647 :tala:2013/02/18(月) 15:39:22
目の前で繰り広げられる戦いに、ドミニク・ズボフは口の端を歪めた。

『よーし、状況を開始するぞお前等。普段通りの禿鷲の狩りだ。
 逃げ腰オーシアが居たらケツへ穴を余分にこさえてやれ! この空にゃ、勝者しか残らねぇ!!』

ざっと見た感じの数では、敵はまだまだこちらより多い。
主力が北部に回されたとはいえ、流石はオーシアと言うべきか。
ブリーフィングで説明はされていたが、本気で性懲りもない連中だと思う。

(しかし、運の無い連中だぜ。あの程度じゃ、こっちのバケモノ共を押さえる事なんざ無理だろうなぁ)

つくづくオーシアじゃなくてベルカに雇われて良かったぜと思っているズボフの耳に無線が混然と雪崩れ込んできた。

『ロト1より各機へ、敵編隊へ突入する。南ベルカ空域での借りを返すぞ!』
『グリューン各機、射出装置をグリーンにしろ。今日はカーニバルだ、他の連中に出遅れるなよ』
『インディコ1より各機へ、目標を確認した。攻撃を開始せよ』
『ペリカンより戦闘機隊へ、こちらも仕事を開始する。オーシアの連中の頭を押さえててくれよ』
『ゲルプ1、これより戦闘へ突入する。ゲルプ2、何時も通りだ。遅れずについてこい』
『了解です隊長』
『Ω11、エンゲージ!』

いやいや、これはまた騒がしいと思っているズボフの上を、メビウスを描いた蒼いリボン付きのラプターが通過する。
それに随伴する灰色と基調とした迷彩と黄色いカラーリングのSu-37には、鷲座が描かれていた。
彼らは鋭い飛行雲を交互に描きながら、競い合う様に敵機の群れへと突入していく。

『この間言っていた賭をしよう。俺が勝ったら俺の誕生日にプレゼントを贈ってくれ』
『…………ああ、構わんが。俺は……そうだな。新しいギターを贈ってくれ』

相変わらずヤバイ機動を描く2人だとズボフは思う。
ますますをもって他の浅はかな傭兵連中みたくオーシアに付かなくて良かったと思う。
彼は空に血の雨が降り注いだとされるジトミル制空戦で生き延びた猛者である。
他の空軍で雇われていた時にも要求以上の結果を出し、他者にも、自分にも強者である事を示していた。

(だけどよ、あんな1個飛行隊が凝縮されたヤツなんて絶対に相手したくねぇよ)

事実、既に敵機の編隊は崩されつつあり、無線の混雑が尚更酷くなってきた。
今日はあの糞忌々しい損耗戦、自分の何かを壊した戦い以上に派手な空戦になりそうだ。
体勢が崩れたオーシア軍部隊を狙うべくシュヴァルツェ隊を移動させているズボフに新しい無線が着信する。

648 :taka:2013/02/18(月) 15:39:56
『こちらガルム2、花火の中に突っ込むぞ!』
『ガルム3、了解。今日こそ汚名挽回してやりますよ!!』
『こぞー、そーいう台詞は敵機に追い回されない様になってから言え』
『へっへっへっ、実は秘策があるんすよ。今日は敵機が後ろに食いついたらそれが其奴の最後です』
『……何かやったのかお前?』
『実はゲルプ隊の隊長さんに秘策を授けて貰いましてね、俺の機体、ミサイルが全部後ろ向きになってるっす』
『……全部ってお前、敵機の背後を普通にとった時、どうやって攻撃するつもりだ?』
『……………………アー!!』
『Ω11、イジェクトする!』

一部、アホな会話があったものの、決戦は苛烈を極めていく。
シュヴァルツェ隊はバケモノエースの様な圧倒的さや華々しさはない。
だが、確実にそして的確にオーシア軍を仕留めていく。
隊列を崩され離散した部隊を包囲して狩り、戦意が萎えて及び腰の機体を容赦なく撃ち落とす。
やってる事は義勇兵エースやベルカンエース達から見れば下劣な戦いだろう。
だが、ズボフの卓越した戦略眼は、オーシアの弱体化した部分を見抜き其処を確実に撃ち抜く。
華々しい戦いだけが戦場ではない。彼らのような戦いかたもまた空の戦い方の1つなのだ。

ズボフは逃走しようとするオーシアの戦闘機に撃ち落とし辺りを確認する。
既に敵機の残余は撤退するか地上に落ち、周囲には味方機しかいない。
最早、禿鷹である彼らがあやかる獲物は居ない様だ。
部隊の損害は損傷二機、今回も上手く立ち回れたようだ。

管制機から勝利が告げられ、爆発的に歓声が上がった。
中にはベルカ公国国歌や連邦国歌を歌い出すものまで出ている。
ズボフは溜息を付き、酸素マスクに隠れた口を軽く歪めただけだった。
二番機に味方で落ちたヤツが居るか聞き、名を知っている連中の殆ど(Ω11除く)が無事だと知り更に口を歪めた。

「ああ、いいねぇ。俺も、俺達も、あいつらも、こうして生き残れたって訳だ。
生きている限りこうして空を飛ぶしかねぇ。強いヤツってのはなかなか死ねないもんだしな」

地上には無数に黒煙が上がり、空に勝者の機影と敗者が残した黒煙の名残だけが残る。
勝って生き延びた者達からすれば壮観だろう。だが、確かにここは地獄だった。

「一生地獄で生きていくしかねぇんだ。まあ それも強者の証さ……。お前達もそう思うだろ?」

ズボフは周囲で編隊を組み直しているエース部隊へと問いかけた。
無線を介してないので彼らからの返事は当然なく、ズボフは普段通り食えない笑みをうかべただけだった。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年02月24日 20:53