりと歩を進める。俺が現れた雑木林を少し進むと、
まだ年端もいかない子供たちが何やら鉄の棒を手に切り合いの真似事に興じていた。俺はその子供たちの前に歩み出て、こう問うた。

「おい、手の甲を見せろ」
「え、いきなり何?お兄さん、え、ちょっ!」

答えも聞かずに俺はその子供の両手を取り手の甲を確認する。俺のマスターならば令呪があるはずだが…ない。そしてそれはもう一人の子供も同じだった。
まあ、こんな子供が俺のマスターであるわけがないか。そのまま俺は子供たちに背を向けて、雑木林を後にした。
どれくらい歩いただろうか、すでに東の空は夜の闇に染められ、西の空に日没前の最後の灯を残すだけになった。
何故だ?あの光を見ると妙に寂しい気分になるのは…その儚い光を見つめたまま一歩一歩歩を進めて行き、ある家の前で歩を止める。
その家の玄関の前に付けられた表札には『八神』と書かれていた。何故か俺はこの名が妙に気にかかり、その家のドアを何回か叩く。

しかし、家主が現れる気配はなく、この名が気にかかったのも一時の雑念に過ぎないと打ち払ってその場を後にしようとしたとき、
俺の眼前には一人の少女の姿があった。足が弱いのか車椅子に乗り、その膝の上には今買って来たであろう夕食の材料が詰められていた。
そして、その少女は俺にこう問うた。優しく、慈愛に満ちた声で。

「あれ、お兄さん、うちになんか用ですか?」


私の名前は八神はやて。歳は8歳や。これからよろしゅうね。私は幼いころからお父さんもお母さんもいなくてな、私の足もお医者さんにも原因がわからない
障害があるんやけど、お父さんの友人ちゅう人からいろいろ助けてもろうてなんとか一人でも暮らしていけてるよ。
まあ、私の身の上話なんかこの辺にしといて、今何をしてるかっちゅうとね、この前ひょんなことから仲良くなった月村すずかちゃん、っちゅう女の子と
一緒に図書館で勉強中や。私は足が弱いからすずかちゃんと同じように学校に通うこともできないんやけど、こうしてすずかちゃんと一緒に勉強中に
学校の事とかいろんな話を聞いてそれに思いを馳せてみるだけでも、私は満足なんや。

「あれ、はやてちゃんどうしたのその手の甲のアザ。なにか模様見たくなってるけど」
「うん、それがね、私にもよくわからないんよ。数日くらい前に朝起きたら、手の甲にこれが浮かび上がっててな」
「そうなんだ、早く取れるといいね」

そのあとも私はすずかちゃんと勉強しながら楽しくおしゃべりをして私語したんやけど楽しい時間ちゅうのはどうしてこうあっという間に
過ぎてしまうもんなんやろうね。図書館も17時で閉館時間を迎えて、私はすずかちゃんと図書館前で別れるとそのまま車椅子をこいで、近くのスーパーに向かったんや。

今日の夕食の献立を考えながら、私はスーパーで材料を調達するとそのまま家にまっしぐらや。私は一人暮らしやから買う材料も一人分でええし、
楽でええよ。まあ…一人で食べるご飯が寂しくないと言えば嘘になってしまうけどな。そうして、日没前のおひさまの光を背にして私は20分くらいかけて
自分の家までたどり着いたんやけど、その日はいつもと大きく違うことがあったんや。全身白ずくめで、左の頭には何やら角みたいなものがついとるし、
肌の色も不気味なほど真っ白で、表情も全くと言っていいほどなかった。せやけど私にはな、なぜかその人が悪い人には見えんかったんや。
だから私は、目の前のその人に、こう話しかけたんや。

「あれ、お兄さん、うちになんか用ですか?」
「お前が、この家の主か。いや、別にこの『八神』という名が妙に気にかかっただけだ。他意はない。邪魔したな」

そういってその白装束のお兄さんは私から去ろうとしたんやけど、通り過ぎざまに私はそのお兄さんの手を掴んで引き留めた。
その手は…お兄さんの真っ白い肌には似合わないくらい、暖かった。

「あはは、お兄さん、八神なんてありふれた名前を気にかけるなんて変わっとるなあ。これから夕食を作るんやけど、よかったら食べていかへんかな?」
「お前のような小さな子供が食事を作る?親はどうしている?」
「うん、私な、今よりももっと小さいころにお父さんもお母さんも亡くしてもうてな、今はお父さんの友達っちゅう人から助けてもろうて、一人で暮らしてるんや」
「その歳で…か。今までずっと一人で食事をしてきたわけだが、寂しくはなかったのか?」
「寂しくないといえば嘘になってしまうけど、仕方ないやんか。で、どうするんや?夕ご飯、食べていくんか?」
「ああ、ご馳走になろう」

そして私はそのお兄さんをキッチンまで案内して、夕食の準備に取り掛かったんやけど、如何せん一人分の材料しか買ってへんから、考えてた献立とは
違うものを作らざるを得なくなってしもうたな。そこで冷蔵庫の中身と相談して、急きょ献立を練り直した私が思い立ったメニューは、肉じゃがや。
他にも、肉じゃがと一緒にお味噌汁を作って、お魚を焼いたり、サラダを作ったりして、いつものようにバランスのとれた夕食の完成や。
そんで出来上がった食事をテーブルの方へと持っていこうとしたら、お兄さんが無言で私の手から料理を持っていき、テーブルに並べたんや。


「お兄さん、お客さんなんやからそのまま座っててええよ、私が全部やるから」
「気にするな。何故だかわからないがこうしなければいけない気がしただけだ」
「うふふ、ほんまに変わった人やなあお兄さん。ほんなら、手伝ってもらおかな。炊飯器からご飯をよそってもらえるかな」
「わかった。他には何をすればいい?」
「うん、それだけやってもらえればあとは食べるだけやから、もうええよ」

そんで準備も出来て、私たちは食事に箸を付けたんや。せやけど誰かとご飯を食べるんは、ほんま久しぶりやなあ…何せ前がいつだったか思い出せへんくらいやし。
それにしても…このお兄さん一体何者なんやろなあ、先も手伝ってもろうたし悪い人ではないのは確かなんやけど得体の知れないのも確かやし、
ここははっきりさせておきたいところやね。

「お兄さん、あなたは何者なんです?食事時にする話ちゃうっていうのはわかってるんやけど、どうしても気になってもうてな」
「別に気に病むことではない。知りたければ教えてやる。俺は、俺の仕えるべき主人を探している。悪いがそれ以外のことは教えられない」
「ううん、お兄さんにもいろいろ事情がありそうやし、私もそこまで深くは聞かへんよ。せやけど、その代わり一つ相談に乗って欲しいんや」
「俺では有用な助言は与えられないと思うが、それでもよければ話してみろ」
「うん、実はな…」

そんで私はセーターの袖を軽くめくって、昼間すずかちゃんに指摘されたアザをお兄さんに見せたんや。するとな、お兄さんの表情が一変したんや。
いや、無表情なのは相変わらずなんやけど、明らかに驚いた様子ってゆうたらええのかな、そんな感じや。するとな、そのお兄さんが言うたんや。

「まさかここで俺のマスターに巡り合うとは…俺のクラスはアサシン。俺の本当の名はまだ教えることはできないが、この聖杯戦争必ずお前を勝利に導くことを約束しよう」

マスター?クラス?アサシン?聖杯戦争?なんや訳のわからへん単語ばかり並べられてもうて、この状況を整理するためにも、一度説明してもろうたほうがよさそうやな。
そんで、お兄さんに話してもろうた大まかな流れがこれや。この冬木の地には聖杯っちゅうどんな願いも叶えられる宝物が眠っていて、
その聖杯は時が来ると7人の魔術師を選ぶんやそうや。聖杯に選ばれた魔術師は私のように手の甲に『令呪』ちゅうアザができて、これが
目の前のお兄さん、アサシンをはじめとするサーヴァントっちゅう過去や異世界から召喚された英霊を使役するためのもんなんやって。


そして魔術師たちはサーヴァントたちを戦わせ、最後の一人になるまでそれは続き、最後に残った魔術師がどんな願いも叶えられる聖杯を手に入れられる、
この戦いを『聖杯戦争』っちゅうんやそうや。せやけどなあ…

「私、別に叶えたい願いなんてあらへんよ。ただ、今までと同じように静かに平和に暮らせれば私はそれで満足なんや」
「本当にそう思うのか?聖杯を手に入れれば不自由なマスターの足も治せるというのに」
「聖杯を手にいれるには他のマスターやサーヴァントを全部倒さなきゃならないんやろ?そうまでしてこの足を治したいなんて思わへんよ」
「…マスターはそう思っていても、他のマスターも同じように思っているとは限らない。他人を害しても叶えたい願いというのはあるものだ。ならば」
「そんなマスターたちから、人々を守るために戦うというのも一つの在り方ではないだろうか?」

お兄さんのさっきの話には続きがおうてな、霊体であるサーヴァントに人の魂を食べさせることでサーヴァントを更に強くすることができるんやそうや。
つまり、自分のサーヴァントを強くするために、何の罪もない人々を襲うマスターが現れてもおかしくないっちゅうことや。
…そんなの、私は耐えられへん。聖杯なんていうまやかしもんのために多くの人々が傷つくなんてこと、あっていいはずがない。
ならば、私の進む道は一つだけや。

「せやね、聖杯を求めるだけが聖杯戦争やない。罪もない人が犠牲にならないためにも、私はこの戦いに参加する必要があるんやろうね」
「それでこそ俺のマスターだ。こうして考えてみると、聖杯はマスターのような優しい心の持ち主も必要と考えてマスターを選んだのかもな」

これから私とアサシンの向かう戦いはきっと厳しいものになるやろう。せやけど、アサシンと一緒なら大丈夫。そんな気がするんや。
ほな、いこか。アサシン。
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