43 :高雄丸の人:2013/07/30(火) 00:01:27
それでは投稿します。
注意!
ラスボスは知波単。まほさんも知波単。

『両チーム。隊長、副隊長、前へ!』
その言葉を合図に、左右へ別れた集団からそれぞれ二人の少女が歩み出てくる。
片や通常のセーラー服に身を包む、この大会のダークホースたる存在の「大洗女子学園」。
もう一方はカーキ色を基調とする腰丈のコートを羽織る、大会優勝の最有力候補として名高い「知波単学園」。
大会決勝戦を前に、両校の代表が顔を合わせる。
「お久しぶりね」
コートを羽織った少女、西 絹代は対面した大洗女子学園の生徒に話しかける。
話しかけられた少女、西住みほは絹代に対して会釈をした。
「かわいい後輩だけれども、負けてあげる義理はない」
「ッ、はい」
絹代は優しい笑みを浮かべたまま、彼女にそう語った。みほはそんな彼女の言葉に、一瞬緊張に顔を引き締める。
戦車道西住流の教えである、「勝利のための犠牲の容認」を受け入れられなかったみほにとって、絹代は
自身の考えを理解してくれた当時数少ない大切な存在だった。
そんな彼女からでた言葉は、絹代とみほがかつてとは違う「敵対関係」であるという現実をみほに突きつけるものだった。
「本日の審判長、蝶野 亜美です。よろしくお願いします」
そんな両者の間に、帝国陸軍大尉にして決勝戦審判長を務める女性が入る。彼女の名乗り出に、
両校代表4名は彼女に頭を下げた。彼女の後ろには、3名の審判が待機している。
「両校、あいさつ!」
その言葉に、代表同士が目線を合わせて一瞬の静寂があたりを包む。
「よろしくお願いします!」
真っ先に言葉を放ったのはみほだった。そして、それに続くように出場選手全員が同様に頭を下げ、
あいさつを行う。全員が頭を上げたところで、亜美は両代表を見る。
「では、試合開始地点に移動。お互いの健闘を祈るわ!」
彼女はそう言って、背後に立っている審判たちの下へと移動する。
「・・・行くぞ」
「はい」
知波単学園の隊長である西住まほは、振り向きざまに副隊長である絹代へ言う。それに応答し、絹代は後ろを向く。
しかし、そのまま足を止めた。
「ここまで来た以上、あなたたちの実力は本物でしょう」
そして、絹代は足を同じく止めていたみほの方へ首を動かす。
「でも、私たちにも意地があるのよ。本気で叩き潰してあげるわ」
そういうと絹代は前に向き直って、知波単学園の陣へ向かう。
絹代の後姿を、みほは言葉を発せずに見送る。そして幾分か顔を引き締めて、みほは振り返って自らの陣へ
歩き始める。その時――
「待ってください、みほさん!」
みほは振り返った。彼女を止めたのは、かつて彼女が助けた水没しかけた九七式改の車長を務めた少女だった。
その少女を見たみほは、驚きからか目を見開いた。
「あの、あの時はありがとう。あの後、みほさんが居なくなって、ずっと気になってたんです。私たちが迷惑、かけちゃったから・・・」
少女はつらそうな表情で、うつむいていた。しかし、幾分か元気を取り戻した表情で顔を上げる。
「でも、みほさんが戦車道辞めないでよかった」
「私は、辞めないよ」
その言葉にみほは一瞬驚き、そして笑みを浮かべた。そして、かつての仲間である二人を見守る二人。一人はみほを慕う
秋山 優花里、もう一人は絹代。敵同士の二人ではあったが、話し込む二人を見るその目に、何ら違いはなかった。
「みぽりん!」
「行きましょう!」
みほの仲間たちが、彼女を呼ぶ。楽しい会話をする時間は、終わりを告げたのだ。
「あ、うん!」
みほは彼女たちの声に、それまでの笑みをさらに深めて頷き、答えた。


44 :高雄丸の人:2013/07/30(火) 00:04:04


「相手はおそらく、火力にものを言わせて攻撃してきます。その前に有利な場所へ移動して、長期戦へ持ち込みましょう」
自陣へ戻ったみほは、仲間たちを前に作戦を話す。かつての引っ込み思案な姿はそこには全く見られない。信頼する仲間たちと
ともに戦い続け、大きく成長した彼女は今や、チームの大黒柱として堂々たる態度を有していた。
「相手との開始地点は離れていますので、すぐには遭遇することはないと思います。試合開始と同時に、直ちに207地点へ移動
してください」
そういうと、一瞬みほは仲間たちを見渡した。
「それでは各チーム、乗り込んでください」
「「「「「はいッ!」」」」」
それぞれのメンバーが、自分たちの愛車へと進む。みほはその後ろを進み、それぞれの戦車を見て回る。そして、自分たちの
愛車の前へ到着した。
「・・・頑張ろうね」
そういって彼女は、小豆色に塗り替えられた車体に手を置いた。すると、そばから一本、二本と彼女が車体においた手の上に、
別の掌が置かれていく。驚いた彼女が顔を上げると、彼女の周りには、彼女とともに戦車に乗るメンバーたちがそろっていた。
「みんな・・・」
見渡したみほに、普段からあまり表情の変わらない冷泉 麻子以外の面々は勇気づけるかのように彼女に微笑んでいた。
「・・・行こう!」
「「「「おう!」」」」
そんな仲間たちに勇気づけられたみほは今再び、仲間たちと一つになった。


「これより決勝戦だ」
一方の知波単学園。試合開始を前に隊長であるまほが、こちらでも無線機を介して仲間たちへ作戦の指示を行っていた。
「相手は初めて対するチームだが、決して油断はするな。まずは迅速に行動せよ。かつて一木陸軍中佐は言った、
『弾幕こそ力である』と。東条陸軍大将は言った、『綿密なる連携は、軍の根幹にして勝敗を決める最たる要因である』と」
三式中戦車のキューポラから上半身を出して、首に巻かれている送信機を操作する彼女は、ただ試合の場となる前方を見据えていた。
「・・・行くぞ!」
普段よりも幾分か力の入った声で、まほは言った。そしてまるでそれを合図とするかのように、試合開始を告げる信号弾が上がった。

大洗女子学園でも、試合開始の合図である信号弾を確認した。姉と同様に、キューポラから身を乗り出していたみほもまた、無線機を
介して仲間たちへ命令を送る。
「パンツァー・フォー!」
彼女の言葉とともに、大洗女子学園の戦車が一斉に機動を始める。エンジンの爆音と、履帯が奏でる金属音があたりを埋め尽くす。
当初の横一文字の布陣から次第に、中央が前へ突出するV字型の陣形へと移る。いまだに見えない敵影だが、みほは姉も、
いや知波単学園もまた、同様の陣形へと移って自分たちへ向かってきていることを半ば確信していた。
「西住殿」
砲塔側面に取り付けられている装填手用ハッチから身を乗り出した優花里がみほへと話しかける。
「よかったですね。仲間を助けた西住殿の行動は間違ってなかったんですよ!」
その言葉に、みほは驚きを顔に浮かべる。そして前へと顔を向け直す。その表情は柔らかいものだった。
「同じ言葉を、西先輩にも言われたよ。今でも、本当に正しかったかどうかはわからないけど。でも、あの時私は助けたかったの、
チームメイトを。だから、それでいいんだよね」


45 :高雄丸の人:2013/07/30(火) 00:06:45


「こちらはあんこうチーム、207地点まであと2km。今のところ、知波単の姿は見えません。ですが皆さん、
油断せず気を引き締めていきましょう!交信終わります」
「あれ、なんか話し方変わりました?」
「ほんと、余裕を感じます」
「え、本当?プロっぽい!?」
「・・・全然プロっぽくない」
「ひどい!なんでそんなこと言うの!?」
みほが直接率いる戦車チームであるあんこうチーム。仲間たちは緊張を感じさせない、いつものペースを
維持していた。会話の内容に、みほは笑みを隠せなかった。
「・・・だって、アマチュア無線だし」
麻子のそんな言葉に、彼女たちは笑い合う。
だが次の瞬間、彼女たちの戦車に至近で弾着による振動が襲いかかった。そしてその様は、ほかの
大洗チームの戦車からも視認できた。
<なにぃ!?>
<もう来た!?>
<嘘ぉ!?>
予想よりも早い接敵に、受信機から戸惑いの声が聞こえてくる。みほはあわてて双眼鏡を取り出すと、
知波単学園の出発地点の方向へと向ける。
そこには敵影は見えない。彼女はそこから右手側へと首を動かすと、そこには森のある場所から発砲炎が見えた。
森の数か所から光が点滅する。九七式中戦車が木や茂みに隠れているのを発砲炎の陰に見える。
砲撃を避けるように、大洗チームは陣形を崩して分散する。しかし、砲撃はさらに苛烈さを増してきた。特に、着弾間隔こそ
長いものの、通常の戦車砲よりも大きい爆発が起きると、狭く視野の狭い車内にこもる少女たちの恐怖心を煽る。
「いきなり、猛烈ですねッ」
「すごすぎる・・・」
「これが、西住流・・・!」
あんこうチームの面々も、奇襲と言ってもいい、予定よりも早い敵の攻撃に驚きの声を上げた。しかしみほは、砲弾が
降り注ぐ中もキューポラから身を乗り出したまま周囲を確認し、指示を出す。
「各車両、可能な限りジグザグに走行して前方の森に入ってください!」
彼女の指示を受け、大洗の戦車はそれぞれ左右に不規則に機動を行い始める。その光景を見て、知波単学園も攻撃を
苛烈にし始める。
「全車、一斉攻撃!」
池田 夏海の指示と彼女の愛車である、『士魂』の文字が書かれた九七式中戦車の砲撃に合わせるように、森の中から
知波単の戦車がさらに発砲する。
「先輩、2時方向に敵の旗持ちです!」
「良し!妹さんには悪いけど、一気に決めるよ!」
夏海の言葉に、後輩である砲手が砲塔を回転させて狙いをつける。
一方の大洗はというと――
「いや硬!入んない!」
「ゲームだと簡単に入るのに・・・」
先頭を走る大洗のアリクイさんチーム、操縦手のももがーは戦車のシフトチェンジに苦戦していた。
もともと、このアリクイさんチームの面々はオンライン戦車ゲームのプレイヤーであり、戦車道の履修どころか操作すら
おぼつかない面々だった。彼女たちがゲームでの知識が現実を伴わないという事実を、身をもって学んでいる頃。
「旗持ちに照準!」
「次弾装填完了!」
「撃ち方はじめ!」
知波単、夏海の九七式がフラッグ車であるあんこうチームへ照準を合わせた。そして、発砲するその寸前――
アリクイさんチームは必死になってシフトチェンジを行っていた。そして、ようやくにして変更できたのはよかったが。
「あれ、バックしちゃったよ?」
彼女たちの戦車は全速力で後退を始めてしまった。だが、ここで怪我の功名ともいうべき事態が起きる。
あんこうチームを狙った65口径76.2mm砲の射線に彼女たちが割り込む形となった。彼女たちの戦車に砲弾が
命中する。想定外の事態とその衝撃で彼女たちは近くのものにしがみついた。砲弾の命中した戦車は衝撃から
車体を大きく揺らして跳ね飛ばされた。
車体の揺れが収まると、砲塔から戦闘不能を示す白旗が上がった――

次回!ガールズ&パンツァー、「激戦です!」

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最終更新:2013年09月02日 00:57