690 :earth:2013/03/20(水) 23:50:46

『遅れた開戦』

 西暦1947年8月16日。
 某料亭で開かれた夢幻会の会合。そこに出席した面々は渋い顔だった。

「いよいよ開戦ですか」
「止むを得ないだろう。アメリカは我々を完全に属国化するつもりだ」
「前の世界から5年遅れとは……皮肉ですかね?」

 海軍大将であり、海軍軍令部総長である嶋田繁太郎は苦笑する。
 第二次世界大戦において遣欧艦隊を率いて縦横無尽の活躍を見せ、独伊海軍に大いに恐れられた提督の顔は固い。

「英ソは?」
「米国の一撃さえ凌げれば、講和を仲介する用意があるとのことです。ただし韓国は米国と連携して我が国の横腹を
突く気のようですが」

 情報局長の田中の台詞に苦笑が広がる。

「連中は世界が変わっても変わらないな」
「判りきっていたことだ。あの小笠原事変の後を見れば、誰もが納得するだろう」

 杉山の言葉に誰もが頷いた。
 大陸国家と化した日本に転生した夢幻会の面々は、色々と勝手が違う中、史実を半ばなぞるかのように動く歴史の荒波を
相手に悪戦苦闘を繰り広げていた。
 夢幻会は帝国の主導権こそ握れなかったが、先人達の多くの努力もあって、それなりの成果を挙げていた。しかし満州事変と
その後の小笠原事変で日本の歩みは後退することになった。
 米国は満州事変を声高に非難し、太平洋艦隊を日本近海に派遣したのだ。夢幻会の平成を知る人間達は、あまりに過激な
米国の行動に驚愕した。しかしそれはアメリカにとっては当然の行為であった。太平洋の向い側にある『大陸国家』が、露骨に
覇権を拡大して大陸市場を独占しようとしているのだ。その危機感は大きかった。
 米太平洋艦隊が来襲する以上、日本側もこれに対抗すべく海軍主力を出撃させた。
 そして両国の艦隊は小笠原事変でにらみ合うことになった。そして悪天候の中、偶発的な戦闘を切っ掛けに両艦隊は戦火を交える
ことになった。海軍軍人たちの多くは米太平洋艦隊を第二のバルチック艦隊同様にしてやると息巻いたが……結果は惨憺たるもの
でしかなかった。
 連合艦隊は米太平洋艦隊相手に手痛い敗北を喫し、日本はアメリカに頭を垂れるしかなくなった。そして日本の苦境に付け込む
ようにソ連や中国まで参戦し、日本は満州利権を失い、朝鮮と樺太も失った。

691 :earth:2013/03/20(水) 23:51:28
 この戦い(極東事変)の後、敗戦の責任を取らされてパージされた守旧派に取って代わり、主導権を握った夢幻会はボロボロに
なった日本の立て直しに奔走することになった。
 調子に乗った半島住人に苛立ちつつも、敗戦から日本を辛うじて立て直した上で、WW2の勃発によって発生した特需を利用して
夢幻会は日本の国力を一気に強化した。さらに連合国として欧州大戦に参戦することで国際的地位を回復することに成功した。
 極東事変の影響で、植民地兵並という評価を受け、屈辱に耐えつつも東西両戦線に部隊を派兵。現地で実際に戦果を出すことで極東事変
での悪評を払拭しイギリス、ソ連との関係も強化した。
 前回、イギリスに裏切られた経験が忘れられない面々もいたが、贅沢は言っていられなかった。
 そしてWW2末期ではドイツ人捕虜を厚遇することで、ドイツ人の日本人に対する心象をよくし、少なくない優秀なドイツ軍人と技術者
を確保して戦後世界を生き抜くための帝国軍再編を図った。

「まぁお荷物の大陸から足抜けできただけでも良しとしよう」

 日本を再度、列強の地位に押し上げた名宰相として名を馳せた近衛は、夢幻会の会合の席で『極東事変』をそう評価した。
 しかしこのWW2でソ連が被害を受けすぎたことでアメリカ一極支配が確定的になったことが、日本の将来に暗い影を落とした。

「これからアメリカの時代だ!」

 そう粋がるアメリカ人にとって、極東事変で痛めつけたにもかかわらず復活した日本は邪魔者以外の何者でもなかった。

「黄色い猿が生意気な」

 小笠原事変での連合艦隊をボコボコにしたことで自信を深めていたアメリカは小ざかしい日本の完全な属国化を図るべく
日本に様々な圧力を加えてきた。
 そしてこれに極東事変後に独立した韓国や、台湾の奪還を狙う中国国民党が同調する。尤も中国は極東事変のようにアメリカの
勝利が確実になってから本格的に動くツモリで、当面は韓国を唆して日本を牽制するつもりだった。
 だが今回ばかりには日本も簡単に負けるツモリはない。

「米海軍に、日本海軍の底力を見せてやります」

 嶋田は自信満々にそう言い切った。
 WW2に参戦してから建造した翔鶴型4隻、大鳳型2隻、そして極東事変での敗北の結果、建造できなかった飛龍と蒼龍の名前を
引き継ぐ大型空母2隻、そしてジェット化された航空隊とチートなドイツ軍人の強力も得て日本軍の航空戦力は大幅に増強されている。
 強化されているのは航空戦力だけではない。水上打撃部隊も再建されている。大和、武蔵、信濃の大和型戦艦3姉妹は強力な
存在感を放っており、切り札として温存していた誘導兵器の分野は日本はアメリカを圧倒していた。
 そして最後にアメリカが日本を舐めて情報が駄々漏れになっていることと、アメリカの一人勝ちを快く思わないソ連が情報を提供して
くれていることも日本にとって大きなアドバンテージになっている。

「まさかソ連を当てにするはめになるとは」

 多くの人間は苦笑したが、利害が一致する以上は問題なかった。
 こうして西暦1947年。復活した連合艦隊とアメリカが誇る無敵艦隊による史上最大にして、最後の艦隊決戦の幕が開ける。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年03月24日 20:12