752 :taka:2013/02/23(土) 13:52:21

北部ベルカの景勝地。
山間に佇む別荘のテラスに男達の姿があった。
この別荘はかつてのベルカ騎士団の山城を改装してあり、持ち主が由緒正しいベルカ貴族である事を示していた。
事実、所有者は伯爵家の家柄であり、政財界に無数の人脈を持つベルカの要人だった。

「エイギル艦隊を要しての牽制、ありがとうございました」
「とんでもない。あなた方の健闘があればこそ、大統領も強行姿勢に踏み切る事が出来たのです。
 あの国に対し正面から威圧をかけることはとても勇気が要る事なのです。
 ベルカ連邦のオーシアに屈しない姿勢こそが、我が国の国民を動かしたのです」
「恐れ入ります。我が国も漸くオーシアに奪われていた南ベルカを奪還しました。
 北部戦線も膠着化した以上、如何にオーシアの大統領が強硬論を唱えてもこれまで通りとはいきますまい」
「左様ですな。ユークトバニアもベルカとエルジアに歩調を合わせるとの事。
 ベルカでの戦勝を挙げられなかった以上は、もはや戦争を継続するだけの意味を持ちません」
「では、そろそろ停戦協議の方へと?」
「はい、貴国とユークトバニアを介してオーシアとの協議を打診しております。
 先月までは強気でしたが第三艦隊の敗北と南ベルカ占領地帯の失陥が堪えたようです。
 加えて停戦派がマスコミを利用して厭戦を煽っているようです。与党側は沈静化へと躍起になっているようですね」
「そうですか……このままいけばオーシアの根負けになるでしょう。
 このまま、いけばの話になりますが」
「解っております。オーシアにしてもこのまま敗北すれば世界の前で恥を晒した挙げ句非難の矢面に立つ訳です。
 何かしらの打開を考えてきてもおかしくはありません。であればこそ、早急に停戦へと持ち込まねば」
「承知しております。彼らが暴走すれば世界中に更なる悪影響を与えるでしょう。
 近日中に我がエルジアからオーシアへと公式の非難決議を出す予定です。
 その際に停戦協議への打診を公式に要請いたしましょう」
「重ね重ねありがとうございます。貴国の援助、ベルカは決して忘れません」
「いえ、こちらもカリス・プランで大陸の防備を援助して頂いております。
 ユリシーズの脅威を共に打ち破る同胞として支援を惜しむつもりはありませんよ」
「そう言って頂けると嬉しいですな……お、そろそろ夕食の時間です。食堂の方へ移りましょうか。
 この山地で獲れた鴨肉のローストと我が家秘蔵のワインを使用したワインソースは絶品ですよ」
「おお、それは楽しみですな! 私、ベルカワインには目がありませんので」


晩餐の後、別荘の主……灰色の男達の1人は書斎のPCで他のメンバーに連絡を取っていた。
エルジアの使者の歓待が成功した事と、彼が持ち込んできた停戦協議への下地に付いての報告である。
他の外交担当メンバーからもユークトバニアからの使者から停戦協議への打診が出た事が報告された。
当初の予定を完全に覆されたオーシアが尚も戦争続行に拘るのであれば、この二カ国からの圧力は欠かせない。
エストバキアもこの停戦協議には乗り気だとの報告も出た。今の所、外交努力は順調であると言える。
このまま、いけばの話ではあるが。

秘匿回線での会議を終了し、プライベート用の画面へと切り替える。
メールが着信しているのを見て目を細めた。このアドレスは娘のものだ。
彼の家は自立志向が強い為か長男(実業家)と次男(陸軍大佐)からは仕事以外の連絡はない。
こうしてプライベートでどうでもいい連絡をしてくるのは娘ぐらいなのだ。
メールを開き内容を確認した彼は、少しばかり驚いてしまった。
あの娘に彼氏が出来た様なのだ。近々紹介したいとまで言ってきている。
器量好しで文武両道をこなす自慢の娘であったが、なかなか浮いた話が出て来なかった。
婚約や見合い話にも興味を抱かず、大学を卒業したかと思えばパイロットになってしまった。
更に戦地まで行ってしまった時には全力で止めたものの、空軍の広報部を抱き込んで手が出せないようにされてしまった。
プロパガンダ放送で娘の姿を見る度に肝が縮む思いがした。
戦いは優位に進んでいるものの、娘にもしもの事があればと気が気でならなかった。
なので、彼は寧ろ大喜びで返信した。是非にその人に会ってみたいと。
その事で娘がもう少しお淑やかになれば尚良しと思いながら。

……数日後、娘とその思い人に出会い、男が世界の狭さにあんぐりと口を開け卒倒する事になるのはまた別のお話。

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最終更新:2013年02月24日 20:46