(やはりガセか…)

珍しく仕事がなく、白蓮内久しぶりの休日となった今日。
皆が思い思いの休日を過ごしている中、
帆希は護衛の瑪瑙と共に廃墟ビルに来ていた。
理由は今朝早くにかかってきた、彼の親―白卿からの電話だった。

『案件の真偽を確かめてきて欲しい。人手が足りなくてな…』

案件というのは、黒蝶の情報を指す。
目撃証言など、あらゆる所から情報は来るのだが、
そのほとんどはガセか、すでにいなくなった後だったりする。
通常は能力者が行く前に、
官と呼ばれる、能力者ではない白使が下見に行くのである。

(『人手が足りない』って…だいたい、卿には官がたくさんいるんだ。
僕がこんな事をする意味はあるのか…。まあ、現場に来ておくのも悪くないか…)
一人ごこちて、少し離れた場所にいた瑪瑙を呼ぶ。
「瑪瑙」
「はい」
「調査は終了。ガセ決定だ。帰ろう」
「分かりました」

瞬時に移動するような能力は帆希にはない。
よって、徒歩で帰る事になる。
瑪瑙は報告の為、一足先に帰った。
特にやる事もなかったので、その辺りにある店を横目で見ながら素通りする。





歩き始めて、何分経っただろうか。
ずっとある事が気になっていた。
(つけられてる…)
廃墟ビルを出た時から同じ足音がする。
距離は約10メートル。
(闇也か…?)
とりあえず、ここで戦うわけにもいかないので、
聴力を頼りに人工音のない方へ向かった。

人気の無い小さな林に入った。
(こういう所で少しでも隙を見せれば、姿を現すはず)
脇に忍ばせた愛銃-紅嵐(コウラン)-の位置を確かめ、
いつでも打てるようにしておいた。
疲れを休めるように、近くにあった大木に寄りかかる。
一息ついた所に、入ってくる会話。

『やはり、間違いない様だ』
『ここで殺ってしまえば、臨時ボーナスが貰えるだろうな』
『幸い、奴は気付いていない様だ。不意打ちなら怖くない。よし、行くぞ』

(仲間が潜んでいたか。会話全部聞こえてるし、気付いてる。数は…5?意外に多いな…)
意識を集中させ、だんだん近づいてくる足音に紅嵐を構える。
「来た」
まずは後ろに2発。続いて横に1発。
悲鳴が聞こえるが、命まで奪うような打ち方はしていないので放って置く。
(あと2人…何処だ?)
足音も聞こえず、何の音もしない。
不思議に思ったが、急にした気配に瞬時に反応する。
「上か!」
咄嗟に上に向かって2発。
1発は当てたが、もう1発は避けられた。

相手の銃撃を躱し、此方も撃つが、うまく避けられる。
その繰り返しをしながら、木々の間を走りぬけた。
ただ逃げ惑うだけに見えるが、帆希には秘策があった。
(聞こえてる。もう少し…)
その時、相手が急に帆希の前へ飛び出てきた。
驚き、発砲するものの、当たらず。
安々と額に銃を当てられた。

「銃を置け」
言われた通りに、紅嵐を地面へ落とす。
「聞き分けが良いじゃないか。白卿の教育も捨てたものではないな」
ニヤッと勝者の笑みを浮かべ、囁いた。
「恨むなら白卿に拾われた事を恨め。お前はここで終わりだ」
と、それまでおとなしく聞いていた帆希が口を開く。
「終わり?その言葉、そっくりそのまま返す」
「なにを…ぐっ」
相手の背中には深々とナイフが突き刺さっている。
「僕があんなにやたらと発砲した理由にも気付いていなかったか…」
相手にはもう聞こえていないだろうが、言っておいた。
帆希の視線の先には瑪瑙が静かに立っており、軽く会釈をした。


「私が共にいればこんな事には…。すみません」
「瑪瑙のせいじゃない。気にするな。それより、なぜここに?」
「帆希様を呼びに来たのです。緊急で話しがあると」
「卿が帰ってきているのか?」
「はい」
「…わかった。すぐ帰るぞ」
最終更新:2006年11月23日 00:03