418 :ぽち:2012/06/13(水) 10:11:18

はい投下いっちゃいますよーん



憂鬱西南戦争  第二話

彼は戸惑っていた。
自分と仲間たちは手柄を立てたのだ。
事実桐野どんや辺見どんはわが事のように喜んでくれた。
なのになぜ野村どんや宮崎やらいう他所モンはしかめっ面しているのだろう

「もう一度おンしに聞こう。最初っから全部言うてみてくれ」

野村どんがそういうなら・・・・・・・・
まず始まりは10月のことじゃった。
鹿児島にある砲兵属廠が一ヶ月ほど休むちゅうことじゃった。
以前からこの工廠は生産した生産した弾を密かに運び出そうと東京が企んどるちゅう噂が流れとったで気にしとりました。
あの工廠は薩摩のモンでありそこで作られたモンは当然薩摩氏族である我等が使うンが道理っちゅうもんじゃ。

「・・・・・・あの工廠は東京の政府が管理下においとるちゅうんは知らんかったか?」

そげなモン関係なか。島津の金で作って鹿児島にあるモンなら薩摩のモンじゃ
で、三週間ほど東京から来た職員がやたら出入りするだけなんを我等は見張っとった。
ところが昨日の朝、工場の門の前に大量のビラが置いてあったで見てみると「明日(つまりは今夜のごたる)の夜工廠の弾薬全てを運び出し
大阪に持ってくちゅうて書いてある。
一応聞いてみたら今朝ンなって役所にも通達が行っとるそうな。

冗談じゃなかと
あそこにある弾は東京の連中をツブすためにあるんごたる。
そいで我等は仲間集めて工廠襲った。
そいたらそこには以前から金とか色々チョロまかすチンピラが金庫あさっとったでそいつを斬って
倉庫に向かって、収められた弾一万二千発ほどを手に入れもした。

「うまくやりもしたな!」辺見十郎太が喜色満面で彼をほめる。
だが野村忍介は真っ青な顔をしていた。
「おんしは近隣回って兵児(武士)らを集めてきやり」

かろうじてそんな言葉を搾り出す。
「もう先延ばしもナンも出来ん」

419 :ぽち:2012/06/13(水) 10:14:33


「野村どん、何故におんしはそがいに青い顔しとっとか」
勇気?を振り絞って辺見が問う。
「俺らが東京の振り付け通りに踊っとるんが判ったからじゃ」
「おそらくかなり以前から工廠は製造数を減らしとった。そいで出勤だ退出だと
 職員が工廠から出るたびに少しづつ製造した銃弾を持ち出してどっかに隠した。
 俺らもすぐ近くに工廠があるから、と決起を先延ばしにしとったとじゃ」
うんうん、と周囲が同意する。
「つまり、俺等はそうやって餌を眼前に置かれとったんで不平不満を愚痴りながらもおとなしくしとった、東京の連中の目論見どおりに。
 そいでおそらく東京は俺らを打ち倒す準備が整った(多分熊本城の改築終わったんやろな)とみるや
 工廠の閉鎖と弾丸の持ち出しを発表。
 薩摩の金で作ろうが鹿児島にあろうが東京の政府が一度摂取を内外に発表した以上あの工廠はもう東京のもの。
 そいを襲って銃弾奪った挙句チンピラだろうが職員を斬った以上、我等はもうただの盗賊になってしもた」
「我等誇り高き薩摩武士がただの盗賊!?」
「へたすると『錦の御旗』掲げて攻めてくっぞ。そん時我等は御旗に向けて銃を撃てっとか?」
ごくり  誰かが唾を飲み込む。
その後を望月六郎が継ぐ。
「東京はたった一万二千発の銃弾をわざわざ残しておくことで我々を言い訳しようがないただの盗賊へと貶めることに成功したのです。
 ついでに言うと残ってた素行の悪いチンピラはわざわざ『そういうの』を選んで雇ってたんでしょうな。
 その男を我等が捕らえればよし(おそらく間違った情報を教え込まれてたでしょう)斬ったなら
 我等はもう盗賊どころか押し込み強盗でしかありません」

ようやくある程度理解し、顔色が悪くなっていく薩摩軍幹部たち。
「とにかく、我等は周辺の地形やその他を確認しにいってきもす
 我等が戻るまで兵を集め準備するだけで決して出立することまかりならん!」
「絶対ですからね!」
「絶対の絶対の絶対の絶対に出兵は我等が戻ってきてからじゃ!
 もしやむを得ず出兵するに至った場合は脇目も振らずひたすらまっすぐに下関を目指すっとたい!」
後の研究で彼ら二人は熊本城を避けて避けて下関を目指し、途中で方向転換して長崎を襲って船を奪い
一気に東京を突く、と言う戦略を考えていたものと思われる。
杜撰で行き当たりばったりだがここまで東京の戦略(恐らくは大村益次郎の案)に踊らされている以上
これほどの事をやらねば逆転は不可能と判断したらしい。

そんな言葉を残して十名にも満たぬ手勢を引き連れ周辺を確認した野村忍介と望月六郎。
十日ほどして鹿児島に戻った彼らが見たものは、薩摩軍が文字通り全軍を挙げて出立し留守居すら残さず空っぽにした鹿児島と
彼らが自分らの指示を無視して熊本城に向かっていると言う情報だった。

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最終更新:2012年06月17日 07:51