767 :ぽち:2012/09/28(金) 23:32:45
迫り来る過去
♪「らんらるんららーん きょーおっもきかいっをいっじれっるのーは おおがみはんのっ おっかげーですー
ってもうウチも大神やったわ 『大神 紅蘭』 きゃはっ 照れるわー」
場所は東京、秋葉原
まもなく戦争も終わろうとしている(しかも日本が『あの』アメリカを屈服させようとしている)状況において国内は
それなりに落ち着きを見せていた。
繁栄とまではいかないにしろ食料はかろうじてぎりぎりようやっとなんとか配給制にならずにすんでいた。
そんな中、旧姓李紅蘭、現在大神紅蘭は軍の技術顧問の職についており研究者と開発者と技術者と製造者と整備士全ての痛みと哀しみを
知る者として大変重宝されていた。
どのくらい重宝されているかというと少なからぬ額の予算を私的流用する事を許されているほどであり
そして彼女はその私的流用部分を研究と開発、そして同僚への差し入れにつぎ込むという始末。
そしてその能力と気遣いにまた周囲からの評価が高くなるという悪?循環。
中には
「紅蘭さん、好きです!」「眼鏡がいい!いやむしろ眼鏡が本体!」「貧乳って素敵だよね」(アイリスを除けば初期花組最貧)
などといった勘違い連中も湧くのだがその全てを丁寧に、穏やかに、しかし勘違いのしようも無いほどきっぱりと「ごめんなさい」していた。
そんな彼女の目に入ったのは、道の両端を占拠する大量の浮浪者と乞食たち。
「ウチも人事やあらへん 日本が負けとったら今頃あんな風に乞食するかパンパンになってアメリカ兵の服の裾引っ張っとったんやろうな」
そんな風に考えていた彼女の裾を引っ張る腕があった。
「そこの若奥さマ、かゾくをやしなわといかんです おなsaけを」
一人の老女が、ぼろぼろの布をまとって彼女に縋ってきたのだ。
「あー、カンベンしてんか」
そのイントネーションの怪しい日本語から関わってはならない相手と判断した香蘭はそそくさと逃げようとするが・・・・・
『ああ!紅蘭じゃないか!』
「へ?・・・・・・・『お、お母さん!』
ここは彼女の「隠れ家」的な食堂。
けして広くは無いその店は、今十一人もの客を迎えていた。
(てんちょー)(とりあえずツケときます)(おおきに)
『はぐはぐはぐはぐ・・・・・香蘭、こんなところであんたに会えてよかったよ』
『はあ』
『旦那さんは何してるんだい?』
『海軍で軍人をやっています』
キュピーン
(まずった?)
確かに彼女は李紅蘭を生んだ母親であり、周囲にいるのはその一族なのは間違いないのだろう・・・・・多分
しかしまさか・・・・・・・
『ねえ紅蘭、あんたと旦那はどのあたりに住んでるんだい?どの程度の地位?』
『お母さん、はじめに言っておきますけど』
故郷で百姓をしていたときから、彼女に愛を注がれた覚えは無い 全く無い 詳しくは小説「サクラ大戦前夜」参照
『日本では出世した者に一族を引き立てる風習はありません むしろ顰蹙買います』
『なんだって?なんて非常識な?!』
『中国ではともかく日本、特に最近の日本ではコネや紹介の類で職を得たものは普通に得たものの数倍の能力と成果を要求されます。
それくらいやらないと中国、そして美国相手に戦争など出来ないのです!
そして優秀な人材は常にあらゆる場所で求められていますが』
『ならウチの息子たちを優秀、と紹介してくれればいいじゃないか!入ってしまえば何とでもなる』
『少なくとも日本語の読み書きが出来ない人を紹介などできません』
『あんたはあたしらを見捨てる気なのかい?あれだけ世話してやったあたしらを・・・・・・』
あなたに世話された覚えも愛された覚えも無い!
そう口に出来たらどれほど楽だろうか
しかし・・・・・・・しかし・・・・・・しかし自分を引き取り救ってくれた命の恩人なのは確かなのだ
768 :ぽち:2012/09/28(金) 23:46:20
『・・・・・・・・・・・・・・・大体、何で今あなたがここにいるんです?』
長い長い沈黙の末、必死で言葉を搾り出す。
『今日本は戦争中ということもあり美国人と中国人の入国には殊のほか気を使っています
お母さん、あなたがここにいられるはずが無いんです・・・・・・・』
『奴隷売買や麻薬密輸につながるため密入国は大罪です』
満腹になった一同が店の外に出る。
食い尽くされてしまったので背後で店長が暖簾をしまっているようだ。
もう少し離れたら塩を巻かれることだろう。
『みんなのことは入国管理局には内緒にしておきます。密入国者に関わったなんて知られたら一家そろって失業ですから』
手持ちの金を、電車代を残して全て母に渡す。
『これが私に出来る精一杯のことです 可能なら一刻も早く出国してください』
小走りに去る紅蘭。
『ありゃあ旦那はかなり階級高いね』
『そうなのかい?』
『ああ、ちょっとしたスキャンダルが地位争いの致命傷になっちまうくらいのさね ・・・・・・たとえば妻の親族が密入国者だ、とかね
息子よ、すぐあの恩知らずを尾行しておいで』
『家を見つけるんだね』
『ああ、そして旦那に全員保護してもらって食費をそりゃあもうたっぷりと支払ってもらうのさ
失敗しても赤煉瓦とやらのあたりで”中国人を嫁にしてる軍人っていませんか”とでも聞けばすぐ分かるだろうさ
今この国は中国人を嫌ってるようだからすぐ特定できるさね
どうせわが中国から略奪した金でなりあがった国、あたしらだけでも取り替えそうじゃないか』
『『『『『『へっへっへっへ』』』』』』
十日後
「どうしたんだい、紅蘭」
「なんでもあらへん」
『あの後一族の誰かが後をつけてきてるのかもしれないから撒くために寄り道しまくったし
本当に探してるならそろそろ来てもおかしくないはず
それがいまだに影も形も見えないってことは・・・・・・あきらめてくれたんだ』
769 :ぽち:2012/09/28(金) 23:47:41
報告書88976542号
司法省近辺で怪しげな一行を発見 全員鹵獲
取調べの結果大神一郎大佐の妻(のひとり)李紅蘭の中国での親族と判明
この辺独身な報告書作成者のものとおもわれる血涙で書類が汚れている
全員が密入航者でもあり人権への配慮は無用、との上層部からの指示あり
李紅蘭の親族という事で霊力研究に関わる実験を一切の遠慮無しで実行
全員霊力という点ではブザマなまでに無能と判定
霊力の類が遺伝するのはほぼ確実となっている以上、さらなる伝達条件確定のための
実験を必要としている、我々は
現時点で大神、大河両家の子供たちは少なからぬ霊力保持しているのは確認されており
研究の進展が待たれる
なお被実験者は全員死亡
「この書類どーする?」「ざっと見たがたいした内容じゃないし捨てっちまおうぜ」
最終更新:2012年09月29日 15:52