135 :名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 20:20:18 ID:clvpcX2M0
デレーニャとはその3日後会うことになった。
Old Johnson's corner というパブである。
あのイギリス最初の辞書を作り上げた文士ジョンソンが行きつけであった・・・
と言われており、
ζ(゚ー゚*ζ「インスピレーションが湧くかも知れないわ」
というデレーニャのすすめでそこでおちあうことにした。
チューダー朝の建物の中、薄暗い店内にはくすんだような、甘い苦い香りが漂っている。
('A`)「や、やあ」
ζ(゚ー゚*ζ「おまたせ」
('A`)「い、いや、すいません」
ζ(゚ー゚*ζ「企画、通ったんだって?」
('A`)「ああ、あの会社とは縁を切って、君が言った線でやってみろって」
ζ(゚ー゚*ζ「きっと、うまくいくわ」
('A`)
ドクオは考える。彼女の自信は一体どこから来るのだろう、と。
普段、ドクオは行動的で活発な人間といると、自分の影が濃くなるようで惨めな気持ちになった。
.
136 :名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 20:21:45 ID:clvpcX2M0
でも彼女は違う。
ζ(゚ー゚*ζ
なんか自分を内側から温めてくれるようだった。
それは、異郷の地にいる故の寂しさからくる感傷なのかもしれないが・・・
('A`)
だからといって何をするわけでもないが。
彼女の親切に甘えるだけなのだが。
ζ(゚ー゚*ζ「・・・でね、私も編集者の方に話を持ちかけたら、面白い、ということになって。
Web版の方に枠をもらえることになったよ、3回」
ζ(゚ー゚*ζ「聞いてる?」
('A`;)「う、うん」
('A`)「俺に・・・できるかなあ」
137 :名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 20:23:13 ID:clvpcX2M0
ζ(゚ー゚*ζ「だから、一緒に考えよ。宣伝になるし、売り込みの時のアドバンテージにもなるわ」
('A`)「でもどういう記事にしよう。俺の話なんて、大して面白くはないし」
ζ(゚ー゚*ζ「そんなことないよ、うまくまとめればいいのよ」
('A`)「でもシベリアなんてなんもないよ、本当に」
ζ(゚ー゚*ζ「そう・・・?」
ζ(゚ー゚*ζ「でもそれも魅力の一つじゃない?」
('A`)「そうかなあ」
ζ(゚ー゚*ζ「そりゃ、住んでる側からしたら不便だけど、静けさを求めたり文明から離れたくて
旅行する人もいるんだから、都会は」
('A`)「なるほど」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃあここにあって、向こうに無いものあげてこう」
('A`)「雑踏」
ζ(゚ー゚*ζφ「ちょっとまって・・・いいよ」
138 :名も無きAAのようです:2013/03/06(水) 20:24:02 ID:clvpcX2M0
('A`)「渋滞」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「ネオンサイン」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「ゲロ」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「どこでも入るwi-fi」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「地下鉄」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「高いビル」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
139 :今日はここまでです。thx:2013/03/06(水) 20:24:56 ID:clvpcX2M0
('A`)「狭い空」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「駐禁」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「取締の婦警」
ζ(゚ー゚*ζφカキカキ
('A`)「・・・つまり」
('A`)「君」
ζ(゚、゜*ζ
.
145 :今日はここまでです。thx:2013/03/07(木) 21:18:43 ID:odZCi5EY0
なんて言えたらいいのだが。
言えたらいいのだが。
('A`)「・・・駐禁」
('A`)「つまり・・・駐禁」
やっぱ言えるわけがない。
ζ(゚ー゜*ζφカキカキ 「そんな繰り返して・・・よほど嫌な思い出だったのね、私が駐禁挙げたの」
('A゜)「いや!!!!」
('A゜)「いや!!!!!!!そんなことは決して!俺は・・・」
ζ(゚ー゜*ζ「?」
('A゜)ハッ
('A`)「い、いや・・・俺・・・駐禁大好きなんです、」
('A`)「あの、・・・国家権力に蹂躙されるのが」
ζ(゚ー゜*ζ「変な趣味、フフ」
ζ(゚ー゜*ζ「他は?」
146 :名も無きAAのようです:2013/03/07(木) 21:21:06 ID:odZCi5EY0
('A`)「その・・・」
俺はなんて間抜けな男だ・・・。ドクオは心底思った。
ζ(゚ー゚*ζ「あれっ、ビール空じゃん。またギネスでいいの?」
('A`)「あ・・・お願いします」
デレーニャはカウンターにオーダーしに席を立った。
オーダーついでに店員と言葉を交わす彼女。
その後姿をドクオは見ていた。
ζ(゚ー゚*ζ
('A`)「・・・・・・」
薄暗い店内。その中にカウンターの縁取りや、燭台や、ビールのコックが鈍く光っている。
でもそれと同じくらいに光って見える横顔。
ζ(゚ー゚*ζ
他の誰よりも綺麗だ。
.
147 :名も無きAAのようです:2013/03/07(木) 21:22:13 ID:odZCi5EY0
彼女の瞳に、心に映った俺はどんなだろうか。
ドクオは考えたくなかった。だけど、知りたかった。
言いたくはなかったが、伝えたかった。
そしてこんな事考えてる自分が気持ち悪かった。
でもどうしようもなかった。
ζ(゚ー゚*ζ「おまたせー」
('A`)「あ・・・ありがと」
ζ(゚ー゚*ζ「じゃ、続き考えよ」
('A`)「・・・え・・・と、あの、こういうのはどうかな」
('A`)「『君』とか」
ζ(゚、゜*ζ
('A`)「いや、・・・変かな・・・やめよう」
.
148 :名も無きAAのようです:2013/03/07(木) 21:23:19 ID:odZCi5EY0
ζ( 、*ζ「・・・いい」
ζ(゚ー゚*;ζ「すっごいいいよ!、なんか、ストーリーみたいなもの?が見える!」
('A`)「そ・・・そうかなあ」
ζ(゚ー゚*ζ「で、どうやって続くの?」
('A`)「『君・・・君が居なきゃどこだって同じだ』」
('A`)「『シベリアの広い空も、黙る針葉樹も、眠る凍土も、何を見たって一緒だ』」
ζ(゚ー゚*ζ「すごいすごい!で、続き!」
('A`)「いや・・・ただ、それだけ・・・」
('A`)「・・・本当に・・・」
ζ(゚ー゚*ζ「すごい!でもこれだけだと宣伝にならないから・・・」
ζ(゚ー゚*ζ「そうねえ・・・」
ζ(゚ー゚*ζφサラサラ 「そうだ」
149 :名も無きAAのようです:2013/03/07(木) 21:24:16 ID:odZCi5EY0
ζ(゚ー゚*ζ「できた!」
ζ(゚ー゚*ζ「シベリアには無い。雑踏が、渋滞が、ネオンサインが、」
ζ(゚ー゚*ζ「道端のゲロが、どこでも入るwi-fiが、地下鉄が、」
ζ(゚ー゚*ζ「高いビルが、狭い空が、駐禁が、」
ζ(゚ー゚*ζ「そして、君が」
('A`)
ζ(゚ー゚*ζ「君が居なきゃどこだって同じだ。どこに行っても同じだ」
ζ(゚ー゚*ζ「シベリアの広い空も、黙る針葉樹も、眠る凍土も、何を見たって一緒だ」
ζ(゚ー゚*ζ「だから」
ζ(゚ー゚*ζ「愛をなくしたら、シベリアに行こう」
('A`)
ζ(゚ー゚*ζ「どう?」
('A`)「すごく・・・好きだ」
155 :名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:06:29 ID:SMoNGfCE0
ζ(゚ー゚*ζ「私もそう思う!いいよこれ!」
('A`)
ζ(゚ー゚*ζ「何か付け加えることはある?」
('A`)「・・・ええと」
('A`)「そこで俺は」
('A゜)ハッ 「いや、ごめん・・・『そこで』」
('A`)「『・・・広い空に君の笑顔を溶かし』」
('A`)「『・・・針葉樹の木々の間に君の言葉を隠し』」
('A`)「『・・・凍土の奥深く、君の思い出をうずめよう』」
ζ( 、*ζ「・・・いい」
ζ(゚ー゚*;ζ「いいよ!とても!」
156 :名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:09:27 ID:SMoNGfCE0
('A`)
別に詩情があるわけでもなんでも無かった。
感じたままだった。
そしてほとんど疑いなく、この言葉のとおりになる。
ただ違うのは、「行く」のでは無く、「戻る」、ということ。
そして、「愛」などとは呼べない、ということ。
ζ(゚ー゚*ζ「ねぇ」
ζ(゚ー゚*ζ「ビールはもういい?スコッチでも頼もうか?」
('A`)「・・・なんでも・・・」
ζ(゚ー゚*ζ「どれにしよっかな・・・」
ζ(゚ー゚*ζ「あたし、ラフロイグ!」
('A`)「同じの・・・お願いします」
.
157 :名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:11:12 ID:SMoNGfCE0
デレーニャが再びオーダにカウンターに向かう。
ドクオはうつむいたまま、テーブルの木目を眺めていた。
ζ(゚ー゚*ζ「おまたせ。はい、あんたダブルの方」
('A`)「・・・どうも」
ζ(゚ー゚*ζ「結構、順調に行きそうじゃない?
あとこれに、あなたの名前と連絡先、シベリアの風景写真、
それにちょっとしたデータなんかを載せれば・・・」
夜9時を告げる時計の鐘がなった。
“ 'A`
「あっ」
゚、゜* ”
店内の照明は落とされた。
その代わりにマスターが燭台に一本一本明かりを灯していく。
これはジョンソン博士が行きつけだった頃からの名残らしい。
158 :名も無きAAのようです:2013/03/08(金) 21:12:15 ID:SMoNGfCE0
ロウソクの明かりがゆらゆらと二人を照らす。
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「でもさ」
::: ::A`)「うん・・・」
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「さっきの言葉、」
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「あんなこと、一生に一度でも言われて見たいな」
::: ::A゜)
こんな時口のうまい男だったら。
「今付き合ってる人はいないの?」
そう言うだろう。
言えるはずがない。
代わりに、彼女が言った。
159 :今日はここまでです。thx:2013/03/08(金) 21:13:58 ID:SMoNGfCE0
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「付き合った人、いるの?」
::: ::A゜)
::: ::A゜)
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「あ、気を悪くしたらごめん。・・・なんか、リアルだったから」
ζ(゚ー゚:*:: : ::::「?」
ζ(゚ー゚:*;:: : ::::「え、?どこいくの?・・・明日・・・早い?そう・・・」
ζ(゚ー゚:*;:: : ::::「明日もここね!続きあるから!」
ドクオは入り口近くで振り返った。顔は見えず、影だけがあった。
その晩は雨だった。
冬にもかかわらず生暖かい雨がドクオのフラットの窓を叩いた。
稲妻も2回鳴った。
******
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最終更新:2013年03月11日 06:28