313 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 16:56:39.36 発信元:110.67.103.208

 この、志辺(しべ)というのどかな村は、毎年こんな夏になると
鮎を食べに県外から客がやって来る。李亜橋(りあばし)の近くで
村人に「やなはどこですか」と尋ねたら、誰もが笑顔で答えてくれるだろう。

 現代らしい風景がなにひとつ見当たらない、自然にみちた村。
青々とした空や積乱雲が、どこまでも似合っている。


 ( ^ω^) ~♪

 さて今、鼻歌まじりの小太り青年が李亜橋を渡って
やな近くの雑貨屋へ向かっている。照りつける陽光に似合わない
肌の白さ。一目で分かる要領の悪さ、そうして根性の無さ。

 彼こそが本編の主人公、内藤ホライゾンという名の、志辺の
村人であった。二十二歳にもなって職についた試しがない。

 ご覧の通りのぷーたろう、いや、ニートである。




317 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 16:59:26.69 発信元:110.67.103.208

 いい気分で雑貨屋に入り、顔なじみの店主を見つけると
握っていた五百円玉を渡し、


 ( ^ω^)「いつものくれお!」

 (゚、゚トソン「はい、はい、ちょっと待ってね」

 すこし経つと、トソンおばあちゃんはイチゴシロップが
たんまりかかったかき氷を持ってきた。瑞々しいメロンの切り身が
刺さってい、頂きには練乳が乗っかったそのかき氷を、

 ( ^ω^)「はふっ! はむ、はむ!!」

 スプーンでぐちゃぐちゃにかき混ぜつつ一心不乱に貪った。

 (|| ゚ω゚)「 くぉー!」キーン

 (;^ω^)「はむ! はっふぅん!!」

 (^、^トソン


 ( ^ω^)「ごっそさぁんだお!!」 カラーン!

 五分足らずでそれを平らげると、メロンをしゃぶりしゃぶり、
皮にこびりついた甘味を余すところなく貪りはじめた。



318 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:02:13.81 発信元:110.67.103.208

 それにも飽きると、内藤はトソンに食器を下げさせ、
風鈴の音を聞いて涼みだした。


 ( ^ω^)~♪

 しかし読者諸君もご存知の通り、彼は生粋のニートで、
かき氷代も親からせしめるくらいなモノだから、風鈴の音で
わびさびを感じるほどの上等な立場でもなかった。

 しかしこの間抜け面は我々の常識など知らん顔で、お次は
三ツ矢サイダーを飲みだした。トソンおばあちゃんが戻ってきたときには、

 ( ^ω^)+ 「夏って……いいもんだお」

なんて吐かす。

 (^、^トソン「いや、ほんにだねえ」

 ( ^ω^)「これで台風が来なかったらいいんだけどNE」



321 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:06:47.22 発信元:110.67.103.208

 内藤とトソンが他愛のない世間話をしているが、いうまでもなく、
トソンは内藤が職についていないことを知っている。志辺は
小さい村なのだから、内藤家の長男の動向なんて、あっというまに
知れ渡る。若者の少ない村だから尚更だった。

 にも関わらず、トソンは内藤に「働け」とけしかけることもせず
(もともとそんな性格ではないのだが)、他の村民も、そういうことは
いわない。

 という実情には、ひとつの理由があった。

 ( ^ω^)「おばあちゃん、知ってるかお?」

 (゚、゚トソン「んー?」


 ( ^ω^)+「――英語がどうしてあんなにややこしいかってことお」


 英語。内藤は英語勉強の大義名分を持って、
自身の無職を正当化していた。

 (゚、゚トソン「んー、わっかんないねえ」

 ( ^ω^)「実はね、英語はNE……」


    •  ・・
    •  ・・・
    •  ・・・・



324 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:10:57.17 発信元:110.67.103.208

 内藤は生まれつきの怠け者だった。学生時代はテスト勉強も
ろくにせず、赤点をぎりぎり回避しきれない毎日に、
部活も入部二日で幽霊部員になるような奴だった。

 そんな彼だが、英語の成績だけは不思議と良かった。
唯一興味のもてた教科だったからなのか、たまたま成績が
良かったから興味を持ったのか、どちらかは不明だが、
ともかく英語の成績だけは、わるくなかった。

 高校卒業後、彼はすっぽりと収まるようにニートになった。
幼馴染で同級生の都出玲子には、呆れ顔で、

 ξ゚⊿゚)ξ「あんたって、どうしようもないわね……」

 ( ^ω^)~♪

 内藤は部屋にこもって、アニメを観たりネットに張り付いたりと、
典型みたいな生活を続けている。英語も勉強しないことはないのだが、
だいたいは知的好奇心をちょっとくすぐるような、他愛のない
英語のトリビアみたいなものをかき集めているだけだった。

 勉強者なのにニートと表記される理由はそれで、彼の生活の
殆どは、勉学と関係ないものだからである。


325 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:15:05.49 発信元:110.67.103.208

 内藤は、あるいは人を騙す才能があるのかも知れない。
最初は「働け」とけしかける大人たちも大勢いたが、
彼はそのたびに、

 ( ^ω^)「なんでgoの過去形がwentなのかというとNE……」

 と、付け焼刃の英語知識をこれみよがしに披露しはじめるのだ。
彼の語り口はきみょうに知的で、大人たちがぽかんとするなか、


 ( ^ω^)「僕は英語を勉強してるんだお。
        英語は難しいんだお?
        みんな知ってる通り、とっても大変だお。
        僕は今、頑張ってるんだお~?」


 いつしか、内藤を責める者は少なくなった。もともと
人あたりのいい奴だったから、生まれつきご老人方には好評だったが、
ともあれ彼は怠ける大義名分を得たのであった。……



328 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:20:33.48 発信元:110.67.103.208

 時は過ぎて、夕方。トソンおばあちゃんのところから一旦帰って
内藤はアニメを暫らく鑑賞したのち、日課の散歩をしていた。
李亜橋の上から、夕日に照らされた川を眺めている。

 鮎がどこかで跳ねていないかな。ああ、水が綺麗だ。
そんなことを内藤は考えていたに違いない。
しかし、その思考は、向かいからやって来る知人に阻まれた。

 ξ゚⊿゚)ξ「なにを見てんのよ」

 ( ^ω^)「おっお。ツンかお」

 さきの文でちらりと紹介したが、彼女は都出玲子という
内藤の幼馴染で、今は村役場に勤めている。内藤とは
産湯に浸かった頃からの仲だったが、成長するにつれて
彼のどうしようもなく怠けた性分に嫌気が差したのか、
さいきんはめっきり顔を合わせない。これは久しぶりの再開だったが、
玲子は挨拶も抜きで、

 ξ゚⊿゚)ξ「あんた、まだニートなんてしてるの?」

 (;^ω^)「む! 僕は勉強中だからニートじゃないお!」

 ξ゚⊿゚)ξ「はい、はい」

 そして彼女は、内藤の実態を知るほぼ唯一の村民であった。                  



329 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:24:39.51 発信元:110.67.103.208

 ξ-⊿-)ξ「おばさんがどんな思いであなたにご飯食べさせてるか……」

 (;^ω^)「な! 人の台所事情に首を突っ込むなお!」

 ξ゚⊿゚)ξ「そんな仕事ナシのあなたに朗報があるの」

 妙にくたびれた眼差しで、玲子は続けて、

 ξ゚⊿゚)ξ「英語通のアナタなら、サスガって映画監督知ってる?」

 ( ^ω^)「? 知らんお」

 ξ゚⊿゚)ξ「兄弟で監督してる、アメリカ人……。そんなに有名じゃないけどね、
       独特の作風で、少数派のファンが根付きはじめてる……
       アタシも、そんな一人」

 ( ^ω^)「へー、代表作はなんだお?」

 ξ゚⊿゚)ξ「それになりうるモノが、ここで撮られる、」


 ξ゚⊿゚)ξ「……かも知れない」

 ( ^ω^)「ふーん……え!? ここ? 志辺で?!」



331 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:29:49.01 発信元:110.67.103.208

 玲子によると、そのサスガ兄弟の新作映画が、日本の田舎を
舞台にしたものらしい。そのロケ地の候補として、志辺が選ばれたのだそうだ。

 ξ゚⊿゚)ξ「役場の企画係として、なんとしてもここでロケしてほしいの。
       ……ファンとしてもね」

 ( ^ω^)「そりゃ、凄い話だお」

 ξ゚⊿゚)ξ「で、まずは視察に映画のディレクターさんが数人来て、
       いろいろ見て回るんだって。絶対に誘致したいの」

 ( ^ω^)「がんばってくれお」

 ξ゚⊿゚)ξ「でも、役場に英語出来る人はいないの。私も
       参考書の英文くらいしかわからないしね」

 ( ^ω^)「はっはっは。勉強してないからそうなる」

 ξ゚⊿゚)ξ イラッ

 ( ^ω^)「でも、通訳が居るんじゃないかお?」

 ξ゚⊿゚)ξ「今回の視察には居ないそうなのよ。それに、
       あっちに日本語出来る人は居ない。
       映画のアドバイザーを、ロケ地で選ぶらしくて」



333 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:32:34.65 発信元:110.67.103.208

 ξ゚⊿゚)ξ「で、役場の会議で、じゃあ英語出来る人に任せようって」

 ( ^ω^)「おっお。英語の猛特訓でもするのかお~?」


 ξ゚⊿゚)ξ「……ハァ」

 溜息。

 ξ゚⊿゚)ξ「何を言ってるの?」

 ( ^ω^)「お?」

 ξ゚⊿゚)ξ「私が何言いたいか分かってないでしょ?」


 ( ^ω^)?

 ξ゚⊿゚)ξ「仕事ナシのあなたに、視察団の通訳という大役を
       任せるということで、話がまとまったの……」

 (;^ω^)「え、ええええ~~~!!!??」



335 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:36:04.82 発信元:110.67.103.208

 (;^ω^)「そんなこと言われても困るお! つーか忙しいし!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「暇人なのはとっくにご存知よ!! 私だって反対したわ!
       でもね、でもね、みんなアナタを高く買っちゃってるの!」

 (;^ω^)「うっそーん……」

    •  ・・・・・
    •  ・・・・
    •  ・・・

 ――役場。会議中。

 ξ;゚⊿゚)ξ「私は反対です! はっきり言って、アイツに
       そんな大役務まるわけありません! 無理です!」

 ('A`)「おいおい、幼馴染を過小評価しちゃ~イカン! イカンよ!」

 ( ´∀`)「欝田課長の言う通りだモナ、津田くん」

 ( ´∀`)「あの子の英語力は素晴らしいモナ。きっと、
        最高の仕事をしてくれるはずだモナ」

 ('A`)「うん、その通り。ンあの子は~~~スゴイ!!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「……私は、そうとは思えません」



336 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:41:25.91 発信元:110.67.103.208

 ξ゚⊿゚)ξ「皆さんは、実際に内藤ホライゾンが英語を
       喋ってるのを聞いたことがありますか? 英語を
       聞き取る様子を見たことは? ありませんよね?」

 ξ゚⊿゚)ξ「……ただの引きこもりに、通訳は任せられませんよ」

 (´・ω・`)「私も、津田さんに賛成です。イヤ、内藤くんを疑うわけじゃ
       ありませんが、普通に通訳を雇うのが安牌でしょう」

 しかし、会議はその方向へ進まなかった。

 ('A`)「わかってない! アーわかってない! 君たちは!」

 ('A`)「いいかね!? 視察団に、我々が伝えることはだね、
     この志辺村がどんだけいい場所かってことなんだよ!
     適当に雇った通訳ナンゾに、出来るもんかそんなこと!」

 ( ´∀`)「村のよさを知る者にしか、任せられないモナァ!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「私達の熱意を翻訳してもらうだけですよ!」

 ('A`)「いーや、魂がこもらん! ン~魂が!!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「(なんじゃそらァー!?)」




344 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:55:32.88 発信元:110.67.103.208

    •  ・・・
    •  ・・・・
    •  ・・・・・

 場面は戻って、

 ξ゚⊿゚)ξ「……明日には、正式にアンタへ依頼が来ると思う」

 ξ゚⊿゚)ξ「視察団のための通訳、案内役をね」

 (;゚ω゚)「無理無理無理! 絶対にお断りだお!!」

 ξ゚⊿゚)ξ「断れる立場なの? おばさんがそれを許すと思う?」

 (;゚ω゚)「………」

 たしかに、これを断れば、内藤の大義名分が崩れてしまう。
そうなれば内藤はこの優雅な生活とオサラバしなければならない。

 ξ゚⊿゚)ξ「……アンタには、どうしてもやってもらなきゃいけない。
       サスガ監督の映画が此処で撮られるんだもの。
       なにがあっても成功させたいの」

 ξ゚⊿゚)ξ「私も出来る限りはサポートするわ。勉強もする。
       とりあえず、視察さえやり遂げればいいの。
       ロケ地が決まれば、サスガ側が通訳を雇うだろうし」

 ξ゚⊿゚)ξ「だから……頑張りま・しょ」



347 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 17:59:50.96 発信元:110.67.103.208

 (;゚ω゚)「……ふ……ふ……」

 ξ゚⊿゚)ξ「え?」

 (;゚ω゚)「ふぁーっく! ふぁーーっく! ふぁああああっく!!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「あ、コラまちなさい!!!」

 夕日に向かって駆け出す内藤。しかしあっけなく、
玲子に取り押さえられてしまうのだった。……

 さっそくその夜から、英語の猛特訓が始まった。
内藤の部屋で、サスガ兄弟の過去作品を英字幕のみで見続ける。
視察団がやって来るのは一ヶ月後。それまでに、ある程度は
こなせるようになる必要がある。


 ξ゚⊿゚)ξ「この"mind riding bitch" って、どういう意味?」

 (;^ω^)「b, bitchは売女で、mind+ingは……」

 ξ;゚⊿゚)ξ「この場面でなんでビッチを使うの……? わけわかんない」




349 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 18:01:42.19 発信元:110.67.103.208

 ξ;゚⊿゚)ξ「また出た! なにこれ! "I seen you was from..."って」

 ξ;゚⊿゚)ξ「学校英語じゃ許されないでしょこんな文!!」

 (;^ω^)「ス、スラングだおきっと……」

 ξ゚⊿゚)ξ「……わかる? スラング」

 (;^ω^)「……fuck」ボソッ

 ξ#゚⊿゚)ξ イラ


 ( ^ω^)「つか、この映画むちゃオモロイおー」

 ξ*゚⊿゚)ξ「で、でしょ!? 私も最高傑作だと思うのよね!
       サスガ兄弟の乾いた作風が全面に出ててさ……

 ξ゚⊿゚)ξ「って……

 ξ#゚⊿゚)ξ「なに日本語字幕に変えてんのー!!!」


350 :(;^ω^) ふぁっくど・あっぷ! のようです:2013/09/15(日) 18:04:21.91 発信元:110.67.103.208

    •  ・・
    •  ・・・
    •  ・・・・


 英語教本を買いあさり、リスニングを映画で補う。
しかし肝心のスピーキングがどうしようもない。

 ξ゚⊿゚)ξ「My name is Reiko Tsude'... ...」

 (;^ω^)「OH! yeah yeah yeah!」

 ξ;゚⊿゚)ξ「P,please call me ツ、ツ、ツン……」

 役場のお偉いさんは通訳の全てをこの二人に押し付けた。
助けは求められない。こんな調子で、果たしてどうにかなるのか。



 運命の日は、ついに一週間まで迫った。

(第一話 終)

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最終更新:2013年09月20日 00:54