156 :ぽち:2012/07/11(水) 05:27:45

憂鬱西南戦争   第五話


「どりゃああああああ!」
「きえええええええい!」

今日も今日とて「猿のごとく」と称された叫びを上げて薩摩武士たちが熊本城に向かって突撃を行っている ・・・・・・突撃するだけだが

「桐野どん!弾幕が激しくて熊本城に近づけん!百姓ばらの撃ってくる大砲の弾が途中で破裂して鉄の欠片とかばら撒いて危ないんじゃ」
(大砲が炸裂弾を使用するようになったのは極々最近)
「これまでは一生懸命城に駆け向かっとったんじゃな!なら今日からは全力で城に駆け向かうとじゃ!」
「おお!さすがは桐野どん!」

「桐野どん!全力で城に駆け向かったんじゃがやっぱ弾幕が激しくて近づけん!」
「ほいたらこれからは死に物狂いで城に駆け向かうとじゃ!」
「おお!さすがは桐野どん!」

「桐野どん!死に物狂いで城に駆け向かったんじゃがあの鉄の茨、鉄条網ってのか?あれに阻まれて城に近づけん!」
「ほいたらこれからは命がけで城に駆け向かうとじゃ!あと鉄条網は、そうじゃ!隣に倒れとる死体を被せれば簡単に超えられるとじゃ!」
「おお!さすがは桐野どん!」

「あー、桐野どん、ちくとええか?」



「くかー  がー  くかー がー」
「忍介どん、忍介どん、起きてくなっせ」
「・・・・・・・・なんじゃ、おんしか」
「ちっと話があっとじゃ」
「おいはなか 寝取るで邪魔せんでくれ」
「相談したいことがあるとじゃ」
「おいはなか おんしは熊本城をほんの一手間で落とせるいうたじゃ
 おいの出番はその後
 おんしの相談とやらは城を落としてからの話じゃ」
「東京の連中が差し向けてきた軍があともう三日くらいでやってくっとじゃ!
 このままじゃ城と軍とに挟み撃ちにされてしうとじゃ!
 なんぞおんしの知恵を貸してくれ!」
「おいは最初からそうなるち言うとったはずじゃ  聞いとらんとは言わせん
 じゃっどんその忠告を聞き入れんかったんはおんしじゃ
 こうなったんは陸軍少将桐野利秋!おんしが望み!おんしが選んだ結果じゃ!
 おいに話ば聞いてもらいたければはよ城落とすこつじゃ」

157 :ぽち:2012/07/11(水) 05:30:36

「ふははははは!とことん馬鹿だったってか!」
「はい 『豎子、ともに謀るに足らず』(馬鹿味方につけるとヒドい目にあうよ)と申しますがあれは誠ですな
 ところで志々雄さま、随分とご機嫌がよろしそうですが」
「ああ、この報告書が面白くて、な」
「それのどの部分がですかな」
「ここだ 『熊本城には多くの医師が駐在しており漢方西洋それぞれの医師が協力し合っている』」
「ふむ、さして志々雄さまの気を引く内容とも思えませぬが」
「まあ理由があってな 由美、以前俺が言ったこの戦を起こす理由を覚えているか?」
「たしか『心の底から会いたい、会って殺し合いたいアイツと、そしてもう一人へと向けた篝火』と仰ってましたっけ」
「『殺し合いたいアイツ』というのは人斬り抜刀斎ですな」
「ああ、もう一人にかかわる話だ  ほわんほわんほわーん」
「・・・・・・なんですか?それ」
「ああ、言うならば『回想しーん』への効果音だ」
「また訳のわからぬことを」


あの日、俺は勤皇派の闇討ちに合い全身大火傷を負って谷底に突き落とされた。
こんなところで死ぬかってちぃとばっか無念ではあったが、目が覚めるとどっかの庵みてぇな所に俺はいた。
全身の傷が治療された状態でな。
「ワシの配下の医師によると初期治療が完璧だったそうで
 最初にこれほどの手当てがされてなければ志々雄さまは今も寝床から動けない状態だとか」

ああ、で、目ェ覚ました俺が最初に見たのは六尺はあろうかって大男だった 妙なヒゲはやした、な
そいつぁ医者を自称してて俺を手当てしたのもそいつらしい
しばらくはおとなしくしてたんだがな、ある日そいつぁ言いやがった。
「あなたは、いわゆる『人斬り』ですね」とな
「わたしは医師です どんなに身分の高い人でも床屋と仕立て屋と医師には自分を委ねねばなりません
 それ故医師にはその人の『本来』、そして『プライバシー』いわゆる他人に知られたくない個人的な内容を秘匿する義務が生じます
 ですからあなたがどのような立場で、これまで何をしてこようとも聞く気はないし秘密は守ります」
この言葉を聴いて、柄にもなく悪戯心出しちまった俺はそいつに言ってみたんだ
回復した俺が人を殺しまくるとしたらどうする?医者としちゃこの場で俺を殺したほうがいいんじゃねぇか?ってな
そしたらそいつ激怒してな
「わたしは医者です!たとえあなたが極悪人であろうと、わたしは自分の患者を救い助け、癒すことに全力を尽くします!そのような事二度といわないでください!」
だってよ
「そしてもしあなたが人を殺すのならその分わたしは人を助けましょう
 あなたが目に見える人全てを殺そうというのならわたしは目に見える人全てを癒して見せます!
 そして同じ志を持っている人にわたしの医学を教えましょう
 わたしと同じ医術を持つ人が一人いれば倍の人を救えます
 二人いれば救える数は三倍になるでしょう
 そして人を救うという行いに東洋も西洋もないのですから漢方も西洋医学も全ての医師が手を取り合い人を救う
 そんな環境をこの日本に作り出す、それがわたしの夢であり使命なのです
 きっとそのためにわたしはこの時代、もといこの地に来たのだと思います」
それを聞いた時、俺は『負けた』と思った。
この戦も正直そいつへの敗北感を拭い去るために起こしたみてぇなモンだ
その敗北感はいまだに拭えてねぇんだ
だから篝火を炊いて俺はここにいるぞ、元気だぞってあいつに告げたいんだ
「その医師の名は?」
「仁、南方仁だ そしてそいつがその後立ち上げた病院とやらの名は『仁友堂』」
「そこに所属する医師が、いまあの城にいるのですな」
「ああ、あいつはおれを殺さず、武器を使わずおれに戦いを挑んでるのさ・・・・・・・・大したやつだよ、まったく」

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最終更新:2012年07月22日 15:13