396 :taka:2013/02/07(木) 14:50:40


フトゥーロ運河に集結していたベルカ公国海軍艦隊は、まさに艦隊戦闘への布陣へ移行していた。
今まさにこちらへと牙を剥いて接近している、新鋭空母「ケストレル」を中心としたオーシア第三艦隊を迎え撃つ為だ。

予想を超えるベルカの執拗な反攻に、バードリアン・ラインの突破はおろか『解放』した南ベルカの都市の幾つかを取り戻されてしまったオーシアの焦りは募っていた。
再三の増援を送ったにもかかわらず、戦線はジリジリとした膠着状態にあり、この戦争に否定的だった国々の圧力は迅速な戦勝が遠離ると同時に強まっている。
この思わぬ事態を打開する為に、オーシア軍は『戦域攻勢計画4101号』を発動。
ベルカ公国海軍の海上戦力及び拠点の壊滅、フトゥーロ運河の封鎖と大規模輸送ルートの確保に乗り出した。
開戦以来オーシアの輸送路を神出鬼没に強襲し、少なからぬ損害を与えていた邪魔者を完膚無きまでに殲滅し制海権の確保と明確な勝利を得る為に。

「始まりますな提督」
「そうだな参謀長」

ベルカ艦隊旗艦である空母ニヨルドのブリッジで、老年の男は傍らに控えている参謀長に告げた。
空母を取り囲むようにして展開している護衛艦隊。そして頭上を幾つもの航空部隊が通過していく。

「南では幾らか押し返してはいるものの、オーシアはまだ健在だ。
 開戦以来幾つかの海戦で勝利を得てもあれだけの戦力を揃えて向けてくる」
「はっ、しかしながら我等も上層部の計らいにより、主力艦隊を万全の形で迎撃へと持ち込めました。
 加えて、陸上からの航空部隊も艦隊攻撃及び防空支援へ参加しております。……それに」
「それに、例の無敵のエースコンビが我が艦隊の防空に当たっている、か」
「はい、ハードリアン・ラインからの一斉反攻、南ベルカ解放戦に置いて比類無き活躍を見せております。
 艦隊との共同作戦は初めてとの事ですが、鬼神と渾名された彼らが参加する事で将兵達の戦意は漲っております」
「ふふ。戦局すら引っ繰り返すと言われてる彼らの腕前を直に見られるのは幸いと言うべきかな?」

提督は目を細めて、窓の外の空を次々と過ぎっていく友軍機の群れを見やる。
こうしていると、まるでかつて旭日旗が翻る空母艦隊を率いていた頃の事を思い出す。
こちらには彼が心棒した皇室も、命に替えてでも守ると誓った神州も存在しない。
異邦の地で海軍士官へと成長した頃に記憶を取り戻し、途惑っていた彼を救ったのはよりにもよってあの組織の面々だった。
彼らは日本を取り仕切っていた頃と同じく、このベルカ公国を表と裏から支配していた。

(まさか、こちらでも連中に組み込まれ扱き使われるとは思わなかったがな)

相変わらず苦労の絶えない感じな友人や、こちらでも列強相手に立ち回ってる財務省の魔人の顔を思い出す。
有り得ない、転生と呼ばれる奇跡が我が身に起きてこそ、本当の意味で男は彼らの理解者となったのだ。

「全く、賭け事は好きだがこうも振り回され続けると刺激的過ぎるよ。
 連中と付き合っていると退屈とは程遠い人生を歩めるものだな」
「提督、如何なされましたか?」
「いや、何でもない。参謀長。Z旗を挙げよ」
「はっ」

空母のマストに、高々と4色の旗が掲げられる。
そして、全回線を開いた提督の演説がベルカの全将兵の耳に届けられた。

「我ガベルカ公国ノ興廃此ノ一戦ニ在リ、各員一層奮励努力セヨ」


ベルカ戦争における転機の1つとされる、大海戦の火蓋が切って落とされたのである―――。

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最終更新:2013年02月10日 18:45