521 :taka:2013/02/11(月) 15:50:16


ベルカ連邦:ベルカ公国タウブルグ丘陵

国土全体を見渡せる丘陵の上に、ソレは建造されていた。
【史実】よりも拡張され超高層化された砲塔。
【史実】よりも発電能力が強化された発電施設がまるで円を組む様に砲塔の周りに配置され。
地下に敷設された送電線は、隠蔽された変電所とリンクしていた。

防術型化学レーザー兵器 エクスキャリバー THE EXCALIBUR

聖杯(カリス)計画に置けるプランB。
大気圏内に突入した大型隕石の破片を融解・蒸発させる役割を担う人類を守護する宝剣。

「プロジェクトの進行は順調かなドクター?」
「はい、順調です。ご指示の通り、出力上昇及び射程の拡大に努めております」
「そうか……では、そのままプロジェクトを進行してくれ。国防総省や一部空軍の派閥は我々の方で押さえておく」

開発本部の会議室。
進捗状況が印刷された書類を読んでいる財務省の高官、そして空軍参謀長に対し開発責任者であるアントン・カプチェンコは尋ねた。

「やはり、開発を一時中断し攻撃用として転用せよとの圧力ですか?」
「ああ、君も知っているだろうが、南ベルカ戦線における反撃は必ずしも万全ではない」
「前日の海戦で敵旗艦である空母を撃沈し、第三艦隊を追い返せたのは僥倖だ。だが、それで戦局が劇的に一変する訳でも無いのだよ」
「ある程度取り返した南ベルカでもオーシアが更なる増援を戦線に貼り付けた事により膠着化している」
「何時天秤の向きが変わってもおかしくない状態だ。彼らが焦りこの聖剣をオーシア軍に向けたくなるのも理解は出来る」
「では、何故拒否をされたのですか」

先月大佐に昇進したアントン・カプチェンコの問いに、2人は苦笑を込めて答えた。

「連中の侵攻の所為でカリス・プランの進捗が遅れている。プランBまで遅れたらユリシーズの迎撃に悪影響を与える危険性があるのだ」
「プラン〝Υ〟に至っては関連施設の一部が爆撃された為に、計画そのものが中断している。全く頭の痛い事だよ」
「それにね、ドクター。この聖剣は人に向けられてはいけないと思うのだよ」

参謀長が会議室の窓から見える砲塔へと目線を向ける。

「一度人に向けて抜いてしまえば、カリス・プランはオーシアが猜疑心を膨らませた様にただの超兵器たる軍事兵器になってしまう」
「そしてその威力を見た国々までも疑念を抱けば、カリス・プランは破綻を迎えてしまう。そうなればユリシーズは誰にも止められん」
「ドクター、いや、アントン・カプチェンコ大佐。この聖剣は、エクス・キャリバーは希望でなくてはならないのだ。それが、例え建前であっても」

視察を終えた2人が本部を去った後、アントン・カプチェンコは今も尚増設を繰り返しているエクス・キャリバーを見上げた。
今回のオーシアにおけるベルカ侵攻は、彼にとって国家を幻滅させるに充分過ぎた。
僅か数年足らずでやってくる巨大隕石。人類の文明すら壊滅させかねない事態。
それにも関わらず世界の覇権という名のパイを奪い合い人は争い続ける。
確かにオーシアがカリス・プランに脅威を覚えたのも事実だろう。
だが、同時に【ベルカが隕石迎撃により世界の主導権を握る】事に対する嫉妬と危機感があったのも間違いないと彼は考えていた。
首尾良くベルカ侵攻が成功裏に収まっていれば、今頃この聖剣は【オーシアが世界を救う為の聖剣】と呼ばれていただろう。
そしてそれは、アントン・カプチェンコが現存の国家の枠組みに対し憤慨と失望を覚えるのに充分だった。

「だが、それでも私は……」

それでも彼が何も行動を起こさず。
技術顧問として愚直にカリス・プランを推進したのは。

「この危機を人類が乗り越えた時。国境を超えた力が結集した時」

ベルカが分の悪い戦争に対峙しても尚、人類救済という大義をかなぐり捨てなかった事。

「人類が更なる世界を構築出来ると信じたいのだ」

そして何より、彼自身が新しい世界を自らの目で見、その門を開きたいと願ったからだ。
安易なリセットと言う名の再構築ではなく。更なる進化と前進という形で。

アントン・カプチェンコは、ふと、聖剣の周りをかつての愛機で飛びたくなった。
そうすれば、自身の身が風となり、新しい世界を切り開く聖剣を導けるような気がしたからだ。

「そうだろう……我が王よ」

聖剣は、今はまだ、大佐の言葉には応じなかった。

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最終更新:2013年02月16日 21:29