燐、帆希、そして白卿…
あの森から戻っても、ローティスはずっとそればかりを考えていた。
不思議な森は、自分に過去を思い出させた。
そして、過去の自分を取り戻させたのだ。
「ちょっと嫌な感じですね…」
独り言を呟きながら椅子に座っても、まだ考えから抜け出せない。
そもそも、自分がここに来たのは何故だったかと考えて。
……突然、立ち上がった。

「今、何と?」
自分より上層の者に対面したローティスは、真剣な面持ちでもう一度言った。
「聞いて頂けるまで何度でも言いましょう。私は、今日を持って闇雲を去ります」
「何故だ!」
「…私はここにいるうちに麻痺してしまいました。
何故ここに来たのか、何故向こうを裏切ったのか。
それを忘れてしまったのです。
私は白蓮で通り名を持つ者。それを取り戻して思い出しました。
"ローティス"でなくなった私が、ここにいる価値はなくなったんです…」
「……そうか」
「はい。だからと言って、向こうに戻る気もありません。
見てみたいんです。中からではなく外から。
…いろいろご迷惑をお掛けしまして…」
「なら、自分の目で見つけてみると良い」
「え?」
「組織というのは、そこにいればそれに従わなければならない。
だから、私も形式上は君を止めなければならない。
だが、そういう者じゃないからね、君は。
君は一人になって何を見つけるのか…見てみたいと不覚にも思ってしまった。
ただ、これからは敵が多くなる。我等も君を野放しする事はしないだろう」
「…心得ております」
「行くと良い。君の抜けた穴は大きいが、どうにでもなる」
「今までありがとうございました」

特に誰にも別れは告げなかった。
建物を出て、一度だけ振り返る。
頭上の窓から知った顔が幾つか覗いているのが見えた。
少し笑った顔でエールを送って、ローティスはまた歩き出した。



end.
最終更新:2006年11月23日 00:39