716 :taka:2013/02/22(金) 12:51:23

その日、PJはついていなかった。
人生初のイジェクトを味わう羽目になってしまったのだから。
しかも、落ちた場所が南ベルカとオーシアとの国境線近く。
漸く南ベルカの都市群を奪還したものの、戦域が広がりすぎてやや息切れ気味なベルカ陸軍。
国境線まで叩き返されたものの、本国からの大赤字覚悟の増援で幾らか息を吹き返したオーシア陸軍。
この2つが入り乱れている戦区に降下してしまったのだ。
運悪く、オーシア軍の勢力範囲だったようだ。

当然、パラシュートで落ちてきたPJは地上に居たオーシア軍兵にも目撃された訳であり。
パイロット狩りと言わんばかりに、辺りにはライフルを手にした歩兵やらジープやらがウロウロしていた。

「くっそー、決戦で傷無しだったのに小さな空戦でケチが付くだなんてなぁ」

敵機を一機撃墜して快哉を叫んだ直後、あまり口を開かないサイファーの警告が飛んだ。
必死に操縦桿を引いて直撃は回避したものの、機体は酷い損傷を受けイジェクトせざるを得なかった。
そして周りは敵兵だらけ。空戦技術は自信はあったものの、陸兵相手にスニーキングするだなんて訓練には含まれていなかった。

(ひょっとして俺詰んだのかなぁ……やだなぁ、変なのに捕まって撃ち殺されたりは)

そんな事を考えていたPJは、後ろから静かに拘束された。
反射的に叫ぼうとした口は、いつの間にか押さえられていた。

「静かに、敵じゃないよPJ。俺だよ俺」
「…………その声、ひょっとしなくてもΩ11か?」

ここで脳裏に過ぎった事が1つ。自分が落とされる2分ぐらい前に、通信でお馴染みの言葉が聞こえたのをPJは思い出した。

『Ω11イジェークト!!』

……そう言えば、こいつも墜ちていたんだっけ。PJは何となく納得した。
しかし、状況は全く好転していない。仲間と落ち合えたのは良いが、相変わらず敵兵だらけなのだ。
どうしたものかと頭を悩ましているPJを余所に、Ω11は小さな声で囁いた。

「大丈夫だPJ、俺が何故何回イジェクトしても無事に帰って来られるか……それを教えてやるよ。エネミー・ラインの飛び越え方をな」

その日、PJは内心では馬鹿にしていたΩ11の意外な一面を見る事になる。
オーシア軍が捜索の為に投入した軍用犬の鼻を誤魔化し見事切り抜けたのだ。

「数が多い割には勘の悪い軍用犬だ」

運悪く補足された敵1個分隊を非常食についていたフォークとナイフだけで昏倒させ逃げ切った。

「お前らは俺をイジェクトさせた。この代償は解ってるんだろうな?」

他にも機関銃に撃たれながら冷たい川を横断したり、老夫婦の家にこっそり泊めて貰ったり。
何度も敵歩哨にニアミスしながら敵中を四十キロ突破した……のだが、方向が逆だった。
途中でPJが方角を間違えてしまったのだ。

「もう駄目だ、歩けないよ……」
「諦めるな、あれを奪ってベルカ側に戻るぞ! あれならひとっ飛びだ」

直線状の舗装道路を利用した野戦飛行場に、小型偵察機が駐機してあるのを2人は窺っていた。
周りにはオーシア軍がウロウロしているが……あれに賭けるしかない。

717 :taka:2013/02/22(金) 12:52:26

結果、Ω11が大立ち回りを見せ、PJが十数回ほど命の危険に直面した結果。
2人は見事偵察機を乗っ取り、ベルカ側への逃亡を開始した。
離陸時に機銃で撃たれまくり、後々で通報を受けたのかオーシア軍の戦闘機に追いかけ回された。

「くそ、操縦桿がもう効かない、もうやばいぞ!」
「まだだ、まだイジェクトには早い!!俺の勘がそう告げている!!」

……と、まるで嬲るように偵察機を追い回していた戦闘機がいきなり針路を変更して逃走し始めた。
その一機に光線が突き刺さり、撃ち抜かれた戦闘機はあっさり爆散してしまった。
偵察機の横を駆け抜けていく赤・白・黒のカラーリングを施された異形の戦闘機。
それは、逃げていく敵機の編隊にミサイルを発射。数発のミサイルは広域で炸裂し、残りの戦闘機を一瞬で撃墜してしまった。

「すげぇ……」
「つ、つーかアレガルムのエンブレムだ! サイファーかピクシーが助けに来てくれたんすよ!!」

大喜びする2人を余所に、その戦闘機は旋回した後で偵察機に真っ直ぐに向かってくるではないか。
……とてもじゃないが、こちらを歓迎している雰囲気でない事に気付いた直後、Ω11が叫んだ。

「やべ、IFFがオーシアのままだ!」

戦闘機の背中に搭載された兵装ユニットが煌めいた瞬間。

「Ω11イジェークト!!」「PJイジェークト!!」

偵察機をレーザーが撃ち抜く直前、2人は偵察機からベイルアウトした。

その後、パイロット(ピクシー)に対し散々PJが愚痴ったりしたものの2人はベルカ陸軍に救助された。
生還したPJはその後、とても短い期間ではあるものの、Ω11に対する態度に一目置いたそうだ……。

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最終更新:2013年02月24日 20:56