178 :ぽち:2013/04/06(土) 10:24:00
憂鬱西南戦争   第七話


「おい才槌  ”獣牙衆”を集めておけ」
「いかがなさいましたかな」
「そろそろ決着がつきそうなんでな 最初は薩摩人なんぞ見捨てようとも思ったが思ったより使い勝手がいい
 なにより見捨てても心が痛まない馬鹿さ具合にほだされた
 討伐軍の首領連中を殺すぞ」
「承知いたしました」
「まあその前に・・・・・・・俺目当てのお客さんがくるだろうが、な」


一月二十九日
政府軍本隊前衛 一万四千と薩摩軍一万一千が激突する
薩摩軍は最低年齢を引き下げ、最高年齢を引き上げ鹿児島からそれなり程度ではあっても戦えそうな者を根こそぎ連れて来て数をそろえた

「でやああああああ!」「けりゃああああああああ!」
”猿の如く文字に表す事あたわず”と称された示現流の叫びが戦場を駆け巡る

「撃て!撃てぇ!」バンバンバン
”百姓ごとき”と揶揄された政府軍兵士の放つ銃声が響き渡る

「りゃあ!」薩摩兵の刃が銃身にて受け止められる
「食らえ!」そのまま銃を突き出す 銃の先端に括り付けられた刃が薩摩兵の腹部を貫く
「くそがぁ!」別の薩摩兵の振り下ろした刃は粗悪な材質の銃身を両断し、そのまま政府軍兵の額を切り裂く


「気に入らん」
「なんが気に入らんとじゃ?桐野どん」
「俺ら薩摩隼人はこの後江戸まで行き政府を詰問すっとが目的じゃ
 そいでそん後朝鮮、清とのゆっさで先陣を切り最後まで戦い続けるもののふじゃ
 そんな俺らがたかが百姓風情相手に互角っちゅーは気に入らん」
「まだそんな事言っとっとか」
「篠原どん」
「ここまで消耗してしもうた俺らは江戸どころか長門までもたどり着けんじゃろ」
「ならば俺ら薩摩隼人は百姓を百人、二百人と斬ればよか!」
「その後どうなる?百姓を斬りつくしてしもうた俺らに他所の百姓が従うとは思えん」
「なら従わん百姓は斬ればよか!」
「桐野どん・・・・・・・・・ん、なんじゃ?」
「神楽かなんかか?戦場で歌が聞こえっとじゃ」

179 :ぽち:2013/04/06(土) 10:24:53
「さあみなさん、今こそ歌を鳴らす時です!」
「楽しそうですな山縣さん」
「これまでどれだけ吾らが薩摩っぽどもに気を使い顔色を伺い怯えながら政府を運営してきたことか・・・・・・
 その忍従の日々が今日ここで終わりを告げるのです!
 さあ奏でよ我等の勝利の楽曲を!」

♪ とんとんとんからりんと隣組 まわしてちょうだい回覧板

「違う!その曲じゃない!」

♪宮さん宮さんお馬の前にヒラヒラするのは何じやいな トコトンヤレ、トンヤレナ
  あれは朝敵征伐せよとの錦の御旗じや知らないか  トコトンヤレ、トンヤレナ

「あ・・・・・・・あれは・・・・・・・・」
「錦の御旗・・・・・・・」
「俺らが朝敵じゃと?」

その旗、その歌はかつて官軍の先頭で戦ったという薩摩兵の誇りを打ち砕くものだった
「あ・・・・・・あああああ」
「俺が・・・・・・俺らが朝敵?賊軍?」

その楽曲とともに薩摩軍は一歩、二歩と下がり始めていく
「おんしら逃げてはいかんとじゃ!」
「踏みとどまれ!戦え薩摩の誇りにかけて!」

辺見十郎太、米良一之助といった首領格の者たちの怒号でかろうじて食いとどまるも
逃げ腰で、つい半刻前の勇猛果敢さはすでにどこかへ消え去っていた

「うおおおおおおおおおお」
「落ち着け」
「うおおおおおおおおおお」

180 :ぽち:2013/04/06(土) 10:28:29
「落ち着くんだ近藤さん」
「これが落ち着いていられるか歳よ かつて我らは誠の旗の元、京を守り志士を名乗る夜盗どもと戦い続けた
 敗軍となるも徳川様が早くに負けを認め、われ等を守ってくださったおかげで追われる事はなかったにしろ
 誇りを踏みにじられたみじめな、実にみじめな十年を送っておった
 だがしかぁし!いま我ら新撰組は官軍の一員として戦っておる!
 これを感動せずにいられようか!」
「まあその気持ちはわかるよ 俺ももう若いとはいえないこの歳で血の滾りが押さえられん
 いってくるぞ」
「おう   なあ歳よ    壬生の・・・・・・・京の日々を思い出すなぁ」
その言葉をかけた近藤勇に、ふっと笑って彼は・・・・・・土方歳三は馬を進め前線へと赴く
「永倉!藤堂!佐之!ついて来い!   烈風!ここにありぃぃぃぃぃぃぃ!」
「歳、それはちょっと違うぞ」



雨の降るよな鐵砲の玉の來る中に     トコトンヤレ、トンヤレナ
命惜まず魁するのも皆お主の爲め故ぢや トコトンヤレ、トンヤレナ

「ふん、あんな歌と旗一指し程度にビビるかよフツー」
「志々夫さま、ここは失礼ながらビビらないほうがおかしい、とまで申しませんが希少かと」
「そんなもんかね」
「幾人か送ってあの旗燃やしますか?」
「いや、こっちにもお客が来たようだ」

みると、小高い丘の上から彼らを見下ろす男一人
「ひさしぶり・・・ちゅうんも違うの はじめまして、というべきかの志々夫さん」
「坂本・・・・・・竜馬ァ」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2013年04月07日 11:28