138 :名無しさん:2013/03/06(水) 14:37:48
皆さんの反響にお応えして、とりあえず仕上げました。
『総統閣下と愉快な仲間たちinEU』なネタSS第二弾です。

前回忘れていた注意書き。
※この作品は休日氏のネタ「宿敵(とも)時空を超えて」にインスパイアされて当方が製作したネタSSです。


ネタSS「シベリア侵攻」


キャフタ市北方数十km地点。見渡す限りの視界いっぱいに、鋼鉄の海嘯が大地を覆って進軍していく。
推定兵力は総数100万強。枢軸会議の予想どおり、大清連邦がE.U.(ユーロ・ユニバース)ロシア州
シベリアへの侵攻を開始したのだ。これより数日前、突如として王蟲の群れよろしく押し寄せた常識
はずれの大軍を前にキャフタ市を始めとする国境付近の町の警備隊は降伏する暇も無く呑みこまれていた。

「なんとまあ…前の世界ではイワンどもの戦車を潰してまわるのが仕事だったのに、まさか今度は
よりにもよってそのイワンを守って戦うことになるとはねぇ」

夢幻会が知る「史実」においても、E.U.枢軸会議が「第三帝国世界」と呼称する世界においても1940年代の
東部戦線でチート級の活躍を見せ「空の魔王」と恐れられた戦車撃破王、ハンス・ウルリッヒ・ルーデル
は、旋回する自機のコクピットから見える光景よりも、むしろ自分が置かれた状況に呆れていた。

彼にとってスラヴ人とは常にゲルマン民族の生存圏を脅かす憎き蛮族、のはずだった。それがどうだろう、
この世界に来てみればロシアはドイツと同じE.U.に所属する「味方」どころか「身内」になっている。
正直彼としては「どうしてこうなった?」と首を傾げたいところなのだが、この世界で再び出会えた
敬愛する総統閣下の「よいではないか。今や見ようによってはこのE.U.全域が我らの生存圏となったとも
言えるのだから」という言葉や、この世界で新たに迎えた妻(奇しくも『史実』の二度目の結婚と同じ、
年下の妻である。もっともこの時の結婚相手との歳の差は11と比較的普通程度だったが)の存在から、
最近ではあまり深く考えることもなくなっている。もっとも、こうして眼下に広がる膨大な数の
敵軍ではなく、それに押されて今にも崩れそうな友軍こそがロシア人であるという状況を前にすると、
さすがにやはり違和感が先に立つが。

ちなみに、この世界での彼の本来の所属はドイツ州空軍である。その彼がロシアの空を飛んでいるのは
なぜかというと、枢軸会議が「E.U.の総体的な軍事力強化の一環」としてE.U.首脳部に圧力をかけ
作らせた「E.U.統合航空戦術研究団」に「技量優秀のため」出向し、「訓練」の名目でシベリアに赴任した
という事情だったりする。同様にして多数の転生エースたちがこのシベリアの土を踏んでおり、彼らは
大清連邦軍の国境突破から一日を経ずして防戦に参加していた。今のところはまだ“現地の判断”という
ことになっているが、後数日もすれば正式に命令が下るはずだ。下で崩壊寸前のロシア州軍にしても、
バイカル湖岸での共同演習を急遽切り上げて現在こちらに向かっているモーデル中将(この世界ではまだ
元帥にはなっていない)率いる「ドイツ州軍第一特設任務部隊」(演習のための臨時編成。実質
一個師団)を始めとする数個師団が応援に入れば一息つけるだろう。

「さて、それではこちらも行かせてもらおうか」

思考を切り上げ、降下に入る。独ソ戦前半にソ連軍の戦車相手に何度も飽きるほど繰り返した急降下では
なく、滑るような緩降下。だが、それで充分だ。なにしろ翼下に吊るした対地ミサイルは、爆弾と違い
己で敵戦車に飛び込んでくれるのだから。

「うん、まずは上々だな」

ミサイルが数機のガン・ルゥをまとめて鉄屑に変える。僚機も同様に攻撃を開始したらしく、地を覆う
清軍のそこここに土色の花が咲く。と、機体ががくがくと振動する。対空砲火を受けたのだ。…だが、
ルーデルは動じなかった。当然だ。紙装甲のJu-87に乗っていた独ソ戦当時ならともかく、今彼が搭乗
するのはその戦訓を取り入れて戦後に誕生した攻撃機、それをさらにこの世界で再現した機体なのだから
(もっとも、彼のことだからそもそも大して対空砲を恐れているわけではないが)。

139 :名無しさん:2013/03/06(水) 14:39:25
たった今自機に銃弾を浴びせた敵を粉砕すべく地上を探すと、E.U.のパンツァー・フンメルや敵KMFの
大多数を占めるガン・ルゥよりは精悍な印象を与えるKMFが、こちらにライフルを向けているのが見えた。
すかさず機首をそちらに向ける。

(…あれが、猿どもの新型機とやらか)

俊敏に動き回って逃れようとする相手を、こちらも細かい機動で照準に捉え、この機体最強の武器の発射
ボタンを押す。連続した轟音が響きわたり、一瞬、機体そのものが僅かに減速する。――不届きなKMFは、
照準機の向こうで大地に穿たれたクレーターを残して木っ端微塵に消し飛んだ。

ハインケルHe-300「クレーア(烏)」。7tに達するペイロードと機首の30mmガトリング砲の組み合わせで
「第三帝国世界」でも多くのゲリラや正規軍を震え上がらせた「死の翼」である。…なお、余談ではあるが
前世界において、姿かたちにいたるまでソックリな攻撃機を同時期にロールアウトした極東の某列強筆頭国
を牛耳る人々は「まさか、ドイツもA-10モドキを出してくるとは…」「魔王がいるんだから予想できない
話じゃないだろ、それにハインケルは史実でも似たようなレイアウトのジェット戦闘機を作ってたし」
「どっちにしろ魔王がアレに乗ってくるとなるとますますドイツとの直接対決はまずいぞ、こりゃ」と
陰でこっそり騒いでいたとかいないとか。

次々と地上部隊を屠り、血祭りに上げる攻撃機部隊をめがけて清の第五世代戦闘機S-20が編隊を組んで
逆落としに襲いかかったのはその時だった。ルーデルや僚機は機体を滑らせて危うくかわすが、一機が
避けきれずに被弾し煙を吐いて離脱する。

「くそっ、こうなると単座なのが恨めしい…」

後部座席にヘンシェルやガーデルマンが乗っていた当時の心強さを思い出し(ロースマンは役に立たない
ので華麗にスルー)ルーデルは歯噛みした。なにしろクレーアは口さがないものに「ドイツ版シュトルモビク」
と揶揄されたほどの重武装、重装甲と引き換えに、速度性能や運動性はあまりよくないのだ。後部機銃が無い
以上、戦闘機が来れば完全にいいカモである。

太陽が翳り、また来たかと身構えつつ上空を見上げた視界を横切って戦闘機が飛んだ。逆光の中でも機体に
描かれた鉄十字の識別票と、斧と拳銃を構え葉巻を銜えた某ネズミ(なお、この世界にディズニーは存在しない)
のノーズアートは一瞬だったがはっきりと見て取れる。一瞬遅れて、S-20が火を噴きながら横を落ちていった。

140 :名無しさん:2013/03/06(水) 14:40:09
<おい!そこのクレーア、無事か!>

少々乱暴な口調で今の機体から無線が入る。

「ああ、援護感謝する。自分は戦術研究団第一爆撃隊のハンス・ウルリッヒ・ルーデル中佐だ。貴官は
アドルフ・ガーランド中佐だな?」

<ああ、その通りだ…ルフトバッフェ最強の対戦車エース殿を救えるとは光栄の至りだな。戦果を期待する!>

「了解。貴官の幸運を祈る!」

ガーランド機…新鋭のメッサーシュミットMe-595「ファルケ(隼)」は翼を翻し、次の敵に突進していった。
みなまで見届けず、攻撃に戻る。

「戦果を期待する、か…言われなくても、だ!」

…この日ルーデルが撃破した各種地上目標の数は実に数百を数えたとも言われる。それはとりもなおさず、
「的の多さ」を示すものでもあった。


  *   *


「畜生っ、敵が多すぎる!!」

非常時ということで臨時に全部隊の指揮権を強引に預かったモーデルは矢継ぎ早に指示を飛ばし、ともすれば
破綻しそうになる自軍の戦線をぎりぎりの線で保持しつつ、後退させていた。周りを削られて突出した部隊を
下げ、撤退する部分にはブービートラップを幾重にも張り、じりじりと後退を続ける。敵が突出してくれば
砲撃を浴びせて叩き、もっとも危険な敵新鋭KMFに対しては巧妙に配置した戦車や改良型パンツァー・フンメル
の十字砲火で対処する。まさに「火消しのモーデル」の面目躍如と言えただろう。

141 :名無しさん:2013/03/06(水) 14:40:41
――だが、それすらも圧倒的な鉄量を投入した大清連邦陸軍相手には分が悪かった。上空からはルーデル
率いる攻撃機部隊が爆撃をかけているものの、ほぼ焼け石に水。制空権はガーランド、ハルトマンといった
エースの操る新鋭機を以ってしても互角。状況は悪いどころではなかった。

このままではもみ潰される。豪胆さで知られたモーデルが冷や汗をかいたとき、朗報が飛び込んできた。

「部隊長殿!工兵隊より、例の“糸巻き”の準備が完了したとのことです!」

「よしっ、即刻射出させろ。それから、各部隊はイルクーツクまで後退を開始!」

「了解!」

数十秒後、奮戦するE.U.側部隊の一角から奇妙な物体がいくつも清軍めがけて飛び出した。火炎と煙を
後ろに引いて轟音とともに転がってくるソレに清側の将兵は慌てた。

「なんだ、ありゃ!?」「糸巻きのバケモノか!?」

驚いている間にもそれは清軍の中に突っ込み、次々と大爆発して爆風と灼けた鉄片を撒き散らす。――「
第三帝国世界」で追い詰められた英国紳士たちが手を出した英国面丸出しの防衛兵器、パンジャンドラムが
世界線を超えて炸裂した瞬間だった。予想外の攻撃に清側が一時的な恐慌に陥った隙をついて、だいぶ数を
減らしたE.U.側が負傷者を収容しつつ撤退を開始する。

(…後であの変人博士に礼を言っとかにゃならんな)

後退しながらモーデルは、『フゥーハハハァー!』と高笑いを上げるやっかいな“仲間”の姿を思い浮かべた。
「E.U.枢軸会議」を構成する転生者の多くは独伊を始めとした枢軸出身者だったが、一部英・露などからの
転生者もおり…その中にはあのネヴィル・シュートもいたのだった。今回はイギリス州軍に防衛兵器案
として提出した兵器群の試験のため、彼の“作品”たちとともにシベリアに来ている。

この後、モーデル隷下の部隊は清軍の勢いを殺しつつ、バイカルからノヴォシビルスクまでの長い後退戦を
戦うことになる。E.U.側の反撃が始まるまでには、まだ今しばらくの時間が必要だった。

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最終更新:2013年03月07日 21:58